04:グロッグとガバメント
とうとう、評価をもらうことができました。本当にありがとうございます。
これからも、もっと多くの人に楽しんでいただけるようにがんばります。
「に、にいちゃん、空から女の子が」
「知ってるよ」
怒髪天を貫くかというように癖のある髪をツインテールにしている少女。
その色は、赤と表現するにはいささか鈍い。緋色と表現するのが正しそうな髪の毛は、まるで彼岸花みたいに広がっていた。
「くっ」
苦悶の声が少女の口から漏れる。予想以上に暴れるパラズメアに件の人物は振り落とされたのだ。
さっと受け身を取る少女は、こちらまで下がってくる。
「遅かったじゃないか、双葉」
「どこかのクソ主様のせいで路頭に迷いましたので……。それで、あれが駆除対象で間違いはないですね」
「ああ、間違いない」
こちらに一瞥もくれることなく淡々としゃべりだす少女。
勝気そうな釣り目をジトっとさせながらそんなことを言ってくる。それも、身に着けたグレーのショートパンツをぱんぱんと手で払いながら片手間にだ。
あいかわらず態度が悪い。
「にいちゃん、それがあんたの武器か」
そんな様子を見てか、刑事が口をはさんできた。
「そうなるな。双葉だ、よろしくしてやってくれ」
「あ、ああ」
納得できてなさそうな表情の刑事。
それもそうだ。いきなり空から女の子が降ってきて、挙句の果てに『俺の武器』なんて言われたら納得なんて出来るはずもないだろう。
俺も出来ないと思う。
さらには、その服装の奇抜さがそれを助長しているというおまけつきだ。
黒のノースリーブタートルネックに袖ニットのアームカバー。
ショートパンツにショートブーツ。
服から覗く肌はとてもまぶしいものだが、自然ではありえない髪の色やミステリアスに存在している左目の泣きボクロが話しかけにくい雰囲気を醸し出していた。
そんな毅然とした様相をした少女に小言を言うため口を開く。
「それにしても、なんで上から降ってくるんだよ。普通に来れただろ」
「なんとなく、飛びたかった気分でしたので」
自由奔放な態度に頭を抱えた。
そのせいでこっちがどれだけ苦労したかも知らないのだろう、こいつは。まったく、頭が痛くなってくる。
そうやって頭を抱えている合間に、目の前のパラズメアは態勢を整え終わっていた。
合間を見て自動拳銃のマガジンを抜き、残りの弾数を確認する。
カーネルの残りは十二発。心もとない数字だ。
「そんな骨董品のような銃を使っているから時間稼ぎしかできないのではないですか」
「そんな銃言うな。武器は基本骨董品だろうが。なにか文句でもあるのか」
「いえ。ただ、グロックを使うくらいならガバメントでも使ったどうですか、と進言しているのです。9ミリは時間稼ぎしかできないですが、45口径なら行動不能には出来たのではないですか、クソ主様」
双葉にいたいところを突かれた。
たしかにカーネルは質量が重ければ重いほど威力が上がる。グロックとガバメントでは質量に約二倍の差があり、それによってもたらされる結果は明確に違う。
だが、仕方がないのだ。
グロックとガバメントでは、本体の重みも違うし大きさも違う。装弾数も打った直後の跳ねあがりも雲泥の差だ。
使いやすさを優先した結果なのだ。
「そのせいでこんなことになっていますが」
「ナチュラルに心の中を読むな」
「申し訳ございません。読めてしまえますので反応してしまいました」
「――おい、危ない!」
言い争いをしていると、もう待ちきれないといった顔でパラズメアが襲いかかってきた。その目は、冬眠前のヒグマのようにギラギラとした目つきに変わっている。
「最低でもガバメントを携帯してくれさえいたならば、あんな気持ち悪い瞳で見つめられることはなかったのですよ」
「最低が45口径とか頭イってんのか」
文句を言いつつも、素早くパラズメアの脳天めがけて発砲する。しかし、奴も学んだのかすぐさま腕でガードされる。
残り九発。
「ほら、いまのもガバメントなら吹き飛ばせたでしょう。これだからグロッグは」
「そろそろ無駄口叩いてないで戦え」
「いま手元に得物がないので無理は出来ません」
「はあ⁉」
双葉からの衝撃のセリフに対して素っ頓狂な声を出してしまう。
いやいや、イヤイヤイヤイヤ……ッ。
「お前、自分の武器はどこやったんだよ」
「Castorはメンテナンスに出しています。Polluxは一本は奴の脳天に、もう一本は諸事情により落としました」
「……」
言葉が出なかった。
口の悪い救世主が来たと思ったら武装してないときたもんだ。
本当に、女の子が空から降ってきただけじゃねえか。どうすればいいんだ。
「まあ、どうにかします」
「おい、ちょっと待てって。せめて作戦でも――」
こっちの話を聞かずに双葉は飛び出していった。
武器もなしにどうやって立ち向かうんだよ、あのバカは。ほんとにAIか⁉
このまま苦情を漏らし続けてもどうしようもない。こうなったら、双葉の援護をするしか方法はなかった。
「ああ、もうっ」
敵に真正面から突っ込んでいく双葉。その行為は、もはやカモがネギをしょって走っている状態だった。
ねぎまにでもなりてたいのか、あいつは。
双葉に迫りくるパラズメアの腕をカーネルではじいていく。
双葉は、そうしてくれることを分かっているかのような雰囲気で進んでいく。足を止める様子はない。
残り七発。
ちらっ。
双葉が視線を送ってきた。その瞬間、彼女の考えが脳裏の流れ込んでくる。
四肢、股、胸に一発づつ。
「くそ。どうなっても知らねえぞ」
残りの弾数が頭によぎりつつも、双葉が無事でいるためにはそれを行うしかない。
あいつは、それをしてくれる前提で動いているからやるしかないのだ。
六発分の発砲音が響く。パラズメアの身体を順番に捕らえた。
右腕、左腕。
右足、左足。
股間、胸。
着弾した順番に弾がはじけ、やつは激しく後ろに下がった。
『私のジャンプを合図に奴の脳天めがけて発砲をお願いします』
またしても頭の中に直接双葉の考えが流れ込んでくる。
相変わらずこれには慣れない。日常とは違う感覚にさらされる。気持ちが悪い。
酔いそうになるのを必死にこらえていると、双葉がパラズメアに肉薄する。
同時に四肢や身体の要を吹き飛ばされた奴の動きは鈍い。それを見越していたかのように、双葉は限界まで近づいていく。
……――ジャンプした。
「これで最後だぞ!」
残り零発。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
徐々に主人公を中心に物語が動き出していきます。お楽しみ下さい。
次回は、夕方ごろに更新の予定です。また来ていただけると嬉しいです。
――埋木埋火
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