弱くてニューゲーム
初めまして、雨宮白と申します。
この小説は作者が思いつきで書いたものであり、至らないところで多々あると思いますのでご了承ください。
目が覚めたら、漫画やゲームの世界にいる。そんな妄想を男の子なら一度はした事があるだろう。
いや、断言できるわけではないが少なくとも僕は眠る前にいつものようにしている。しかし現実は残酷で、目が覚めて見えるのは僕の部屋だ。
アニメなどで、別の世界に行ってしまい大冒険に出る事になって、可愛いヒロインとよろしくやるなんてものがあるが所詮二次元だ。
しかし、僕は今まさにその状況にある。
(目が覚めたら知らない部屋・・・)
実際に自分の身に起こって見ると言葉が出ないものである。
状況を把握すべく部屋の窓を開けるとそこには見慣れない街が広がっていた。
(嘘やん。これどう見ても昨夜やっていたRPGの世界だ。)
さて、これからどうするか。
普通ならここから冒険に出るだろうが、僕はその辺の奴らとは違う。
(二度寝しよ☆)
どう考えても夢だ。夢なら夢らしく色々とおかしな行動をすべき所だが、あいにく僕はパソコン部所属のぐうたら人間だ。
(起きたら学校かぁ。嫌だな・・・)
そんな事を考えながら僕は布団に潜った。
しかし目が覚めても同じ部屋にいた。
そしておかしな事に僕は気付いた。
(おかしい。軽く数時間は寝たのに日が落ちていない)
窓の外に広がる世界は寝る前に見た状況と変わりがない。
(これはもしや物語を進めて行かなければいけないのか?)
ようやくこの非現実(今現実)の状況のマズさを理解した僕は外に出て見た。
改めて見ると、ホント最初の街って感じの街でなんかワクワクしてきた。道行く人たちは見慣れない服装をしている。僕のような服装の人は誰一人としていない。
(てか僕パジャマやん・・・)
仕方なく部屋に戻り、タンスの中の服に着替えた。幸いな事にこの世界に合った服が中には入っていた。
妙な所がリアルだからもしやと思ったが杞憂に終わったようで何よりだ。今度こそと意気揚々と外に出た。
(確かこのゲームの最初は城の前でイベントをこなさなきゃならないんだっけか。)
そう思い頭の中でマップを展開し城に向かった。結構やり込んでいたゲームだったので迷う事なく城の前に着く事は出来た。
城の前は人でいっぱいだった。
「聞いたか、なんでも王女が魔王に連れ去られたらしい」
「まぁ、なんという事でしょう」
「王様は王女を救い出してくれる勇者を探しているらしいぞ」
「魔王に立ち向かう命知らずなんているのか?」
(ふむ、ゲーム通りだな。って事は僕が勇者として名乗り出て物語を進めていけば良いと)
そう考えた僕はさっそく城門近くの兵士に話しかけた。
「あのー、王様が王女を救い出してくれる勇者を探していると聞いたんですけど・・・」
「ん?なんだいボク?もしかして迷子か?」
イラッ
「王様が王女を救い出してくれる勇者を探していると聞いたんですけど!?」
「あー、その話か。君みたいな小さい子は気にしなくていいんだよ」
さてどうしてくれようか。
確かに僕は16にもなるのに未だに身長は150に到達していないし、小学生で通じるような童顔だ。しかしそれは現実世界での話だ。見た目がこんなでも僕はこの世界の主人公であり、勇者なのだ。
「僕が王女を救い出す勇者です!」
「ありがとねボク。君みたいな勇敢な人が来てくれる事を願うばかりだよ」
(話が通じねぇ・・・)
「いいから王様に会わせてください。さもないと勇者帰っちゃいますよ?」
「気をつけて帰るんだよ」
「さっさと会わせろや」
こいつダメだ。そう思い勝手に城に入って行った。
「コラ!戻りなさいボク!」
無視して走って王室へと向かった。本来であればサクッと王室に案内され王様と話すイベントが発生したはずだ。
しかし、このクソゲーでの最初のイベントは兵士との鬼ごっこだった。
「待ちなさいボク!良い子だから!」
「うるさい!さっさと城門の守護に戻れ!」
マップを脳内で展開しつつ、猛ダッシュで王室に向かい勢いよく扉を開けた。
中はひらけた広い部屋となっており、部屋の両側には貴族と思われる高そうな服を着たもの達がいた。そして部屋の奥の玉座にはいかにも王様って感じの太ったおっさんが座っていた。
「一体何事じゃ」
王様と思われるおっさんが驚いたように声を発した。
さっそく僕が勇者であると宣言しようとした所で先程の鬼が入ってきて邪魔をしてきた。
「申し訳ありません!この子供が自分が勇者であると言い、止めるのも聞かず城内に入ってしまったのです」
「一兵卒が出しゃばるな!僕が勇者だ!」
「ボク!そんな言葉遣いは良くないよ!」
なんだこのモブ。勇者の邪魔をするとはなんて奴だ。
「この子供が勇者とな?少年よ。気遣いはありがたいが、私は本気で娘を救い出してくれる勇者を探しているのだよ」
(どこに出荷してやろうか・・・)
しかし、僕はこの世界の勇者だ。そんな野蛮な事はしない。ここは勇者らしい振る舞いをして認めさせてやろう。
「失礼致しました王よ。しかし私は嘘を言ってはおりません。私こそが勇者であり、王女を救い出す事の出来る人物です」
(我ながら完璧だ。これは勝ったな。)
「おおー。まるで本物の勇者のような堂々とした振る舞い。少年よ。こっちに来なさい」
違和感を感じる言葉だったが、従う事にして王の目の前に向かった。
「こんな小さい子がこのように丁寧な言葉使い、大人のように堂々と振る舞うとは素晴らしい。飴をあげよう」
「有難き幸せ・・・って違うだろ」
ついノリツッコミという高等テクニックを披露してしまった。
「本当に勇者なんです!信じてください」
「しつこい子じゃの。仕方ない、おいそこの者。あれを持ってくるのじゃ」
近くいた兵士に何やら指示を出す王様。
兵士は足早に部屋を出ると、すぐに戻ってきた。戻ってきた兵士の手には剣が握られていた。
「この兵士が持つ剣は勇者にしか抜く事の出来ない剣じゃ。お主が本当に勇者であるならばこの剣を抜く事が出来るはずじゃ」
(ようやくここまでもってこれたか)
通常であれば部屋にきた段階でこのような展開になって剣を抜き放ち、勇者である事を認めさせる事が出来たはずだった。
しかしこのクソゲーはバグが多いようで余計な手間をかけてしまった。
「では証明して見せましょう」
僕は剣を抜き放ち、高らかに掲げて見せた。
周囲から驚きの声が挙がる。
(どうせ抜けないと思っていたんだろ。だがところがどっこい。僕こそが異世界から来た勇者なのだよ)
「まさか本当に・・・?そなたのような子供が勇者なのか?」
「最初から言ってるでしょう。僕が勇者であり、この世で唯一魔王に立ち向かう事の出来る存在だ」
「ふむ、にわかに信じられん・・・」
しつこいなこのポーク。マジで出荷するか?
そう思っていたところでようやく王様の方が折れた。
「失礼したな。そなたこそが勇者で間違いないようだ」
「お判り頂けて何よりです」
「さっそくで悪いが、魔王に連れ去られた我が娘を救い出してほしい」
「お任せください。必ずや王女を救い出して見せます」
長かったぁ。ようやく話が進められる。
「残念ながら私に出来る事はこの剣を渡してやる事ぐらいしか・・・、いやそなたの旅で必ずや力となる者を同行させよう」
あー、騎士団長のジークか。
騎士団長ジークは一番最初に仲間になるキャラだ。銀髪で背も高く無駄に女受けを狙ったキャラだ。
「おい、彼をここに連れてくるのじゃ」
王様の指示を受けるとまたもやモブが部屋を出て、一人の人間を連れて戻ってきた。
「彼こそがこの王国の騎士団長を務めるたけしじゃ」
「ん?」
頭に疑問詞を浮かべながら部屋の入り口に目を向けると、そこにはメガネをかけた巨漢が立っていた。
「初めましてですな勇者殿。拙者こそが騎士団長を務めるたけしですぞ」
なんだこの絵に描いたようオタク。
「王様。騎士団長のジークはいつ来るのですか?」
「ジーク?誰だか知らぬが彼こそがこの王国の騎士団長じゃ」
おかしい。バグどころ騒ぎじゃないぞ。制作者はどこだ。
「何はともあれ、これからよろしく頼みますぞ」
そう言うとたけしは手を差し出してきた。
(握手ってところかな。嫌だなぁ。)
僕は無言でポケットに手を入れ、先程王様から貰った飴をプレゼントした。
「たけし、今までありがとう。ここから先は本当に危険だから僕一人で行くよ。それは今までのお礼だ」
「何を言っておられるのですか?拙者達の旅はこれからですぞ?」
「勇者よ。先程から様子がおかしいがどうしたのじゃ?」
どうしたもこうしたもあるか!
こんなのと旅は嫌だ!
「取り乱してしまってすみません。ですが王様、魔王を倒し王女を救い出す為に旅に出るのですよ?」
「ふむ、その通りじゃな。そんな今更な事がどうしたのじゃ?」
「危険なのは火を見るよりも明らか。ですから僕一人で行きます」
「おおー。拙者の事を心配してくださるのですか!このたけし、どこまでもお供する事を誓いますぞ!」
頼むから誓わないでくれ。
「たけしもこう言っておるし、一人より二人じゃ」
「では王様、さっそく勇者殿と行ってくるでありますぞ」
たけしは僕の腕を引っ張って王室から出た。
マジでか。これから冒険なのか。
異世界に来たらいろいろとワクワクするものだが、これ程までにがっかりで期待の出来ない冒険は他にないだろう。
読んでくださった方、ありがとうございます。思いつきで書き出してみました。また時間がある時に随時書いて行きます。