15.交渉※英里視点※
筆頭騎士···
周りの雰囲気から見てもこの事は嘘ではないだろう。
つまり、最初の脱出方法の力ずくでの脱出は不可能になってしまった。
単純な人数差も含め、個人の戦闘力も高い二人を相手にするの厳しい。
先ほどのトールとの闘いも私の能力という不確定要素があったから勝てた様なものだ。
次闘っても勝てるとは限らない。
武力行為で突破する事はもう不可能だ。
「しかし、本当に申し訳ない。
こいつらの独断とはいえ召喚者たちを危険に晒してしまった。
本当に申し訳ない。」
カエサルは深々と頭を下げて私に謝罪した。
どうやら向こう側も穏便に済ませたい様だ。
しかし、私たちがここで分かりましたと言ってしまえば結局この城から出る事は出来ないだろう。
確かに沙弥さんは完全な被害者だ。
だが、私は違う。
トウケンの拘束を振り切ってここまでやってきたのだ。
今頃、向こう側では私を探して大慌てだろう。
ここで脱出しなければ私は二度とここから出られない。
「カエサル、でよろしいのですわよね?」
「あぁ、それでは構わない。
これからこの世界の危機を一緒に救うのだ。
仲良くいこうではないか。」
仲良く、か。
この城に出番がくるまで飼い殺しにされるだけだろうに。
よくもまぁそんな笑顔で人を騙せるものだ。
やはりカエサルは信用できない。
「カエサル、条件がありますわ。
まさかそちらもそんな謝罪だけで済まそうなんて事、思ってませんわよね?」
「あぁ、勿論だ。
こちらも何かしたいと思っていた。
こちらでできる事は何でもしよう。」
「カエサル様!危険です!無理やりにでも―――」
「黙れ、お前は口を挟むな。」
キースが口を挟んできたが、カエサルに止められた。
キースも相当の切れ者だ。
交渉の場に登場されるのは恐れていたが、これは助かった。
「いいんですの?キースは貴方を心配しているみたいですわよ。」
「何、あのまま喋らすと召喚者殿が殺してしまいそうな勢いだったのでね。
それに、貴女もわたしと一対一をお望みだろう?」
カエサルはそう言って不敵に笑った。
やはり、知られていたか。
薄々気づいていたが、この男は曲者だ。
筆頭の名は伊達ではない様だ。
しかし、私にはここで退くという選択肢は残されていない。
進むしかないのだ。
「それではこちらの条件をお話しますわ。
まずはそちらの二人を厳重に監視して二度と私たちの前に出さないで下さいまし。」
「了解した。
こちらとしてもその位の罰は与えようと思っていた。
条件はそれだけか?
ならばこんな所早く出よう。
あまり長居したくもな―――――」
「まだですわ、カエサル。
私の話はまだ終わってませんのよ。」
強引に話を纏めようとするカエサルを止める。
ここからが本番なのだ。
「もう一つ条件ありますわ。
聞いてくださいますわよね?」
嫌とは言わせない様に圧力をかけて返答を迫る。
「あぁ、勿論だ。騎士に二言はない。
叶えられる物なら叶えよう。」
「私たちをこの城から出してください。」
部屋に沈黙が訪れる。
当然だろう。
この条件は最も相手が嫌がる筈だ。
だから必ず相手は拒否する。
「駄目だ。危険すぎる。召喚者殿が強い事は把握している。
だが、外は危険なのだ。
万が一召喚者殿の身に危険が及ぶ事になれば―――」
「私たちの身に危険が降りかかるかもしれない。
それは外的要因からですか?
それとも、貴方たちからですか?」
息を飲む音が聞こえる。
もう取り繕う必要はない。
無理やりにでもここから出させてもらおう。
「カエサル、そろそろ本音を出した方がよろしいんじゃなくて?」
カエサルはしばらく喋らない。
ようやく動いたかと思ったら手が剣の柄を握ろうとしていた。
「武力行為は好まないのだが···仕方あるまい。」
予想していた行動だ。
だが、ここから上手くいくかどうか。
「動かない方がいい。
今度は槍だけを上手く狙える自信はないぞ。」
「カエサル様!奴は魔法を使います!お気をつけ下さい!」
「魔法か、未だに仕組みがよく分からん。
よくあんな物を使えるものだ。」
キースを拘束している魔法に魔力を込め、口もふさいだ。
カエサルが動じている気配はない。
おそらく魔法を使われても対処できる自信があるのだろう。
そしてそれは事実だろう。
このままでは取り押さえられてしまう。
しかし、分かった事がある。
カエサルは魔法について知らない。
急いで術式を編む。
特に意味を持たない術式を並べているだけだが、魔法を理解していない人なら普通の術式と変わらないだろう。
「動かない方がいいのはそちらの方ではなくて?」
「何?」
今にも動き出しそうなカエサルの動きが少し硬直した。
私の言葉の真偽を測っているようだ。
「貴様に私の動きを止める魔法を習得する時間などあるのか?」
疑問に思うカエサルに私の言葉に真実味を加える為に揺さぶりをかける。
「王国図書館に忍びこませて頂きました。
魔法はその時に覚えさせてもらいましたわ。
退いてくださいまし、カエサル。
何も逃げようなどとは思っていませんわ。
ただ知りたいのです。
この世界の事を。
何も知らないまま突然この世界を助けてほしいなんておかしいと思いませんの?」
カエサルの動きが、止まった。
そこから何かを思案するかの様に下を見ていたが、決心がついた様でこちらを見た。
「···20日だ。
20日間だけこの城の外に出そう。」
「本当ですの!カエサル!」
喜びで大きな声を上げた私をカエサルは諌めた。
「ただし、城下町だけだ。
外は魔物がいて危険なのだ。
必ずこの約束は守ってくれ。」
カエサルの眼を見て真摯に答える。
「分かりましたわ。
誓います。
ありがとうございますわ、カエサル。」
勿論この言葉は嘘だ。
私は何としてもここから出ないといけないのだ。
それにしても魔物か。
上手い具合に使えれば脱出の手助けになるかもしれない。