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19.友達

5月3日『覚悟』

大幅加筆修正

扉を開くと晴天の青空とは違う明るい黄色の照明が、私たちを包む。

勇気を出して建物の中に歩みを進める。

大通りとさほど変わらない騒がしさが、建物の全体から聞こえてきた。

上を見上げると、一本の柱を中心に真ん中が空洞になる吹き抜け構造になっているようで開放的に感じられた。

やはり巨大な施設だけあって人も多い。

ここがどんな場所なのか誰かに聞かなければいけないのだが、周りの男女比率は男性の方が多いため緊張してしまう。

しかもほとんどの人が何かしらの武装をしている。

この世界は危険だと聞いているが、武器らしい武器を見たのは初めてなので何だかとても恐ろしい。

しかしそれとは別にこの建物に入ってから匂いが増している。

私の大好きな食べ物の匂いと···何だろう?

鉄の様な何かの匂いが強い。

だが、匂いの元はここで間違いない様だ。


「何だお前ら?見ない顔だな」


突然背後から声をかけられ、思わず身をすくませてしまう。

振り返ると、先程私たちが入ってきた扉の前に立っている男がいる。

金髪の髪の毛に緑の瞳の男が不審げに私たちを見ていた。


「貴方は?」


「俺はタシダ。このギルドの案内役を務めている者だ。

あんたたち見ない顔だけど北の国から来たのか?」


北の国というのはこの国に取り込まれた国の事だろうか。

私たちはこの国どころか違う世界から来たのだが、真実を伝えたところで何も取り合ってはくれないだろう。


「はい、その通りですわ。まだこの国に来て日が浅いんですの。

エスコート、頼まれて下さいます?」


「ん?エスコート?···あぁ、案内の事か。任せてくれ。

その為に俺がいるんだ。

ついてきてくれ、落ち着いて話ができる場所まで移動しよう」


そう言って、タシダは端にある階段から上に上がり始める。

私は英里にだけ聞こえる様に英里の耳に口を近づけ囁いた。


「咄嗟にしては上手いこと嘘をついたね、英里」


「あの男がまだどう言った存在か分かりませんわ。

安易に信用する訳にもいきません。

それに城から出るときに騎士に言われましたわ。

召喚者という事を他言してはならない、と。

なので最初は様子を見てみましょう。

もし、使えそうな身分を隠して仲間に引き込みますわ」


確かに情報を二人で集めるのもいいが、確実にこの土地について知っている現地民が仲間になってくれたら心強い。

これからは召喚者という事はこれからも内緒にしておこう。

下手に波風を立てると城に戻されかねない。


「おーい、何してるんだ。話、聞きたいんだろ」


タシダが階段を上りきり、二階から身を乗り出してこちらを見ている。

私たちもすぐに後を追った。
















タシダの後を二階に上る。

タシダは二階の奥に入らずにベランダの方に向かう。

ベランダには小さい椅子と机が何台か設置されていた。

二階からなので外の景色が見下ろす事ができてとても綺麗だ。


「ここ、景色いいだろ。俺のお気に入りだ。まぁ、座れよ。

 聞きたい事に答えるぜ」


そう言ってタシダは奥の方の机の出口に近い方の椅子に座った。

しかし、ギルドの案内をするならばここではなく実際に動きながら案内した方が分かりやすいのではないだろうか。

それとも先に何か、話をしておかねばならないことがあるのかもしれない。

とりあえず英里と一緒に奥の席に座る。


「まったく、先に進むなら奥の席に座ってほしいものですわ。

少し配慮というものが足りないのではなくて?」


英里は少し文句を言いながら着席する。


「悪いな、だってお前たちはまだ分からないからな。

さぁ、聞かせてもらおうか。

どうして北の国から来た、なんて嘘をついたんだ?」


ばれている。

特に不審な動きをした覚えはない。

いつの間に嘘を見破られたのか。


「今時、西の国じゃあるまいしギルドの事を何にも知らないなんてあり得る訳ないだろ。

まさか、そんな嘘が本当に通ると思ったのか。

おいおい、ギルドの事なんて子どもでも知ってるぜ」


沈黙するしかない。こんな状況になるとは思わなかった。

チラリと英里の横顔を盗み見ると、額に汗が滲んでいる。

おそらくどうすればいいのか分からないのだろう。

強行突破···は危険だ。

下手をすれば取り押さえられて素性を調べられるかもしれない。

いっその事召喚者だという事を打ち明けようか。

このまま黙っていても良い方向には進まないだろう。


「···プッ、クハハハハハハハ!」


どう切り抜けようか思案していた最中にタシダが急に笑いだす。


「いやぁ、すまない。

まさかそんなにも効果があるなんて思わなくてな。

つい、悪戯が過ぎてしまった」


「どういう事ですか」


タシダは含み笑いをしながら教えてくれた。


「ここには良く来るんだ。

性格に少し難があって騎士から冒険者に転向する奴とかがな。

確かにここは来るものを拒まない。

あんたたちが何者だろうが俺たちはそれを詮索しない。

でもな、そんな場所でもルールぐらいある。

だからこれはちょっとした脅しだよ。

ここでは力が全てだが、それだけじゃないぞってな」


緊張していた力が一気に抜け、椅子に倒れこんでしまう。

タシダの戯れ言に引っ掛かってしまい悔しく感じるが、それよりも安心の方が大きい。

だがタシダの話を聞く限り、ギルドならば素性を隠していても安全だという可能性は高いだろう。


「さぁ・・・今度こそ案内してもらいますわよ」


「分かった、分かった。ようこそ、荒くれ者たちの聖地へ。

歓迎するぜ、お嬢さんたち」


タシダは椅子から立ち上がり、ギルドの中に戻っていく。


「私たちも行こう、英里」


「あの、沙弥さん」


進もうとしていた私を英里が呼び止める。

タシダとの件は落ち着いた筈なのに、未だに英里の顔は少し強ばっていた。


「沙弥さんは何歳なんですの」


「18歳だよ」


「先輩、だったのですね。私は17歳ですわ、沙弥さん!

あの・・・お願いが、あるんですけど」


英里は何かを決心した様だ。

目は潤み、頬は赤く火照っている。

何だか告白を前にした少女みたいで、思わず私の顔もつられてしまいそうだ。


「私と···私と!お友達になって下さいまし!」


大声で叫ぶ様に放たれた言葉に思わず圧倒されて、一歩後ずさってしまう。

友達···単純な言葉だが彼女はずっと気にしていたのだろうか。

今までずっと英里に引っ張られて、城から出てきた。

英里の中に迷いがあったのかもしれない。

初めて会った二人で初めてだらけの選択。

もしかしたらどこかで間違っているのかもしれない。

本当に正しいのは何か分からないまま一人で決めるのは怖いのだろう。

今まで積もりに積もった不安を、二人で共有したいのかもしれない。

そう思うと何だか落ち着かなくて英里を抱き締める。


「沙弥さん!?」


「大丈夫だよ、英里。私は大丈夫。

もし選択が間違っててもやり直そう。私たちならきっと大丈夫。

それに私たちはとっくの昔に友達だよ」


英里の顔の表情が一瞬止まり、そして崩壊した。


「···う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」


「ほら、泣かないで。

それに私たちは友達なんだから、沙弥でいいよ」


優しく背中を擦る。

英里の背中は痙攣していたがしばらくすると落ち着いた。


「ぐすっ、ありがとう沙弥」


「いいって、いいって。ほら、早く行くよ」


へたり込んでいる英里に手を伸ばして引っ張り上げる。

この日を境に私と英里は友達になった。

大切な『友達』に。




























(見つけた)


穏やかな光に照らされるベランダ。

多くの席の中の一つ。

少女は抱き締めあっている二人をずっと見ている。

陰ながら監視している彼女は、ある謎を解明する為にギルドに来ていた。

少女には大好きな姉がいる。

しかし一昨日に姉の仕事先から連絡が来て、こう告げられた。

姉は死んだ、と。

勿論、少女は信じなかった。

それは最愛の姉が死んだ事を理解したくない、といった感情的な理由ではない。


昔に姉が住み込みで仕事をする事が決まった時、姉は泣きじゃくる少女に対して一つ贈り物を送った。

落ち着いた青色をしている水を弾く魔獣の皮を使った傘である。

真ん中の軸は樹齢百年を超えた王国の外の樹が使われており、姉の愛情を感じさせてくれた。

傘には開くボタンとは別にボタンが設置されている。

そのボタンを押すと木製の軸に覆われている刃が、傘と分離する仕組みが特注で作られているのだ。

いわゆる仕込み傘である。

持ち手には魔力石を埋め込んでいて、姉の魔力を通じて微弱だが光を放つ。

姉はこれを見て寂しさを紛らせる様にと少女に送った様だ。

しかし白く輝く魔力石は、姉が死んだ事によって永遠に光る事は無くなった。

その筈なのだが。

止まる筈の光は止まらず、今日の朝になっても未だに輝き続けている。

こうなるともはや目の錯覚と言い張るのは怪しくなった。

故に少女は情報を集める為にギルドに赴いたのだが。

少女は情報の前に本命を見つけた。

姉が近くにいないとここまで強く輝かない筈の魔力石が、目の前の二人しかいない状況で同じ様に輝いている。

理由はどうあれ少女は謎の手掛かりを発見する事に成功した。


(お姉ちゃんが死んだなんて嘘をついた理由を聞き出してやる)


こうして二人は謎の人物からも監視される事になった。

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