7.Heart under stone*レイ視点*
「レイ、ちょっといい~?」
今度の召喚者のリストをチェックしながら歩いていると、トウケンに声をかけられた。
トウケンなんて名前をしているがこいつはれっきとした女だ。
名前もおかしいがこいつは出自もよく分かっていない。
一年前に急に現れたと思ったら王に面会を求めてきた。
王も王でこいつをここに住ませてしまうから驚きだ。
黒目黒髪でアカデミーの制服みたいな服を着ている奴。
年齢は結構幼い。
まだ言動からして俺みたいにえせ未成年じゃなくて本当の未成年だと思う。
「どした?何かあったのか?」
「いや~、キースがさぁ、最後の召喚者が覚醒に手こずりそうだからお前に任せたいってさ。」
この王国の奴らはぶっきらぼうな奴や性格に難がある奴が多い。
その中でも比較的ましな性格の俺が召喚者のメンタルケアに選ばれる事が多い。
能力はこの世界に最初からいる特殊能力者なら小さい時に発動する。
覚醒とは能力を発動する為に必要不可欠な症状だ。
自分の中の破壊衝動を上手く抑えそれを使いこなす。
それが出来て晴れて能力者になれる。
幼い時なら力もなく破壊衝動も可愛いものだが、異世界から召喚された奴らはこうはいかない。
奴らは能力自体はあちらで覚醒している。
ただそれが現実に干渉出来ないだけなのだ。
能力は覚醒の途中から干渉出来る。
つまり己の破壊衝動に飲まれれば能力を使い暴れる事になる。
そのため飲まれない様にメンタルケアしつつ最悪暴れだしたら鎮圧出来る俺がよく選ばれる。
選ばれる事は嬉しいがそれがここ二三日続いて正直疲れてる。
面倒臭いが命令は無視出来ない。
ぱぱっと終わらせてしまおう。
「分かった。じゃあそいつの部屋まで案内してくれ、トウケン。」
「りょうかい~。」
召喚者の部屋まで到着した。
「じゃ私は別の用事があるからここら辺で失礼するね~。」
「おう、道案内ありがとな。」
「ほいほ~い。」
トウケンに別れた後部屋に入る前に忘れず魔法をかけておく。
「偽りの仮面を此処に Fake mask」
魔法がかかると同時に自分の性格が変わるのを感じる。
「自分の中身が無理やり変えられるのは何回経験してもなれませんね。」
自分の語尾がしっかり変わっている事を確認して部屋の中に入る。
部屋に入った後の事は俺が予想していた通りに進んだ。
どうやらこいつは真正面から好意を向けられる事に慣れていないようだ。
あと食べ物に目がない。
でも物欲しそうな表情はちょっと可愛かった。
このまま落ち着いてくれれば危険なく終わるだろうと安堵した瞬間。
突然そいつが苦しみだした。
不味い事になると思い、必死に落ち着かせようとするが徒労に終わり、
結局そいつは気絶してしまった。
勿論気絶して終わる訳でもなく、破壊衝動は覚醒が終わるまでは潜在思考まで植えついてるので能力者が起きてようが起きていまいが関係ない。
ただまぁ、意識が無い方が躊躇せずにすみそうだ。
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沙耶の周りが淡く光り能力が発動し、鎖が沙耶を覆う。
(鎖・・・拘束系か)
沙耶の能力が分かった以上気を付けないと。
異世界から来る能力者は総じて能力が強いらしい。
まぁそうでなければわざわざ召喚する意味がないのだが。
沙耶の周りで佇んでいた鎖が俺の方に動き出した。
周りに人はいないため攻撃対象は俺だけ。
しかも破壊衝動に動かされるがままの安直な行動のため一般兵より行動が読めやすい!
首周りに絡みつこうとした鎖を左手で掴み距離をとる。
能力者に危害を加える事は出来ないがならば能力に対して攻撃すればいい。
もう一度攻撃を加えようと鎖が動こうとするがその前に鎖が爆発した。
能力者の意識が途絶えてるおかげで自分の手の内をばらさずにすみそうだ。
一般の鎖と違い能力で作られてるので頑丈だが勿論耐久力は存在する。
このまま削り切りたいところだが・・・
だがこのまま上手くいくはずもなく沙耶の周りから新しい鎖が三本出現した。
(まぁ当たり前だよなぁ)
毎度毎度こんなんばっかりだから疲れるんだよなぁ。
まぁでも頑張るか。
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「やっほ~、どう?終わった?」
「あぁなんとかな。でもこの部屋はもう使えそうもねぇ。キースに新しい部屋用意させといてくれ。」
「りょうかい~」
爆発でぐちゃぐちゃになった部屋のベッドで沙耶はまだ深い眠りについていた。