表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/62

6.レイと沙弥

気が付くと天井を見ていた。

しばらくぼーっとしているとようやく意識がはっきりしてきた。

それと同時に女神から流された忌々しい記憶がまた脳内を駆け巡り始めた。

あれは勝手に魔法で植え付けられたモノであって、絶対に自分の本当の記憶ではないと心に念じ意識を保とうとするが、猛烈な吐き気が襲ってきてまた倒れそうになる。

自分が寝ていたベッドの上で呻き声を上げているとベッドの近くにある丸机付近から何かが動く気配がした。

自分をここまで運んでくれた人だろうか。

会話をしようと試みるが頭痛が酷くうまく言葉を発する事が出来ない。


「うぅ···あ、あぁ·····?」


声が聞こえたのか気配が丸机の方からベッドの方に移ってきた。


「大丈夫ですか?水、要りますか?」


綺麗な声がした。

朦朧とした意識の中、何とか目を凝らして声がした方向を見据えると、

そこには金髪の美少年がいた。

エメラルドの様に綺麗で吸い込まれそうな瞳。

服装は動きやすさを重視した控えめな物だったが、なにせ元が素晴らしいので、全然気にならない。

むしろ、素材を引き立てる良いアクセントになっているかもしれない。

ここまで考えて、ようやく少年が私を心配そうに見つめているのが分かった。

何か言わなければと思い、必死に声を出す。


「···水、貰えますか?」


笑っているのか泣いているのか分からない顔で水を要求した。

こんな時に上手く笑えない自分が嫌になるが、少年は声が聞けた事が嬉しいらしく、花が咲いた様な笑顔で水を差し出してきた。


「はい、どうぞ!」


手を伸ばして水を受けとる。

···美味しい。

飲み物を飲んだ事で少しましになった。

これならしっかりと会話が可能だろう。

水を飲み終わった後に少年が口を開く。


「自己紹介遅れました。私はレイと申します。

以後お見知りおきを。」


自分の目を見てしっかりと放った言葉は辛うじて聞こえた程度で、やっぱり声も綺麗だなぁ、という馬鹿っぽい感想しか浮かんでこなかった。

ぼーとしているとレイがまた心配そうに見てきたので、慌ててこちらも自己紹介する。


「私は!ゴホッ!?···すいません、私は木賀沙弥です。」


勢い余ってむせかえってしまったが、何とか自己紹介する事が出来た。

むせる場面でレイにクスクスと笑われてしまい、思わず赤面してしまう。


「フフフ、面白いですね、沙弥さんは。」


初対面から名前で呼ばれてしまうが、不思議と嫌な気持ちが湧いてこない。

これがイケメンの成せる技か···!

一人考え込んでいると、レイが提案してきた。


「あっ、そうだ!きっとお腹が空いていると思って、お粥、用意したんです。食べませんか?」


そうしてレイが指差した所にはお粥が用意されてあった。

どうやらレイが座っていた丸机に元から水と一緒に用意されていた様だ。

美味しそうに湯気をホクホクと立てている。

そういえばいつまで寝ていたのだろうか。

部屋にある窓の様子だと今は夕方の様だが。

あの食堂に向かったのが、夜だったから経過したのはほぼ1日だろうか。


「すいません、私どれくらい寝てました?」


私がそう質問すると、レイは少し考えて、


「沙弥さんが寝てたのはざっと19時間程度でしょうか。」


やはり私の予想は当たっていた様だ。

こっちに来ても私の腹時計は健在の様だ。

ほぼ1日も寝たら腹も空く。

有り難く頂こう。


「お腹がとても空いてます···。

お粥、頂きます。」


そう言うとレイは嬉しそうに顔を綻ばせ、


「分かりました!」


と言ってお粥を取りに行ってくれた。

食べ物を運んできてもらうのは何だかもどかしく、恥ずかしい。

レイに頼む時も顔が真っ赤になってしまった。

こちらの世界に来てから何だかよく顔が赤くなっている気がするのは気のせいだろうか。




そうやって考えていると、頭痛が走った。

まただ、また始まった。

嫌な記憶だ。

本当かどうかも分からない誰かの記憶。

今からイケメンとご飯を食べれる楽しい時間のはずなのに頭痛がそれの邪魔をする。

浮き足だっていた頭を頭痛が強制的に冷静にさせる。

浮き足だつ?

自分はこの状況に興奮を感じていたのか?

よく考えればこの状況にはおかしな点が多すぎる。

まず第一にここに調理器具はない。

それは探索して確認している。

そして、ここで調理していないなら、食堂で調理したはずだ。

ここに辿り着くまでにお粥を湯気が立っている状態まで維持出来るだろうか。

それは可能かもしれない。

前提条件として私が起きていればの話だが。

そう。

いつ起きるか分からない人間の為に前もってお粥を作り、それを熱々の状態で保つ事など不可能なのだ。




突然記憶の流れ込みが強まってくる。

母親らしき人物にお粥を食べさせられている女の子がいた。

女の子は美味しそうに食べているが一口、二口食べる毎に幸せそうな表情が苦しそうに歪んでいる。


「ふふっ、ゆっくり食べなさい。」


女の子の感情が流れ込んでくる

嬉しい、嬉しいと騙されてるとも知らずに、女の子はお粥を食べ続ける。

騙されてる?

一体誰に?

私の母はそんな人じゃない。

現に今もお粥を優しそうに食べさせてるじゃ···


「このっ、クソガキ!世話焼かすんじゃないよ!」


痛い!

過去の事を振り返ろうとすると、頭痛がそれを邪魔する。

まるで昔の出来事に鍵を掛けられているみたいでどうしようもなく苛々する。




レイがお粥をスプーンで掬ってくれて口元まで運んでくれる。

でも、身体は全く欲っさず、むしろ怒りが込み上げてくる。

頭痛が始まる前の浮わついた心だと一口で食べてたはずなのに。

まるでさっきの感情が嘘みたいだ。

自分でもどれが本当の感情か分からない。

だから余計に苛つくのだ。


「いらない。」

「え?」


レイが驚いた様に声を出す。

断られた事が余程信じられないのかスプーンをこちらに突き出したまま固まってる。

その行動一つ一つが癇に障るのだ。

···っ!

また頭痛が酷くなる。

遂に幻聴まで聞こえてきた。


「壊せ、壊せ、この感情に身を任せろ。」

「黙って!」


頭を押さえてうずくまる。


「沙弥さん、大丈夫ですか?」

「頭が痛い···声が聞こえる···」


レイが少し考えた後、焦った様に声を掛けてきた。


「···タイミングが悪いな。沙弥さん!意識をしっかり保って!」


人は焦った時に本性が出ると聞いていたが、やはり無理をして丁寧な言葉を使っていた様だ。

色々な事を考えて意識を保とうとするが、あまりの痛みに耐えきれず意識を飛ばした。




















「さぁ、こっからだ。ここから始まる。

お前の為の物語だ。ここからはお前が主人公だ。

しっかり気張れよ。沙弥。」


真っ白な空間の中心地点で男は座っていた。

空間の壁には沙弥が気を失った部屋の様子が映っていた。


「っと、その前に沙弥の周りの力関係を調べないと。少し身体を借りるぜ。沙弥。」


そう言って男は腰を上げ立ち上がった。

ギラついた目で彼方を睨むと、男の身体は一瞬でどこかに消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ