始まりの町
馬車がようやく止まった時、辺りはすでに真っ暗だった。明かりは町の門についた松明ぐらいだ。町自体の明かりは、周りにある壁により阻まれてる。
「ほら、着いたぞ~。降りろ~」
男が急かしながら言うので、他の人は次々降りていく。颯汰もつられて馬車を降りた。
「あの一つ聞きたいんですけど」
またどこかに行こうとしていた馬車を轢いた男を呼び止めた。
「なんだい ?」
「俺はこれからどうすれば ?」
男は少しの間考えた様子で空を見上げた。
「そうだな~。なら、今日はもう遅いから宿に行くといいさ。明日になったら、ギルドに行くといい。立派な冒険者になれるといいな。ほな、これで」
そう言って男は暗闇に姿を消した。
「とりあえず言われた通り宿に行くか」
颯汰はひとまず宿屋を目指した。
宿屋に着いた颯汰は意外な出来事に驚いた。
「タダなんですか ?」
「はい、一応ですけど」
聞いたとこによると、ギルドにまだ申請していない冒険者、冒険者になって二週間も経たない者は無料で泊まれるらしい。
「その代わりに、部屋は二人で共有してもらいます。ベッドはきちんと二人分ありますのでご心配なく」
「え、なんて」
颯汰は言われるがまま部屋に連れていかれた。
「それではごゆっくり」
幸いその部屋にはまだ誰もいなかった。言われた通りベッドは二つあり、想像していた以上に部屋は広かった。
「はぁ~、今日はいろんなことがあったな」
颯汰はベッドに横たわった。今日起こった出来事を思い返しているうち、いつの間にか颯汰は眠りについていた。
「うっ、眩しい」
窓から射し込む朝日が目に当たった。それを嫌がり寝返りをうつ。
むにゅ
「(ん ?)」
手に感じたことのない感触の物がある。確認する為に、仕方なく目を開く。
そこには、何故か颯汰のベッドに裸で眠る銀髪の美少女がいた。
「ええ、ちょっと!っていって !」
颯汰は驚いてベッドから落ちた。
「もう何よ、こんな朝から」
少女の銀髪は肩より少し長く目は綺麗な青色をしていた。華奢な体つきで腕や脚は今にも折れそうなぐらい細い。
少女は眠そうに目を擦りながら颯汰を見た。一度、自分の今の格好を確認する。もう一度颯汰を見る。そこでようやく状況を理解した少女は顔を真っ赤にした。
「きゃぁぁぁぁぁ ! !」
その瞬間、少女はとんでもない悲鳴をあげた。
「ちょっとひとまず落ち着いて」
少女をなだめようと近寄ろうとするが今の状況ではまずいと思いとどまる。
「どうしたんですか ?」
そうしているうちに悲鳴を聞いた昨日の宿の主である彼女が駆けつけてくる。
「いや、これには訳がありまして」
慌てて弁解しようとしている颯汰を笑いを堪えて彼女は見ている。
「そうですか、じゃあ後はごゆっくり~」
彼女はニヤニヤしながら部屋を出ていった。
「(絶対あんた仕組んだだろー !)」
そんなことを思いながら再び少女を見た。
少女はもう落ち着いて服を着ていた。
「そのさっきはごめんなさい」
少女は深々と頭を下げ謝る。
「いや、俺も悪かったよ。それで、何で俺のベッドにいたの ?」
「それは、昨日あまりにも眠い中なんとか頑張ってこの宿まで来たんです。そしたら、さっきの人が出迎えてくれて。この部屋ならベッドが一つ空いてるからって案内してくれたんです」
「そこまでは普通だね。それで ?」
「部屋に着いたらあの人が右の方が空いてるからそっちを使ってねって言われて。それでベッドの近くまで着替えようとしたらそのまま寝ちゃったと言い訳です」
右のベッドと言うのは俺が寝ていた方だった。
「なるほどな~。まあともかく、お互い悪気があったわけじゃないからこれから仲良くしよう」
「はい !」
そう言って少女はにっこり笑った。
「それじゃあ私はこれで。行く所があるので」
準備を済ませた少女は荷物を持ち扉に向かう。
「待って、どこに行くの ?」
「ギルドです。私、冒険者になる為にこの町に来たんです」
「ギルド……あ、そうだ !俺も行くんだった !」
「そうなんですか、ではギルドでまた会いましょう」
颯汰が準備をしているうちに少女は行ってしまった。