4.女神チャンネル♡
倉庫から出て、食事室に向かう。
経路はトールが案内してくれるそうなので、手持ち無沙汰になってしまった。
前で先導してくれているトールは、綺麗な黒髪に高い身長。
日本にいても違和感なく、とてもモテそうな雰囲気だった。
まぁ彼が着ているおかしな服はマイナスポイントだ、などと考えている内にトールの歩みが止まる。
「沙弥様、食事室に着きました」
そう言って、トールは目の前の扉を開けた。
扉の先には大広間で見たキースと呼ばれた男と、年が近そうな少年が二人いる。
「キース、召喚者様をお連れした」
二人とも食事をしていたが声をかけると、こちらに視線が集まった。
「これで全員集まったか、しかしトール。
本来案内するはずのメイドはどこに行った?」
「さぁな。俺はただ迷子になっていたこのお方をお連れしただけだ。」
自分は迷子ではないのだが、まるで迷子の子供のように扱われて赤面する。
「·····なるほどな、そういう事か。急な務めご苦労だったな、ついでに他の用事も頼まれてくれるか?」
「·····了解した。それでは私はこの辺で失礼させていただきます。」
トントン拍子でトールが退出する事が決まってしまった。
自分としてはここまで連れてきてくれたお礼がしたかったのだが。
「フフッ、そんなに悲しい顔をしないでください。心配しなくてもいずれまた会えます。」
そう言って、トールは退出した。
「木賀 沙弥よ。とりあえずここにいるメンバーだけでも顔合わせしておきたい。食事も用意してある。こちらに来い。」
トールに後ろ髪を引かれる思いだったが、
ご飯の言葉に我を忘れ、猛スピードでキースに近づく。
朝起きてから何も食べてないからね、しょうがないね。
二人は机を挟んで座っていたので、名前の知らない少年の方に座る事にした。
「少し待っていろ。もうすぐ食事が運ばれてくる。」
「失礼します。」
言い終わらない内にメイドらしき人物が食事を運んできた。
どうやら魚料理のようだ。
ご飯の上に焼いた魚を置き、その上からタレを流しているようだ。
匂いを嗅ぐだけでお腹が減りそうだ。
「もうしばらくするとこの事態の説明がされる。
それまでは食事をしていても構わん。後、貴様の隣に座っているのは幕場 等刀だ。貴様と同じ境遇なので、仲良くするようにな。」
「·····よろしくお願いします。」
隣と前から声が聞こえているがもはや気にならない。
目の前の料理を食べたくて仕方がない。
「·····まさか私たちの声が聞こえてないのか?
どれだけ腹が減っていたのだ···」
「·····」
料理が運ばれた時に一緒に付いてきた木のスプーンで食事を食べようとした瞬間─────
机の上におかしな物体が出現した。
メイドは走る。
ただひたすらに走る。
どうしてこうなったかわからない。
いつものように平凡な今日が終わって明日になると思っていた。
それがたった一つの指示を遂行できないだけで、このような状況になるのか。
そもそもメイドは任務を失敗してなどいない。
時間通りに沙弥という召喚者を迎えに行ったら彼女がいなかっただけなのだ。
たったそれだけ。
後ろから唐突にバチバチと音を立てて何かが迫る。
こける様に地面を転がりながら前に進む。
何かがメイドの真上を通過し、髪の毛が何本か焦げる音がする。
メイドは分かっていた。
追いかけてくる人物はメイドを殺そうと思えば、いつでも殺せる。
遊んでいるのだ、死に物狂いで逃げる姿が滑稽だから。
奴は神の雷を宿しているが、心は残忍な化け物だとメイドは思った。
「───ど、うして。何でこんな事するのぉ!」
「·········」
影は答えない。
いつも仕事を共にしているメイドの仲間も助けに来ない。
当然だろう。
関わったら殺される相手に自ら関わる阿呆などどこにいるのだろう。
そして今さらながらメイドは理解した。
召喚者を指定された場所に連れていくだけの任務なのに、何度も説明された理由を。
王国にとってこれはそれほど重要な任務なのだ。
達成できなかった者を殺す程の。
ヂリヂリと焼けつく音が後ろから聞こえる。
メイドを殺す死の音が。
その音は真後ろから聞こえる気がするし、そうでない気もする。
振り返る事はしない。
相手の顔を見てしまったらもう終わりだとメイドの直感が告げている。
それはただ生きている時間を先伸ばしにしているだけに過ぎないが。
しかし、メイドはこのままでは終われなかった。
やり残したこと、やってみたいこと。
メイドは生きる希望をまだたくさん持っていた。
だからこそメイドは自分の全ての魔力を使って、魔法を放つ。
誰を犠牲にしても構わないという覚悟の魔法を。
魔法が発動した直後、彼女の身体を雷が焼き尽くした。