13.英里の能力※英里視点※
まずはこの部屋の謎を解く必要がありますわね。
あまり時間はありませんわ。
敵も悠長に待ってくれる訳でもないでしょうから。
私に追い討ちをかける様にトールは空中に石を放つ。
あの石の魔法が発動するまでに何とか力を取り戻さなければ···
もう一度同じ挙動をするかどうかは分かりませんし、それに私の槍さえ戻ってくれば対抗策として使えるはずですわ。
あの魔法、あれだけ発動に時間がかかるだけあってかなりの速さと威力でした。
直撃すれば昏倒は免れないでしょうし、あのスピードで変則的な動きをされれば対応できる自信はありません。
つまり消去法的に力を取り戻すしかないということですわね。
キースの言葉を遡って考えてみると、能力が使えない原因はこの部屋の中にあると思っていいですわね。
しかし私が部屋に入った時にはまだ魔法が使えましたわ。
あの時と今で違うものを探せば、それが攻略のヒントになるはずです。
沙弥さんは拘束されていたから魔法が使えなかった?
いや自由に動ける私も魔法を発動できない時点で、拘束されているかどうかは関係ないはずですわ。
それではいつの間にか知らない内に、私達二人に何か細工を施していた?
いや直前まで魔法は使えていましたわ、事前に細工しているならその前から発動できなくなっていなければ辻褄が合いませんわ。
やはり魔法は個人ではなくこの部屋にかけられたらようですわね。
だとするならば、何か仕掛けがあるはずですわ。
私はさっと部屋全体を見渡し、異変がないか調べる。
少し眺めた程度ですが、王国図書館で罠に気付けるように部屋にあらかじめ施しておく魔法は目を通しました。
一つ一つを判断することは不可能ですが、これらの魔法には共通の事柄が存在しています。
それさえ見つけることができれば・・・!
床···無し、天井···無し、壁は···あった!
壁には紋様が描かれていた。
そして私はその紋様に見覚えがあります。
魔法使い同士の直接対決で相手の方が力量が上の場合、もしくは特別な力で圧倒される場合に用いられる事前設置型の封印魔法。
監視の目を盗んで図書館に通ったかいがありましたわ!
これらの魔法の効果は絶大ですが、繊細な魔法故に些細な亀裂も致命傷になりうります。
間違いないですわ!
私の読んだ本が間違ってさえいなければ、発動する際の条件を崩すことによって・・・
私の力は元に戻りますわ!
私の周りには私が壁を壊した際に散らばった壁の欠片がたくさん落ちている。
私はその一つを拾い、壁の紋様に向かって放り投げる。
欠片が紋様に当たった瞬間、硝子が割れる様な音が部屋中に響いた。
その直後に石の魔法が発動し、到底避けることのできないスピードの雷が英里の身体を飲み込んだ。
「貴様、なぜこの魔法の弱点を知っている。」
監視には嘘をついて図書館の魔法書を読み漁っていましたが、それもこれまでみたいですわね。
まだまだ調べるべきものが沢山あったのだけれど。
それもしかたありませんわね、一番大事なのは自分の命ですわ。
「ご想像にお任せしますわ。」
「···王国図書館か。
警護兵め、あれほどしっかり注意しろと言ったはずだが。」
適当に誤魔化してみるもののやはり効果はないようですわ。
キース・・・この男自身の能力も不明ですし、どんなことをしてくるかの予想もできません。
油断していい相手ではありませんわ。
「その槍···骨龍槍か。
それが貴様の能力か、結城 英里よ。」
「さぁ?どう思ってもらっても結構ですわ。」
尚も言葉で私の情報を引き出そうとするキースに私は苛立ちを覚えた。
恐らく口でこの男に勝つことは不可能、今私にできるのはとにかく誤魔化して真偽を鈍らせること。
なんだか負けてるみたいで悔しいですし、釈然としませんが。
キースは私の言葉を聞くと不気味な笑みを浮かべた。
「あぁ、そうだな。確かにどうでもいい事だ。
今重要な事は、貴様はもう不要な存在になったということだけだからな
トール、許可する。結城英里を殺せ。」
トールは無表情で頷くと、石を空中に放った。
トールが取り出した石の数は3つ。
それが空中に放たれると先ほどまでの石よりも早く輝き始めた。
もう交渉の時間は終わったということですわね!
急いでトールに向かって走る。
キースはまだ樹木から抜け出せていない。
二対一でもトールを倒せさえすればまだ勝機はありますわ!
まず飛んできた雷は二つ。
その二つを身を捩りながら回避する。
一つだけワンテンポ遅れてきた雷を槍で凪ぎ払い打ち消す。
キースの言っていた通り、この槍が私の能力。
図書館では魔を打ち払う力があると書いてありましたわ。
私が人の目を盗んで魔法を学べたのも、自分で作り出した魔法をこの槍で消す事ができたからですわ。
三つの雷を突破した今、丸腰のトールがそこにいるだけ。
ここまで簡単に突破されると思っていなかったのか、トールは棒立ちのまま何もしてこない。
(その首、もらいましたわ!)