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05:命の灯が消えるとき


ここまで来ていただきありがとうございます。


みなさん、今日もお疲れ様でした。



「これで最後だぞ!」

『知っています』



 指示されたとおりに頭に向けて発砲した。

 パラズメアは今までと同じようにガードしようとするが、思うように手が動かなかったようで間に合わない。

 双葉はこれを狙っていたのだ。


 すぐさま頭に乗り移り、刺さりっぱなしになっている得物の(つか)に彼女は手を伸ばす。

 掴んだ瞬間、パラズメアの周りに青い光が迸った。バチバチ、と音を立てて放射状に広がっていく。


 細い光が地面に走る。

 地面を見てみると、アスファルトの大地がめくれ上がるように穴が開いていた。それはまるで、母なる大地に落ちる雷のようだった。


 双葉を振り落とそうと、頭をぶんぶんと振り続けるパラズメア。

 自分ならすぐに振り落とされそうな勢いにもかかわらず、双葉はずっしりと掴まっている。表情も全く変わらず、とても余裕そうだった。



「ふぅ、終わった」



 その光景を見て嘆息(たんそく)する。緊張のゆるみに、いままでの疲労感が一気に押し寄せてくる。

 今にも座り込みたい気持ちいっぱいだったが、体裁(ていさい)もありそれをこらえる。



「終わったのか」

「ん? ああ、そうだよ」



 その様子を見てか、刑事がおそるおそるといった感じに訊いてくる。

 彼もあの危機的状況から打開できたのかを出来るだけ早く知りたいのだろう。その証拠に、その言葉を聞いた刑事の顔は安堵していた。

 最初会ったときよりも老けたようにも見える。



「あれはなんだ」



 いまだに電気のようなものを迸らせているパラズメアに指をさして刑事が訊いてきた。



「パラズメアの崩壊(ほうかい)現象」


「崩壊現象?」


「聞いたことがないのか」

「いや、聞いたことはあるが実際に見たことは」

「ああ、なるほど」



 はじめはそう質問されたことに疑問を覚えたが、そう言われて確かにと思った。

 話で何度も聞かされても、それを実際に目にしたときに理解出来るかと問われれば首をかしげるだろう。


 この二十年の人生だけでも、そんな経験がいっぱいあった。



「詳しいことは専門家に聞いて欲しいが、簡単に言えばパラズメアの本体のエネルギーが放電している状態というのがいいかもしれない」

「放電?」


「ああ。普通にあいつらを倒しても、それは寄生先の宿主を壊しているだけであってパラズメア本体を倒している事じゃない。ほら、ヤドカリだって貝を壊されても本体は死んでないだろ。そんな感じだ」



 なるほどといった表情で刑事は頷く。それに気分が良くなり、さらに話の先を続けた。



「じゃあ、本体を殺せばいい話だけど、あいつら実態がほとんどないからどうしようもない。でも、生命体だということは分かっている。なら、エネルギーを放出させて餓死させればいいじゃないかって話だ。エロ本でサキュバスとかに搾精(さくせい)されて死んでいく感じと一緒か」

「それと一緒にされたくはないな」



 例えが生々しすぎて引かれてしまった。ごほん、と話を戻すために咳払いをする。



「考えたのは誰か知らないが、意外と物理学者や化学学者じゃなくて生物学者じゃないのか。平和な時代だったならノーベル賞をもらっていただろうな」


 実質的になくなってしまった世界的賞に思いを馳せつつ、自分の考えを述べる。

 そのことに興味津々の刑事だったが、もう語れることは何一つ残っていない。その旨を伝えると、露骨(ろこつ)に残念な顔をされた。

 彼は懐古(かいこ)なところもあり、もしかしたら知識の虫なのかもしれないな。



「あともう一つ聞いてもいいか」

「どうぞ」


「俺の記憶が正しいと、お前たちの武器は主の言うことを聞くって習った気がするんだ。でも、あの嬢ちゃん、双葉っていったか? あいつはお前の命令を聞いているそぶりがなかった気がするがどういう事なんだ」



 痛いところを突かれたと思った。

 たしかに双葉たち――自律型マギナは主の命令をある程度きくように設計されている。だが残念ながら、双葉がこっちの言うことを聞いた記憶は一度たりともない。



「俺が知りたいよ。でも、結果は残しているからいいんじゃないか。クソ呼ばわりはされるけど」

「まあ、そうだな」



 刑事とお喋りに興じていると、視界の端に映っていた青い光が徐々におとなしくなっていく。

 命の灯が消える瞬間が一番美しいと言わんばかりに、ふわっと最後の光が周りを包んで消えていった。


 ばたん、と倒れる(むくろ)

 人でありパラズメアであった骸。

 さらさら、と砂丘で砂が流れるように消えていく。時が流れていく。



「死体は残らないのか」

「これが人ならざるものっていわれる一番の原因かもな。俺たちはあまり遭遇したことはないが、感染者の身元調査ができないって知人が文句言っていたよ。人じゃなくなるっていう考え方も、そこを楽にするためものかもしれないな」


「そうか……」


 しんみりとした雰囲気がおっさんとの間に流れる。居心地は悪くない。


 だが、そんな雰囲気を破壊しようと迫ってくるやつはいた。



「大の大人二人で何をやっているのですか、こっちが大変な思いをしている合間に」



 全てをかたづけた双葉がこちらに歩いてくる。

 その手にはナックルダスターとナイフが融合(ゆうごう)したような武器があった。曲芸師みたいにクルクルと回している。



「俺たちはお前が来る前に大変な思いをしたからいいんだよ」

「あいかわらず横暴です。労基に訴えますよ、クソ主様」

「お前は俺の持ち物だから訴えても意味ねえよ」



 早く事後処理やるぞ、と声をかけながらそのクレームをいなす。

 新しく警察が来たり、そのあとに事情徴収をされたりしてようやく解放された。面倒くさかった。


 これだから公的機関は嫌なんだよ、と文句をたらたら言いつつ帰路につく。



「私はあなたの持ち物でしたね」

「それがどうした。またろくでもないこと考えてんのか」

「それでは、持ち主としての責任は取ってくださいね。クソ主様」

「はあ⁉ どういうことだよ」



 自警団事務所に入る間際にそんなことを言われる。


 このとき、こいつがいったい何を言っているのかまったくもって理解できていなかった。ギルドマスターから呼ばれるまでは。



「やってくれたわね、永一郎くん」



 くそ、そういう事かよ。あのポンコツマギナは……ッ。


ここまで読んでいただきありがとうございました。


ひとまずは一段落といったところですね。


次回は、明日の朝に更新の予定です。みなさんをお待ちしております。


――埋木埋火



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