プロローグ
マコト君がこっちに向かって歩いて来る。一歩、また一歩。彼の足取りは軽く、輝くような笑顔は彼を照らす太陽に負けず劣らず眩しい。一歩、また一歩。彼の歩みと私の胸の鼓動がシンクロする。サワサワ。彼と私を結ぶまっすぐな道に生えている草花も、彼の歩みに合わせて上下している。どうやら彼は人間の私だけでなく、植物さえもトリコにしてしまうようだ。一歩、また一歩・・・。ふと、彼の歩みが刻む心地のよいリズムが止んだ。気がつくと目の前にはマコトくんが立っていた。「サトコちゃん。」マコト君が甘い声で私の名前を呼ぶ。「なあに?」私の顔はこれでもかと綻んでいる。「好きだ。」ほどよい間を持たせた後にマコト君が言った。すると、私の心の中を写すかのように花びらが舞い、小鳥たちが歌い、蝶が踊り出した。まるで夢のようだ。ずっと好きだったマコト君が私に告白してくれたのだ。まるでユメのようだ。こんなに幸せなことがあってよいのだろうか。まるでYumeのようだ・・・・。ん?夢?なんだか夢という言葉が妙に引っかかる。そう思った時だった。視界が急に暗くなった。暗闇の中でマコト君ではない誰かが私の名前を呼んでいる声がかすかに聞こえる。その声は姿を見せないながらも段々と近づいているようだ。さらにその声が近づき、耳を塞ぎたくなるほどの騒音と化したとき、暗かった視界が急に晴れ、見慣れた花柄の壁紙が視界に入る。そこは紛れもなく私の部屋だった。さっきのことは全部夢だったようだ。私はすぐにそれを悟った。そうだ、夢に決まっているではないか。私は知っている。好きな人と両想いになれるほど世界は甘くないのだ。初恋は実らないのが、この世界の暗黙のルールなのである。そんなことを寝ぼけながら考えていると、先ほどの声の主であるママがとうとう痺れを切らして布団を剥ぎ取るという暴挙に出た。いい夢から目覚めることほど最悪な朝はない。そんなことならいっそ、いい夢なんて見たくない。私はため息をつきながら、布団から出て、カーテンを開けた。今日もまた、やるせない1日が始まった。
私の名前はサトコ。キラキラネームが3人に一人はいるこのご時世では珍しく、昭和っぽい名前だ。もう少しかわいらしい名前が良かったと思うこともあるが、王女様や花愛音とか言う、自己紹介をするときに顔が赤くなってしまうような名前よりはマシだと思い、しぶしぶ納得している。住んでいる場所は、誰しも一度は憧れるであろう街、YOKOHAMAだ。こんなことを言うと鎌倉市民や川崎市民に白い目で見られそうではあるが、出身地を神奈川県ではなくわざわざYOKOHAMAと名乗りたくなるほど、横浜は最高である。歳は6歳、性別は生物学上は女で、今のところ心も女だ。4歳の頃からあおぞら幼稚園に通っていて、あと一年もしないうちに小学1年生になる。「一年生になったら友達100人できるかな」という有名な歌があるが、私は友達を100人作ろうなんて微塵も思わない。信頼できる友達が数人いれば、それでいいのだ。家族構成は、パパとママと私、そして犬のジョンだ。こんな風に自己紹介をしたところで、読者の大半は5分後には私の名前ぐらいしか覚えていないのだろう。なので自己紹介はここで一区切り。これから先は、私のやるせない日々について綴っていこうと思う。
読んでくださってありがとうございます!
初めての投稿なので不安がたくさんですが、ふと立ち止まって考えたくなるような話をたくさん盛り込んでいきたいと思っています!
どれぐらいの頻度で投稿できるか分かりませんが、読んでくださる方が一人でもいれば、投稿は続けるつもりです!
よろしくお願いします(^ ^)