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5.束の間の再開

「は~い♡こんにちは~。元気してた?」


机の上に突如発生した物体Xから音声が流れてきた。

丸い球状の物体で机の上に置かれているのではなく、自立して浮いていたのだ。

言葉は喋りだすし、頭がパンクしてしまいそうになる。


「ねぇ、キース?

この子たちが最後の召喚者たちなの?」


「はい、その通りでございます」


どうやらキースはこのボールと面識があるようだ。


「しまった、紹介が遅れてしまったな。

こちらにいらっしゃるのが我が王国の女神様の···」


「女神兼魔神です♡」


···女神で魔神だと!

まさかそのような存在がするのだろうか。

隣にいる···ええっと、名前を忘れてしまった。

とにかく隣にいる男の子も同じような顔をしている。


「ぐふふふ···信じられないって顔してるわね。

ならば見せてあげましょう!

その小さな脳ミソに焼き付けておきなさい!」


ボールからの声がそう言うと、突然ボールが光り始めた!

あまりの眩しさに目を細めていると、それは次第に収まっていく。

視界を開けてみると、そこには青い髪の美女がいた。

神様などという存在は半信半疑だったが、その美貌は確かにそのレベルのものだろう。


「どぉ?等刀、沙弥。

この体、中々イケてるでしょ?」


「えっ、名前・・・」


不思議な事に彼女は、自分と男の子の名を知っているようだ。


「当たり前よ!神様ですもの!」


誇らしげに胸を反らすが、何が当たり前なのかさっぱり分からない!


「それでは女神様、そろそろ説明をお願いします」


キースの横からの申し入れに対し、女神は露骨に難色を示す。


「えー···、私何回説明すればいいわけぇ?

もうたくさん話したんだけど···」


「そう言わずにお願いします」


「はぁ~、仕方ないわねぇ。それじゃあ二人とも!

一回しか言わないからよく聞きなさいよ!」


女神はキレの良い動きで体を動かすと、私たちに指を指す。


「この人が・・・神様?」


「なぁに?信頼できない?」


「うわっ!」


「えっ、嘘・・・」


女神から目を離したつもりはなかったが、瞬きの間に女神は等刀の後ろに移動していた。


「まぁ、今は黙って聞いておきなさい。

何でもかんでも噛み付いていると、また痛い目見るわよ」


その言葉を聞くと、等刀の動きはピタリと止まった。


「本題に戻るわよ!

単刀直入に言うとね、この国は未曾有の危機に晒されているの!」


未曾有の危機···それと私達が召喚されたことに何の関係があるのだろうか。

キースも女神も焦っている雰囲気がないことから、現在進行形で起きているわけではなさそうだ。

それにもし大きな自然災害が起きたのならば、専門の救助隊を呼んだ方がいいに決まっている。

私達でしかできないことが何かあるのか?

むしろ高校生の私など、できることの方が少ないだろう。

一体どうして・・・


「疑問でいっぱいって顔してるわね。

いいわ、一から説明してあげる。

未曾有の危機っていうのはある程度予測ができていて、今回は自然災害ではないし、まだ起きてないわ。

そして、貴方達の世界との違いをまずは話すべきでしょうね。

私が突然何もない所から現れたのもそう。

あんなの貴方達の世界にはないでしょう?

魔法、それがこの世界にはあるのよ。

どう!驚いた?」


女神様は、とても嬉しそうに魔法の存在について語った。

魔法というのはあれだろうか、ファンタジーライトノベル系の設定でよくある物と一緒なのだろうか。

馬鹿馬鹿しい、とは切り捨てられなかった。

実際女神様は、自分が心の中で思っていた疑問について答える事ができたのだ。

それになにより、初めて見たことなのに特に拒否感なく魔法という存在を受け入れている自分がいる。

これも魔法かもしれないと思うと、なんだか少し恐ろしく感じた。


「···待ってください。

まだなぜ僕たちが選ばれたのかの理由は、説明できていませんよね?」


話を一緒に聞いていた等刀が発言した。

そうだ、確かに魔法という存在は重要だが今回の論点はそこではない。


「分かってるわよ、焦らないで。

それを今から説明するの。いい?

人間っていうのは、ある一定の確率で特殊な能力を授かることがあるの。

それはとてつもなく強力なものもあって、一人いれば劣勢を覆せる程のものよ」


と、特殊能力···!魔法の次にそんなものまで。

今まで知らなかったことばかりで頭がクラクラする。


「そしてね、その特殊能力のほとんどは戦闘方面で役に立つ能力なの。

だから未曾有の危機ってやつがくる前に、能力を持った人間を引っ張ってきて育てるってわけ。

これが貴方たちを召喚した理由よ」


話を聞いていた等刀が再び口を挟んだ。


「その特殊能力とやらを僕は、使ったことがありません。

僕たちにその適正が本当にあるんですか?」


女神様が慌てて訂正する。


「あー···、言い方が悪かったわね。

確かに能力は備わっているわ、それは間違いない。

でも基本的には、特殊能力はこの世界でしか使えないの。

生まれてから定まった能力を封印して、無かったことにする。

そうすることで世界の平穏と発展を保てる、と向こうの神は思ったのでしょうね。

科学の発展を阻害する可能性のある不確定要素は、できる限り取り除きたかったのでしょう。

神経質というか心配性というか・・・

まぁ、でも心配しないで。

貴方たちが特殊能力持ちなのは確認済みよ!

だからこっちの世界に召喚したんだから!」


ずっと話を聞いていて思った事が一つあった。


「私たちは帰る事ができるんですか?

こんなこと初めてで分からないし、まずは家に帰って一度・・・」


私には帰るべき家とあちらに残してきた人がいる。

急にそっちの都合を押し付けられても困るのだ。


「え、そんなことないでしょう?

貴方、本当に帰りたいの?」


彼女はまるでそんな言葉は聞くと思わなかった、と言わんばかりの口振りでこちらに振り返った。

何を当たり前の事を聞いているのだ。

帰りたいに決まってい········、あれ?

思い返せば、過去の思い出がたくさん出てくるはずなのだ。

おかしい、これは・・・変だ。


「貴方、私に何かしたの!?」


必死の形相で彼女を睨み付ける。

自分の頭をぐちゃぐちゃにかき混ぜられたみたいで、思考が纏まらない。


「あのねぇ···。

私たちだって勝手に召喚したらどうなるか、って事ぐらい理解してるわよ。

だから召喚する人を選んだの。

あっちの世界に未練がない人だけを選んで、召喚したんだから」


嘘だ。

そんなわけない。

頭を割くような痛みに耐えながら、自分を忘れないように必死に意識を留める。


「はぁ、その顔は何言っても聞かないって顔ね···。いいわ、貴方があっちで過ごした時間を見せてあげる。

精々意識を手放さないように気を付けなさい」


そして、頭の中に情景が流れ込んできた。

自分の親や同級生らしき顔、全てが醜く歪んでいる。

繰り返される罵詈雑言に耐えきれずに耳を塞いだ。

それでも続くこの拷問に、私はたまらず意識を手放した。

























































「それで貴様は文句を言わないのか、等刀。」


キースは等刀に尋ねた。

少年の雰囲気や言動を察するに、この少年はとても用心深いが、鋼の心を持っているわけではないと判断していた。

これまで召喚者を見てきた傾向として、あの少女と同じ、いやそれ以上に心が揺れ動くのではと予想を立てるが・・・

しかし、揺れ動くどころか等刀の心は全く動じていない。


「僕は別にこのままで構いません。

彼女と違って僕は記憶がありますから。

でもね、キースさん。

僕たち召喚された側と召喚した側、この両者の関係はフェアでなくてはいけない。そう思いませんか?」


そう言ってキースを見つめる等刀の眼の色は、とてつもなく深く淀んでいる。

これはこの少年の評価を改めなければならない、とキースは静かに決意した。

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