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06:ポンコツマギナの仕打ち

ジャンル別日間ランキング45位に入っていました。皆様のお陰です。


もっと面白いものが出来るように頑張っていこうと思います。


 あくる日。

 桜香る並木道を通り、週末にでも花見しようと考えていたところにギルドマスターからの呼び出し。せっかくの気分が台無しにされる。


 何かしたか、と勘繰(かんぐ)り深く考えるが何もしてはいなかった。

 そう、俺は。



「これについて弁明はあるかしら」



 ギルドマスターの部屋に入るなり、紙束を投げ寄せられた。


 新聞。


 時代遅れな代物だが、いまの世の中にはなくてはならないものとして再定着したマスメディア。それを見ろと言われる。


 一面には、昨日の秋葉原のパラズメア事件。被害状況も書かれてあった。

 死亡者十二名、重軽傷者多数。警察殉職者数二十四名。

 Tier4パラズメアの被害だと考えれば抑えられたほうではないだろうか。


 事実『自警団の迅速(じんそく)な対応もあり、被害は最小限に食い止められた』という言葉が目立つ。

 ただ、警察や自警団を悪者にしようとする否定的な意見も掲載されているが、いつの世の中もマスメディアはこんなものだろう。


 そう思って新聞を投げ返すと、またそれを投げられた。

 次は思いっきり椅子から立ち上がってだ。五面を見ろということらしい。


 渋々ページをめくる。あいかわらず大きくてめくりにくい。もう少し立ち読みする人も気持ちも考えて欲しいものだ。

 虚空(こくう)に向かって無駄な文句を言いつつ、目的の生地にたどり着く。


 苑には『山の手線緊急停車。犯人は自律型マギナ』という見出しがあった。


 酷いことする奴もいるな。飼い主の顔を見てみたいわ、と感想を述べる。

 すると、不機嫌だったギルドマスターの顔が般若のような表情に進化した。こういったのだ。



 鏡でも見たら、と。



 なにを言っているか分からなかったが、言われたとおりにしないと後が怖かったので、大人しく部屋にあった姿見に近づいていく。


 少し青みがかかった瞳。

 乱雑に、でも一定の法則性をもって生えている短めの髪の毛。

 目鼻立ちも上品にまとまっており、肌の色も白過ぎず黒過ぎない健康的な色。


 偏差値七十くらいの好青年がそこにいた。



「いつも通りのイケメンぶりですが」

「そうね。そのイケメンを自称する可哀想な青年が、この事件のマギナの所有者よ」



 その言葉を理解するのに十秒ほどかかった。目の前の女性が何を言っているのか、頭が認知しようとしないのだ。



「ということは――」

「やってくれたわね、永一郎くん」



 くそ、そういう事かよ。あのポンコツマギナは……ッ。


 ここに来て、あのとき双葉が最後に放った言葉の意味を理解した。

 あいつは、自分のしでかしたことの責任をすべて押し付けていきやがったのだ。



「いろいろなところから苦情が来ているわ、あなたに対してね」

「なんで俺なんだよ。やったのは双葉だろう」

「それの所有者でしょう」



 文句に対して、はっきりと正論を返されてしまう。

 昨日双葉にかけた言葉が悪い形で自分に帰ってきてしまった。



「双葉のような自律型マギナはペットと同じ扱いなのは分かっているでしょ。ペットがしたことの責任はその飼い主を負うということは当然だもの」

「それはそうだが」



 彼女の言いたいことは理解できるので納得するしかない。だが、それでも釈然としない気持ちは残り続けた。



「さて、納得してもらえたところで責任を取ってもらいましょうか」

「おい」


 その後に彼女の口から出てきた言葉に嫌な予感が漂ってくる。そもそも納得はしていない。させられただけだ。


 しかし、そんな声も彼女の耳には届いていなかった。



「だってしょうがないじゃない。ただでさえ外聞が悪い自警団なのに、責任能力がないってなったら仕事が激減しちゃうわ」

「なにが『激減しちゃうわ』だ。現状減ってないのに、このくらいでなくなるわけないだろう」



 いままでこの自警団が起こしてきた事件に比べれば、今回のものはまだやさしいほうだった。死人も出ていない。



「いままでだったらそれで済むんだけど、今回は少し事情があってね」

「事情?」



 ギルドマスターの顔に(かげ)りが見え始める。


 もともと肌も白く、背中まで伸びる艶のある黒髪を持つ彼女は薄幸(はっこう)の美少女という言葉がよく似合う。

 そんな彼女が目を泳がせるような表情をすることにより、とても不幸そうな雰囲気を醸し出していた。



「その車両には議会の人間が載っていたの」

「うわ」



 その気になる事情といて出てきた言葉に、思わず変な声を上げてしまう。

 それほどに議会というのは面倒くさいものだった。



「よりにもよって、なんで山の手線なんかに」

「私が聞きたいわよ!」



 苛立ちを紛らわすように頭をガシガシとギルドマスターは()きはじめる。そのまま、荒ぶった声を出した。


 あの死にぞこないの爺どもが、と。



「まあそういうわけで、今回はしっかりと責任能力を見せとかないといけないわけ。マスメディアで悪評を広げられるのも嫌でしょ。ちゃんとやっておかないと、議会寄りの新聞社に叩かれるわ」



 やつれた顔でそんなことを口にする彼女。

 こんな自警団のトップにいるのは、とても苦労の絶えないことだと知っている。


 だが、彼女集めてきた人がほとんどだ。理解はするが同情は出来ない。自業自得だろう。


 そのことはギルドマスターも分かっているのか、ここまで荒ぶっていても文句はほとんど言ってこないし、メンバーに対して怒ることもあまりない。



「それで、どう責任をとればいいんですか。減給? 謹慎(きんしん)? 懲戒免職(ちょうかいめんしょく)は嫌ですよ」

「そんなものじゃないわ。というか、それで済んだら私もここまであれてないわよ」



 そう言いながら、彼女は一枚の紙を渡してきた。

 そこには『護衛の募集』と大きく見出しが書かれており、勤務時間や給金などが書かれてあったがこれがひどい。


 勤務時間はほぼ二十四時間。給金は最低賃金。こんなもの誰がやるのかって話だ。


 絶対やりたくない仕事。

 だが、彼女がこのタイミングでこれを見せてきたということは、そういうことなのだろう。



「あなたへの罰は、それの参加および完遂よ。政府主導に依頼だし、評価点もいい。悪くはないでしょ」



 得意げに喋りながら、後ろの備え付けられた窓から外を見る彼女。

 絶対そうは思っていないだろう。


 そもそも、



「俺が護衛任務嫌いって知ってて、この仕打ちなのか」



 メンバーの趣向を知っているはずなのにこのチョイス。

 悪意しか感じない。



「いいじゃない、たまには護衛任務やっても。好きなものばかりやっていても人間成長しないわよ」

「なら、普通に出回っている護衛任務をするよ。何だ、この賃金は。市民を舐めているじゃねえか。議会のくせに金がないのかよ」

「でも、嫌なものじゃないと罰にならないでしょ。だから、よろしくね」



 いまだにこちらを見ようとしないギルドマスター。何か後ろめたい雰囲気を感じる。


 これは何かあるな。



「……もしかして、俺をダシにランクをあげようとしているな」

「な、なんことかな。べべべ、別に私にとって自警団ランクなんて二の次だし。最近それのせいで仕事が減ったり、競合相手に付け込まれたりしてないし」



 ギギギ、と軋むような音を立てながら振り向く彼女。

 瞳は明後日のほうに泳いでおり、声をまた震えている。隠そうとしているが、努力が結果に表れてなかった。



「でも、さっきスルーしましたけど、評価点がどうとか言ってたよな」



 ぴた、との言葉にギルドマスターは固まる。

 彼女に向かって近づいていった。冷や汗がつつっと頬を伝うのを見る。



「です、ね」


「ええ、そうよ。悪い⁉ 私だって苦労しているのよ。あなたたちに毎日のように悩まされ、仕事は激減。回ってくるのは外地周辺の危ないものばかり。国から小言は言われるわ。組合から警告されるわでうんざりなのよ」


「だったら、そう皆に言えばいいでしょ」

「それでみんなが変わると思う?」



 想像してみる。ギルドマスターがそう言った後にどうなるか。

 ――うん。何も変わらないな。皆が同情するだけだ。



「でしょう。なら、しれっとやらせるしかないじゃない。なのにこの勘のいいガキは」



 八つ当たりのような言葉が返ってきた。挙句の果てにガキ呼ばわり。

 二十歳過ぎの男に対して……「なに言ってんだ、このババアは」。



「誰がババアよ」



 間違えて口にだしてしまった。

 だが、あんなクソな依頼を受けるのだから少しくらい大目に見て欲しいものだ。



「とにかく、いろいろな陰謀(いんぼう)が絡み合っているから、永一郎君はこれを受けるしかないの」

「陰謀とか自分で言うのか?」

「そんなことどうでもいいじゃない。ほら、返事は」


「はいはい」

「ハイは一回!」



 徐々に別方面でヒートアップしてくるギルドマスター。さすがにそろそろ引き際かと考え、そさくさと退出を決め込もうとする。

 出ていこうとしても、彼女はまだ何かを言おうと口を開いていたから、それを遮るように声を発した。


 関係のない鬱憤(うっぷん)をぶつけてきた腹いせをしながら。



「じゃあ、それ受けるんでちゃんとまわしといてね。美咲ちゃん」

「ちょっ、誰が美咲ちゃんよ。ちゃんとギルドマスターと呼びなさい」



 誰がってあんたの本名だろう。

 そうツッコミを入れながらギルドマスター室の重厚で高価そうな扉を閉めた。

 その向こうからは、いまだに美咲の奇声が聞こえてくる。


 その声をBGMに護衛のための準備に向かった。


ここまで読んでいただきありがとうございました。


物語の入りも終わり、ようやくここからかという気持ちです。


次回は、お昼頃に更新の予定です。皆様を心よりお待ちしております。


――埋木埋火



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