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きのこ



少し肌寒い風が心地よく感じる。

かつん、かつん、と靴が階段を一段一段登るたびに響いた、この音は嫌いじゃない。その音はその日の疲れに比例して強く体に響く。

自分が今日どれだけ頑張り、どのくらい疲れたかを教えてくれているみたいだ。


「ただいま」


当然返答するものなどいない。

こだましてただいまと自分の声が返ってくれば少しはいいもののこだますらしない。

本気で猫や犬を飼うか迷った事もあったがここのアパートがそもそもペット禁止だった。

リビングから玄関まで押し寄せてくる勢いで積み上げられたゴミが僕を出迎える。

右手に持ったコンビニの袋の中にあるカップラーメンと酒とツマミも今日の夜ご飯となった後、明日から僕を出迎えてくれる一員となるのだ。


家に帰ってきてやる事と言えば洗濯と風呂に入るだけだ、後は飯を食べて寝るだけだ。

この生活がいつまで続くのか、と頭をよぎる事もあるが改善しようとするような行動は一度としてしたことがない。

やる気のなさや、諦めの早さ、昔から自分の長所と言えるだろう。

また明日、変わらず同じことの繰り返しをするのだろう。

こう思ったのも何度目の事なのだろうか。

僕はラーメンと酒とツマミのゴミを机からゴミ袋に入れるでもなくそのまま布団に入り眠りについた。


そして、朝が来た、今日はいつもと違う朝だった。

冷たい風がダイレクトに僕の体を刺激する。いつもの寒さとは異なって少し雨や泥、草の匂いもする。それは周りからする匂いでもあるが自分自身からもしているような気がする。


何か違う。


起き上がろうとしたがなんだかすでに起き上がっているみたいだった、そして体は動かない。

金縛りにでもあっているのだろうか。ピクリともしない、生まれて初めての金縛りだった。


金縛りってこんな感じなのか…。


少しわくわくしている自分がいた。

そういえば今日携帯のアラームが鳴ってないよな、まだ起きる時間じゃないのか。

時間を確かめようにも確かめることができなかった、体が動かないからだ。


それにしても金縛りというものはこんなに長いものなのか、アラームがまだなってないからいいもの鳴っても金縛りになったままだと会社に遅刻してしまう。

体が動かないまま時間が過ぎていった。


時間が経つにつれてこの状況がだんだん夢の中のように思えて来た、それになぜか昨日の人生丸ごと全てが夢のように思えて来る。

時間が経つたびにその思いは増していった。

おかしいのは今の状況が現実で昨日までの人生が夢のように思えて来るようだった、しかも夢と同じく昨日までの人生が頭の中からかすれていくようで徐々に消えていっているような感じがした。

そして意識もまた薄れていった。


目が覚めた。


これは目が覚めたといっていいのか、何か違うような気もする気がするがさっきまで眠っていたような気がする。

今何時で僕はこの状況になって何時間経ったのだろうか、これもまた夢だとしたらとても長い夢だ。

それにしても清々しい気分だった、呼吸をするたびに自然を感じることができる。それになんだか足元から全身にエネルギーなるもののようなものが流れて来るようなこの感覚はお腹いっぱいとでもいうのだろうか、満足感に浸ることができて最高の気分だ。


時間経つにつれて僕は昨日までの人生の事をほとんど忘れていた、果たしてそれが昨日までの事だったかは定かではないが、そんなことはもうどうでもよかった。


そしてさらに時間は過ぎて行った。

それまでに雨に濡れることも激しい風に当たる事もあったがそれとなく今まで平然と僕はここに立っていた、立っているというか縛り付けられているというかここから動くことができないのだ、あれから僕はずっとここにいる、それもなぜだか苦じゃなかった。

それに目というものがないのか僕は目が開かない、でも何も見えないわけではなかった、どう言えばいいかわからないが感じることができた。

そこに何があるのかがわかった。

そしてあることに気がついた。


僕は一人じゃなかった。


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