憧れの銀ブラ~銀座でブラジルコーヒーを~山之上舞花さんへのクリプロギフト
大晦日。
おせちの支度を終えた私は家族に留守中の注意をして家を出た。家を出ると、ケイが車を停めて待っているじゃない。
「なんで居るのよ?」
「別にいいだろう。それより駅まで送るよ」
「いいわよ。タクシーを拾うから」
「いいから乗れよ」
そう言ってケイは私の荷物を車に押し込んだ。何か企んでいるのかと思ったら駅までの道中も特に会話らしい会話もなかったわ。
「じゃあな。楽しんで来いよ」
「え? ああ、うん」
おかしい! 絶対に何かある。そう言えば、ウチの家族もなんか妙に浮かれていたような…。けれど、そんなことを気にしている暇はないのよ。私は駅の売店でお土産を買うと、そのまま新幹線のホームへ向かったわ。そして、定刻通りホームに入って来た新幹線に乗り込んだの。
東京駅のホームに着いた時、彼が出口で迎えてくれたわ。彼はにっこり微笑んで手を差し伸べてくれたの。
「お疲れ様。荷物を」
「ありがとうございます」
彼は私の荷物を手に取ると、“おいで”そんな表情で歩き出した。私はただ、彼の後をついて歩いたわ。
八重洲口の改札を出ると、彼はタクシー乗り場でドライバーに合図をしてトランクを空けさせた。荷物を積み込みと、開いたドアの前で私に“どうぞ”と言うように乗車を促したの。
「○○ホテルまで」
彼が行先を告げると、タクシーはすっと走り出したわ。銀座の街並みを走る事10分。あっという間にホテルに到着。タクシーを降りると、彼と一緒にホテルのフロントへ。
「本日予約を入れている山之上です」
彼が告げるとフロント係の男性が予約の確認をしてからルームキーを出してくれた。
「山之上舞花様、○○ホテルへようこそ」
私はルームキーを受け取って彼を見たわ。。
「じゃあ、ボクはここで待っているから荷物を置いたら降りて来て」
と、彼。
ルームキーに記された部屋番号を頼りに部屋を探してドアを開けたら…。
「えっ! うそ…」
そこは普通のシングルルームではなくて、俗に言うスイートルーム?一瞬、見惚れてしまって、自分がどこに居るのかさえ分からなくなりそうだった。我に返った私は取り敢えず、身なりを整えて、部屋を後にした。ロビーに降りて行くと彼はソファに座って待っていた。
「お待たせしました」
「これは驚いた。素敵ですよ。では、出掛けましょう」
彼が驚いたのは私がよそ行きのドレスに着替えていたから。これから銀座のレストランで食事ですもの。まさか、来て着たままの服では行けないわよ。だって、彼だってびしっとスーツを着ているんだし。
彼が連れて来てくれたのは5年連続で星を獲得しているというイタリアンレストラン。そこはエレガントで落ち着いた雰囲気のお店だった。
「予約した日下部です」
「日下部様、ようこそ」
接客係の男性に案内されて私たちは席に着いた。
「こんなお店、よく来るんですか?」
「まさか! 舞花さんをご招待するのだから、これくらいのお店でなければ釣り合わないでしょう」
そんなことを言われたら、緊張してせっかくの料理の味が…。どちらかというと、ガード下の一杯飲み屋の方が気が楽だったのに…。
「今日の舞花さんにぴったりのお店じゃないですか」
「でも、ここって結構なお値段なんでしょう?」
「舞花さんと一緒に居られるのだから、安いものですよ」
そうこうしているうちに料理が運ばれてきた。緊張しつつもその味は格別だった。とても美味しいイタリアンのフルコースを私は満喫したわ。
店を出ると、冷たい夜の空気がまとわりついてきたの。けれど、銀座の空気は冷たくてもなぜか温かく感じた。来るときは緊張してろくに見もしなかった銀座の街並みが、今はとてもよく見える。彼はそのままホテルまで送ってくれたわ。
「じゃあ、また明日。今夜はゆっくり休んで10時ころに迎えに来るから」
そう言うと、彼はホテルを後にした。
翌朝。
朝食を頂いてから気合を入れておめかしをしたわ。今日は憧れの銀ブラ。“銀座でブラジルコーヒー”を実施するのよ。私はウキウキ気分でロビーへ降りて行ったわ。
「おはよう、お母さん。明けましておめでとう」
「えっ? お母さん?」
声がした方に視線を向けると、主人と子供たちが。ケイまで。これはいったい…。
「あっ!」
こいつらの昨日の不自然な態度はこれだったのか! でも、まずいわよ。この後、日下部さんが来たら…。私はキョロキョロと辺りを見渡す。
「舞花、どうしたんだい? 日下部さんなら、今日は来ないよ」
「えっ? どういうこと?」
「僕達をここに呼んでくれたのは日下部さんなんだよ」
「うそ~! これって、一杯食わされたってやつ? ところで、いつからなの?」
「11月の始めかな。舞花が日下部さんのクリプロ企画に参加表明した時じゃなかったかな」
張り詰めていたものが一気にしぼんでしまった。まったく、日下部さんったら! でも、素敵なお年玉をありがとう。
「あっ!」
「どうした舞花?」
「せっかく買って来た日下部さんへのお土産、渡すのを忘れてたわ!」