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16.心の会話

「起きてください。···起きて!起きなさいマスター!」


頭をグラグラと揺らされて意識が覚醒する。

目の前には意識を失う前の暗い無機質な部屋ではなく、白い空間が広がっていた。


「やっと起きたわね、貴女って良く眠るのね」


小さく笑いながらモガが顔を覗きこんでいた。

その後ろにはモガと契約を結んだ時にいた男の人もいた。


「大丈夫ですか、我が主。

 この前は時間があまりなく飛ばし飛ばしの説明しかできず、申し訳ありません。

 今回は主が身を置いている環境についてお話させてもらう為にお呼びしました。」


駄目だ。

話を聞いている時間なんてない。

早く戻らないと英里が危ない。


「安心してください。

 主の友人は窮地を脱しました。

 今は主の肉体と共に城の外に移動しています。」


良かった。

英里は何とか危機を切り抜けたのか。


「はい、どうやら暫くの間、城の外で過ごせるようです。 

 しかし、我が主はこの世界の地理を全くご存知ありません。

 ですから、私が知っている事ぐらいはお教えしようかと思いまして。」


確かに私は地理を知らない。

このまま外に出ても不便なままだろう。

それにここで情報を手に入れる事ができれば必ず役に立つだろう。


「その前に結局できずにいた自己紹介をさせてください。

 私は安藤 饌。

 この空間は貴女の心の中です。

 疑問点は残っておられるかもしれませんが、今はまだ伝える事ができません。

 ですが、必ず貴女の害にはならない事を約束します。

 どうか、私を信じてください。」


「やっと聞けた。」


「え?」


饌は不思議そうな顔をしてぽかんとしたまま口を開けている。


「この前結局自己紹介聞けなかったけど、やっと聞けた。

 上手く言葉に表せないけど、私は饌の事を疑ってないよ。

 きっとこの気持ちは理屈じゃないと思うんだけど、モガの命を救ってくれた饌の事を感謝はしても嫌う事なんて絶対に無いよ。」


私の言葉を黙って聞いていた饌が突然片足を地面に着け、涙を流し始めた。


「えぇ!?

 どうしたの!?何か悪い事言った?

 やっぱり敬語じゃない事が気に障った?」


急に涙を流した饌にどうしたらいいのか訳もなくあたふたしてしまう。


「···違うのです。怒ってなどいません。

 嬉しいのです。信じてもらえて。

 やはり私は貴方を救って良かった。」


「え?」


救う?私を?

それ以前に饌と私は初対面の筈だ。

前に会った記憶なんてどこにも···


(痛い!)


記憶を探ろうとすると鋭い痛みが脳を貫く。


「安藤、何湿っぽい空気にしてるの。

 マスターを助ける為にこの王国付近の地理を説明するんでしょ。」


饌が涙を拭いながら立ち上がる。


「そうでしたね、ありがとうございます、モガ。

 ···主?大丈夫ですか?どこか具合が悪いのですか?」


饌がこちらを見ている。

そうだ、今は情報を集めないと。


「大丈夫。聞かせて。」


白い空間の中にホワイトボードが出現する。

ホワイトボードの中央に誰も触れていないのに城が描かれた。

そして、いつの間にか饌が眼鏡をかけていた。


「何で眼鏡?」


「その方が雰囲気が出ると思いまして。

 ともかくですよ、簡単な説明をさせて頂きます。

 この辺りは城を中心に四つの地域に分かれています。

 まずは土地に比較的人の手が入っている北と西。

 この付近には3つの国が存在していました。

 今、主がいる場所に一つとここから北と西に一つずつあります。

 しかし、北の国はこの国に吸収され一つになったと聞きます。

 西の国は道は繋がっているのですが、お互いあまり干渉せずに暮らしている様です。」


なるほど、人はここ以外にも住んでいるのか。

てっきり人は城と城下町にしかいないものだと思っていた。

ホワイトボードの中央の城の周りを円が囲み、城下町と書かれる。

北と西にも道が描かれ、国と大きく書かれた。


「そして、残る東と南について説明します。

 東は森で、南は砂漠です。

 どちらも人の手はほとんど入っておりません。」


ホワイトボードの地図では城と森は隣接している様に描かれ、

砂漠は少し離れていた。


「饌、森と砂漠の先に何があるの?」


私の質問に饌は少し動きを止め、言いづらそうに解答する。


「···この世界には魔物という生き物が存在しています。

 奴らは総じて力が強く、狂暴です。

 森と砂漠には強力な魔物がいる為、誰も手出しする事ができません。

 どちらも奥深くまで進んだ者の中で帰った者は一人もいないそうです。」


魔物···

この世界はやはり元の世界とは似ても似つかない様だ。


「数年前にね、危険な魔物がこの国を襲ってね。

 城下町の建物が壊されるわ、城に乗り込んで王さまを狙うわ、

大変だったの。

 そんな危機を救ってくれたのが前の召喚者様なのよ。」


そうだ!

キースも時間を置いて召喚をすると言っていた。

つまり私たちの前にこの世界に来た人がいるという事だ!


「モガ!その人たちは今何処にいるの!」


「さぁ?役目を終えた召喚者たちは皆、元の世界に帰ったと聞かされたけれど。」


そうか、無事に帰れたのか。

ならば反抗などせず城の人たちと来るべき日に備えた方が···


「駄目です。」


饌がこちらを見つめていた。

その瞳を見ると自分の考えを見透かされる様だった。


「この国を信頼してはいけません。

 主はもう少し英里さんが来るのが遅かったら、意思を持たない操り人形になっていた可能性もあるのですよ。」


その瞳に写る感情は純粋な心配だった。

気を付けないとまた騙されてしまう。


「ありがとう、饌。

 心配してくれたんだね。」


普通に感謝しただけなのに饌は妙に焦って顔を私から反らした。


「べ、別にいいのです。

 主の道を正しい方へ導くのも臣下の務めですから!」


何だか暖かい雰囲気に場が包まれた時に、白い空間の壁がぺきぺきと剥がれ始める。


「む、もう時間か···

 では、主。私たちはここでまた少しお別れです。

 ですが、忘れないで下さい。

 私たちはいつも主の中にいます。

 お困りの際は必ず助けをお呼び下さい。」


「うん、分かった。

 本当にありがとう、饌。」


モガと饌に別れの挨拶と手を振りながら私の意識は沈んでいった。

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