8.愛すべき故郷
目覚めると、レイと話していた自分の部屋とは違うにいた。
ベッドから身体を起こし、周りを見渡す。
前回の部屋は必要最低限の物しか置いてなかったが、今いる部屋は前の部屋より家具が多く、住みやすそうだ。
壁紙は明るいベージュが貼られていて落ち着いた雰囲気が部屋を包んでいた。
しばらくこの部屋の心地よさにうっとりしていると、玄関の扉がノックされる。
「沙弥様、起きていらっしゃいますか。
トールでございます」
部屋の外からトールの声が聞こえる。
この状況をうまく把握できていないのでに話を伺おう。
「トール、おはよう。入ってきて大丈夫だよ」
「失礼します」
扉を開け、トールが入室した。さぁ情報収集だ!
「トール、少し聞きたいことがあるのだけど―――」
「沙弥様の今の状況についてでございますね」
・・・確かに質問しようとしてたけど、聞こうとしてたのはそれだけど!
なんだか見透かされてるようで癪だなぁ。
まぁ話の展開が早くて助かるんだけど。
でもしてやったりみたいな顔をしてるから、やっぱむかつく!
「沙弥様、私の顔に何か付いていますか?」
こいつ、私が何を考えてるか分かってる癖にあえてとぼけてやがる・・・
何か言い返したいがこのままでは話が進まない。
無視して話を進めよう。
「私はレイと話をしていたところから、記憶がないんだけど。
トールは何か知ってる?」
「はい、レイから話は聞いています。
どうやら沙弥様は、お話の途中で気を失ってしまったようです。
どうやらまだこちらに来た疲れが取れてないようです」
そう言われ目を閉じると、確かに身体に妙な倦怠感を感じる。
こちらに来てからちゃんと寝てないからだろうか。
ともかく無理な行動は控えた方がよさそうだ。
だが本当にこれだけの理由で気絶したのだろうか。
なにかもっと他の理由がある気がする。
あの場所で何か重要なことが起こった気が…
駄目だ。
あと一歩で分かりそうなのに、頭痛がしてうまく考えが纏まらない。
「沙弥様?大丈夫ですか?
まだ気分が優れないようでしたら、もう少し休むことも可能ですが…」
トールが心配して声をかけてきた。
ここで弱音を吐く訳にはいかない。
ここは異世界なのだ。
状況が確認できるまでは自分の身は自分で守らなければ。
そのためにもまずは情報収集、弱みを見せるわけにはいけない。
「大丈夫です。
それよりトールはどうしてここに?
何か私に用でもあるの?」
「…はい、皆さまを食堂に集めています。
それで沙弥様にも来て頂こうと思い、ここに参った次第です」
皆を集めて、何をするのだろうか。
早く行って確かめなければ。
今はとにかく情報が欲しい。
「ありがとう、トール。支度をします。
それまで待っていてください」
「はい、了解しました。」
身だしなみを整えて食堂に向かう。
その途中でトールが話しかけてきた。
「沙弥様、私言いそびれていたことがございました」
「?」
ただ単に私を呼びに来た、だけではないということだろうか。
「何を言い忘れてたの?トール」
「実は私、トールは正式に沙弥様の起床係に任命されました。
これからも毎朝沙弥様を起こしに行かせていただきます」
これから毎日トールが起こしに来る・・・
なんだかお嬢様みたいだ。
歩きながらぼんやりそう考えていると、トールがにやりと笑った。
・・・なんだか嫌な予感がする。
「お嬢様とお呼びした方がよろしいでしょうか?」
やっぱり顔を読まれてる!
いちいちいやらしい言い方をしてるのに、顔が整ってるせいか似合っているのが腹立たしい!
「う、うるさい!」
でもまぁ、もし私のために会話を試みてくれているのならば、トールは案外良い奴かもしれない。
食堂にはキースや等刀などの見知った人物のほかに、初めて見るような人もいた。
周りを見渡していると、視界から何かが猛スピードでこちらに向かってきているような…
「遅ーい!いつまで待たせてるんですの!」
・・・どうやらまた何かに巻き込まれそうだ。