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プロローグ


「青春に呪いは付き物なの」


 織野継音おりのつぐねはそう言った。

 彼女はロングスカートで黒色のゴシックドレスを着ており、真っ黒な髪を腰まで伸ばしている。眠そうにしてる眼の下には隈ができており、そのせいか暗い印象を抱かせる。「魔女みたいですね」と言ったとき、彼女は嬉しそうににやついていた。

 継音はコーヒーを一口飲んで眉をひくつかせると、一旦テーブルに置いて砂糖を入れる。二匙ほど追加してスプーンで混ぜると、両手でカップを持って口に運ぶ。味に安心したのか、彼女はホッと息を吐いた。


「呪いは人の感情が生み出す現象だから、どんな人も無関係ではいられない。善人や悪人、大人や子供、社会人やニート。等しく呪いの影響下にある。ましてや思春期真っただ中の学生が避けられるわけがない」


 久我結弦くがゆづるはスカートを押さえながら、継音の向かいのソファーに座る。ミニスカートのクラシックメイド服。着用したことが全くなかったこの服にも慣れてきていた。


「けどボクは、呪いにかけられてる人なんて見たことありませんよ」

「うん。呪いをかけようとする人はいるけど、呪いにかかる人は滅多にいないから」


 継音はカップを置き、身振り手振りで説明を始める。


「相手を想う気持ちが呪霊を生んでそいつが相手を呪うんだけど、ひと一人が生んだ呪霊は霊力が弱い。ほとんどの呪霊は一晩経つと消えちゃって、相手に何の被害も起こらない。稀に何らかの影響を及ぼすこともあるんだけど、それでもちょっとした病気や怪我をさせるだけで終わっちゃう」

「呪いのせいだなんて思えないですね。被害者も加害者も」

「だから見たことが無いのは当然。分からないから」


 常人には呪霊が見えない。たいした呪いもかけられない。故に呪いや呪霊の話は広まらない。だから誰も呪霊の存在に気づかない。

 ただし、平常時においては、だ。


「けど今は別。この町の《霊源れいげん》が活性化してるから、呪霊が生まれやすく、育ちやすくなってる。強い感情さえあれば誰だって呪える」

「ボクみたいな子供でもですか?」

「むしろ子供の方が呪霊を生みやすい。精神が成熟してない思春期だから、どんな相手でも呪っちゃう。友人や恋人、クラスメイトや教師、果ては……自分自身も」


 感情の矛先は人間だ。身近な友人から遠くの知人にまで呪いは向けられる。己自身も対象の一つだ。

 呪いを掛けられたら、常人にはどうすることもできない。呪いが終わるか、呪霊が自然に消えるまで待つしかない。しかしそれに耐え切っった者はそういない。


「だから継音さんみたいな人がいるんですね。呪いを解いたり、呪霊を祓ったり、呪いをかけたりする人が」

「そういうこと」


 継音は気味の悪い笑みを作り、「フヒヒ」と気味の悪い声を出す。


「それが人を呪い、呪いから人を助ける《呪い屋》の仕事だから」


 その姿は魔女のようだった。


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