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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

そして少女は平行世界の夢を見る ~あいつは清楚で、あたしは喪女で~

作者: 小東のら

「ご無事でしたか!?聖女様!?」


 巨大な竜を打倒し、勇者様が私に近づいてくる。

 松明の明かりだけで照らされた薄暗い洞窟の中、勇者様が私の手足の拘束具を壊し、私に自由を与えた。


「ゆ……勇者様………」


 立ち上がろうとするが体に力が入らない。3日も捕えられ、体中が痺れている。体力も精神も限界だった。

 もう駄目だと思っていた。自分はここで死ぬのだと感じていた。魔物によって残酷な死を与えられるものだと思っていた。


 限界の中、勇者様が私を救ってくれた。


「ご無理をなさらないで下さい、聖女様。あなたの命はこの国の民全ての支えなのです」

「…………」


 倒れこみそうになる私の体を勇者様が全身で受け止めてくれる。

 彼の胸に顔をうずめる。自分の全身が火を噴くように熱くなるのを感じた。


 密かに憧れていた彼。その人が私の命を救ってくれた。もう駄目だと思ったところに手をさし伸ばしてくれた。


 想いが爆発しそうになった。

 それを堪えるためか……あるいはその想いを伝えるためか、気が付いたら私は勇者様の背に腕を回し、強く強くその体を抱きしめていた。


「………聖女様」

「………」


 彼もまた私の腰に手を伸ばし、私のことを抱きしめてくれる。

 勇者様はしばらくそのままでいてくれた。


 静かな時間がゆっくりと流れていった。




* * * * *




 と、いう夢を見たんだ。




「………またなんちゅーアホな夢を」


 寝ぼけ眼で目が覚める。

 髪はぼさぼさ、部屋はぐちゃぐちゃ。


 さっきまで夢で見ていた透き通るような銀色の長い髪は見る影もなく、てきとーに伸ばしたてきとーな髪にたくさんの寝癖がついていた。

 雑に顔を洗い、歯を磨き、バナナを一本食べる。ハンガーにもかけていないシワだらけの聖女服に着替え部屋を出た。


「あ、聖女様!おはようございます!」

「聖女様!お疲れ様です!」

「………うす」


 あたしは聖女である。

 国と教会に認められた聖なる力を持つ特別な女性だ。魔族との闘いにおいて大切な戦力になる存在であった。


 そう、あたしは聖女である。

 夢の中の出来事は何もかも噓ではない。あたしは聖女で魔族との闘いにこの身を捧げている。銀色の長い髪を揺らし世界を魔族の脅威から守っている。

 勇者も実在する。凛々しく、逞しく、世界の希望そのものであった。


 実在する人も、国も、土地も、機関も全く一緒である。

 夢と現実の差はそれほど大きくはなかった。


 ただ1つ……いや、2つ大きく違うことがあった。

 私の中の世界が真っ逆さまにひっくり返るほど大きな違いが2つあった。


「聖女様!軍隊長からの指令です!本日予定通り、聖女様の部隊には西の城の奪還を遂行して頂きます!」

「…………あのね、何度も言うけど、ふつー、1つの部隊に城落としなんて命じるもんじゃないわよ……」

「も、申し訳ありません!聖女様が難しいと仰られるならば、私上層部と掛け合ってきます!」

「………別にいいわよ。やればいいんでしょ?」


 ふんと、鼻息を漏らす。

 別にいつものことだ。いつものことなのだ。


「………ところでベイグ………勇者達の部隊はどこで戦うの?」

「はっ!勇者様の部隊は東の湿地の攻略を行っていただきます!剣聖殿の部隊と魔女様の部隊も同じくそこを攻める予定となっています!」

「はぁ……あっちはタノシソーね………」

「戦力を均等に分けるとどうしてもこうなります!」

「うっさい」


 あたしはかったりーと思いながら、馬に乗りとぼとぼと前進をする。

 とぼとぼとぼとぼゆっくりと敵の城に向かって馬を歩かせた。


「ふはははは!よく来たな!聖女よ!だが貴様がここに来ることは分かっていた!」

「貴様が相手だ。罠の1つや2つで卑怯などと言ってくれるなよ?」

「この魔王四天王、その四人すべてが力を合わせ………」

「聖女よ、貴様を葬ってやろう」


 城をがつがつ攻めていると、四人の大きくて偉そうな奴らが現れた。

 なんだ?こいつら?


「ま……魔王四天王!?何故こんな場所にっ!?」

「しかも4人全てが揃っている!?」

「もう駄目だ……勝ち目なんてあるわけない………」


 震え、泣き出す者たちが出てくる。あたしの部隊の兵士たちはその、魔王四なんちゃらにめちゃくちゃ怯え、生き残ることを諦めていた。


「行くぞ!この城が貴様の墓標となるのだっ!聖女よっ!」

「聖女ぱーんち」

「ごぶふおぉっ………!?」


 なんちゃら天王の1人が死んだ。

あたしの聖女ぱんちを食らって死んだ。あたしのぱんち1発によって息絶えていった。臓物を吹き出しながら死んでいった。


「なにぃっ!?」

「馬鹿なっ!?」

「あいつは魔王四天王の中で最強の男っ!」

「聖女きーっく」

「ぶほおぇあっ!?」

「聖女えるぼー」

「ごぶふあぁっ!?」

「聖女びーむ」

「あぎゃらんてっ!?」


 勝った。

 魔王四天王は私の1撃1撃によって死んでいった。あたしの攻撃によって体を四散させながらあっさりと死んでいった。


 魔族たちがこしらえた高級な絨毯に彼らの血が(にじ)む。

 ちょっと可哀想だったかなと思わないでもない。

 ただ、自分の手についた魔族の返り血をじっと見てよく考える。


『ご無事でしたか!?聖女様!?』


 夢の中での勇者の言葉が耳に響く。

 その私は勇者に命を救われた。魔族に囚われ弱々しく怯えていた中、まるでおとぎ話のように勇者様が私を魔の手から救ってくれた。

 夢の中の私は勇者の腕に抱かれ、まるで夢のようだと思っていた。おかしな表現ではあるが、夢の中の現実は夢見心地の良い華やかな恋で満ちていた。


「はぁ……ばからし………」


 この世界と夢の中の世界で大きく異なっている点が2つある。

 それは小さな違いであった。

 しかし、世界を揺るがすほどの大きな変化を孕んでいた。その変化が世界にどのような結果をもたらすのかは誰も知らない。


 でも確実に言えることは、それはあたし自身にとって世界がひっくり返るほど大きな違いだってことだった。

 あたしの何もかもが変化してしまうほどの大きな違いであった。


 つまりあたしは夢の中の私よりも、


 ―――ものすっごく強かった。






 あと喪女――つまりモテない女であった……………




* * * * *


【夢】


「ベイグ様っ!ベイグ様っ……!死なないでっ………!」


 聖女が悲痛な叫び声を上げながら泣いていた。

 彼女の腕の中には勇者の体があり、その体は闇の魔法を受けボロボロであった。

 細い息をひゅうひゅうと吐き、聖女が必死になって使っている治癒魔法によってなんとか命を繋いでいた。


「ふは、ふははははっ!勇者はもう終わりだ!我が敗れるとは思わなかったが、勇者の命と引換ならばあの世で面目が立つというものよ!」


 今この場にはもう1人、命の火が消えそうになりながら床に倒れ伏せている者がいる。

 魔王四天王の一角だった。

 勇者の剣によってもう助からない深い傷を負い、床の絨毯を自らの血で汚していく。彼の最後の笑い声がこの広い部屋に響いていく。


 勇者と聖女の一行は今日、魔族に奪われた西の城の奪還を目指していた。

 城の敵を薙ぎ払い、順調に戦いを進めていたのだが、最奥の部屋でその男は待っていた。


 魔王四天王の1人、悪夢のボーンド。

 絶望が待ち構えていた。


 始め、魔王四天王のボーンドは圧倒的な力によって勇者たちを寄せ付けなかった。魔法も体術も一級品であり、魔王四天王と人間たちの格の違いを見せつけていた。

 人の域ではどうしようもない力を魔王四天王はまじまじと見せつけた。


 しかし、勇者もまたただの人間ではない。

勇者は戦いの中で成長していた。

 体が傷つきながらも必死に振るその剣筋は、一太刀一太刀ごとに鋭くなっていく。魔王四天王と命を削りあう一瞬一瞬が勇者を、いや、勇者の仲間たちを成長させていた。


 そして、長い長い戦いは終わりを迎え、やっと勇者の剣が魔族の胸の深い場所に届いた時、相打ち覚悟の闇の魔法が勇者の体を焼いた。


「ベイグ様っ……!勇者様っ……!私……嫌っ……そんなの嫌っ………!」


 聖女が縋り付きながら勇者の胸で泣いている。

 勇者が失われてしまうことなどあり得てはいけないことであり、それは国にとっても世界にとっても大きな損失であった。


 しかし、聖女にとっては世界の命運などどうでもいい。

 ただ、愛おしい人が失われそうになっている。その事実に涙を流し、打算の混じることのない純化された悲しみが彼女の息から漏れていった。


 闇の炎は瘴気となって勇者の体に纏わりついている。死にかけの今も尚、勇者の体を蝕んでいることは容易に想像がついた。

 闇をはがす方法などない。勇者を救う手段などない。


 それでもただ、奇跡を祈っていた。


「………私にもっと力があったら……」


 聖女が薄暗い声を吐く。


「私がもっと強かったら、こんなことにはならなかったのでしょうか………」


 聖女の胸によぎるのは無意味な後悔だった。

 聖女は日々の鍛錬を怠っていたわけでもないのに、ただ自分の弱さが不甲斐なかった。考えても意味のないことがぐるぐると胸の中を巡る。

 

 彼女の心は沈んでいった。


「………だい……じょうぶで……すよ?イーナ様……?」


 そんな時にか細い声がした。

聖女の胸に抱かれる勇者が弱々しい声で聖女の名を呼んだ。


「っ!?ベイグ様っ!ベイグ様っ!意識があるのですかっ!?しっかり!しっかり!死なないで……!」


 勇者のか細い声を聞き、聖女は彼を抱く腕に力を込める。


「俺は……死ねませんよ……イーナ様……今日の朝………約束しましたから………

君の作った……晩御飯を………食べようって……」

「晩御飯………」

「大丈夫……君の前では……死ねませんよ……俺は………」


 そう言いながらも彼は少しずつ息を弱くしていき、未だ纏わりつく闇の瘴気によって命の灯火を小さくしていった。

 もうどうやっても助からない。それは聖女も勇者の仲間も、強がっている勇者自体も分かっていた。命の鼓動の音が消えようとしていた。


 聖女は悲しくて、胸が張り裂けそうになって、どうしようもなくなって、


―――勇者にそっと口づけをした。

少しの涙を流しながら。


「えっ……?」

「え?」


 その時、勇者の体から光が溢れだし、纏わりついていた闇の瘴気が強く穏やかな光に呑まれ掻き消えていく。口づけをしたせいなのか、聖女の力が勇者の中へと入っていき、邪悪な力を祓っていった。


「え?え……?なに?何が起きているの……?」


 一番狼狽えているのは聖女であった。

 今の状況を作りだしたのは彼女であるにも関わらず、彼女にはこの状況の心当たりが無かった。つまり、何でこのようなことが起こっているのかまるで分らなかった。


「……これが聖女の隠された力……」

「どんな魔も祓う穢れ無き力……」


 周囲の皆は段々状況を把握していく。

 聖女の口づけにより彼女の力が勇者の体の中に流れ込み、直接彼の体を癒して魔の力を追い払ったのだ。

 よく分かっていないのは聖女だけで、ぐるぐると目を回し混乱を続けているだけだった。


 勇者が目を開け、聖女を見る。

 今の今まで消えそうだった弱々しい息は落ち着き始めている。混濁とした意識が徐々にはっきりとしていく。


 体を起こし、今度は勇者の方から聖女に口づけをした。


「ありがとう」


 先程まで死にそうであった男の顔とは思えないほど穏やかな笑みで聖女に語りかけた。


「―――――っ!」


 聖女は混乱と恥ずかしさと嬉しさとどうしようもない熱情が濁流のように心の中でごちゃまぜとなり、「きゅう」という小さな声を出して意識を手放した。


 その城の攻防は大団円で幕を閉じた。




* * * * *


【現実】


「あほかーーーーーーーーーーっ!?」


 気持ちが良くなるほど清々しい快晴の朝……とかそんなことがどうでも良くなるほど鬱屈(うっくつ)とした目覚めが私に襲い掛かった。


 また阿呆な夢を見た。

 聖女であるあたしがキスをして勇者を救う?

 アホかっちゅーねん。アホアホアホアホアホ。

 そんな手垢にまみれたありふれたシナリオ、今じゃ何処にも流行らないっちゅーねん。


「はぁ……またこの夢………」


 自分自身が情けなくなりながらあたしは自分の小さな手で顔を覆う。

 なんじゃ、これ。欲求不満ってやつなのか?


 あたしはよく似たような夢を見る。

 勇者と恋仲になり、世界を守る戦いを共に乗り越えていく夢だ。

 

 厄介なことにこの夢は現実と多くの点が似通っており、出てくる人、国、文化背景はほとんど同じだ。

 しかし大きく違う点がある。

 

 ――現実のあたしは夢の私よりも断然強く、そして喪女であるという事だった。


 そう、強過ぎたのだ。

 夢の中では私と勇者は共に連れ添い力を合わせて戦うものだが、現実の私は違う。まずあたしと勇者がチームを組むことは無い。


 何故ならあたしが強過ぎるからだ。

 効率的に考えて、いつも別のチームを組むこととなる。


 大体まず強すぎるせいで彼とのきっかけが失われているのだ。

 1年前、あたしは魔族の竜に攫われたことがあった。夢の中の私は生存を半ば諦め、悲しみで途方に暮れていたところを勇者様に助けて貰っていた。

 それが勇者様との絆を深める大きなきっかけとなっていた。


 ところが現実のあたしはどうだ。

 攫われたことには攫われた。

でも自力で拘束を解き、自力で魔族の竜を殴り倒してきたのである。


 そうじゃい。

 あたしは自分の力で脱出したのだ!

 誰かに甘える余裕などなく、魔力の鎖をふんと力を込め引き千切り、ただ自分の力を信じて戦ったのだ!

 暴れ回り、竜とタイマンを張り、自らの拳で打ち勝ち、津波のように襲い来る有象無象を蹴り飛ばしたのだ!


 甘えなどないのだっ!生きるか死ぬかの戦いに打ち勝ったのだ!諦観も敗走も無かったのだ!自らの戦いを自らの力で乗り切ったのだっ!

 死闘と修羅場を潜り抜け、孤高を高らかに掲げたのだっ!


 勇者が助けに来たときには後の祭りであり、その竜の拠点は私の支配下となっていた。

 勇者様が助けに来てくれるというドッキドキなイベントは起こりようが無かった。


 私はあんなに頑張ったのに……

 頑張ったのに……

 なのに………


 何で(あっち)の方があたしよりいい思いしとんじゃい!?

 どういうことなの!?なんであっちの方がいい男掴まえてうっはうっはなうっきうっきな思いしとんの!?

 あたしは自力で頑張って窮地を乗り切ったって言うのに、乗り切ってない夢の方に恋人が出来て充実した日々を過ごしているってどういうことなの!?


 現実のあたしときたら強いが故にきつい戦場に送られるし、敵の魔族にも目を付けられるし、彼氏なんかいないし、戦闘能力が高かったからっていい事なんて一つもない。


 倒せよ!

 魔王四天王ぐらい1撃で倒せよ!

 容赦なくぶっ飛ばしちまえよ!


 あー!もうなんじゃい!この差は!

 あっちは大して強くも無いのにいい思いをして、こっちは魔族との戦いでかなり貢献しているのに喪女のままだし!


 ちなみに喪女と言うのはモテない女のことを指す。

 ただ彼氏がいないと言うだけでなく、モテないだけの理由を持っているだけの粗忽な女性を指すことが多い。

 がさつだったり、家事掃除が出来ないとか、おしゃれじゃないとか、性格が捻じ曲がっているとか、そういう女性のことを指すのだ。


 つまりあたしのことだ。

 そして、夢の私の事では無い。

 夢の中の私はモテる。性格は良く、身だしなみも整っており、料理も上手である。女としての力量は完璧に備わっており、その点に置いてあたしと私が戦ったらあたしは一つも勝ち目はない。


 そう、料理も上手なのだ。

 西の城の戦いの前に、夢の中の私は勇者に手料理を作る約束をしていた。

 まさに出来る女、モテる女と言う感じである。


 アホか!

 なーにが手料理が食べたい、だぁ?アホかっちゅーねん。牛丼屋の牛丼と手料理で何が違うって言うんじゃい。

 だあほぉ。

 はいはーい、わかってまーす。ひがみでーす。あたしは料理なんて作れないでーす。

 作れるわけねーだろーが、あほぅ。料理っつーもんはなぁ、食ってくれる相手がいないと作る意味がほとんどないんじゃあ。


 1人で作って?最初は楽しいけど、すぐ飽きるんだわ、これが?

 毎日3回やることにしては労力大きいし、1人料理慣れてくると寂しさと気まずさがこみ上げてくるし?やる気なくなるっちゅーんじゃあ、どあほう。


 気まずさ?1人っきりなのに何に気まずさを感じるの?

 そう言う奴、そこに直れ。誰もいないところでも気まずさや空気の悪さを感じるっていうのが喪女っていうもんなんじゃい。


 ばーか、ばーか。


 ……………はぁ。

 なんじゃい、この格差。

 こんなに気分が滅入るのも、部屋が汚いのがいけない。

 でも部屋片付けるのめんどくさい。

 誰か片付けてくれる彼氏が出来ないかなぁ………

 いや、こういうがさつさのせいで彼氏が出来ないのか?


 はぁ。

 あたしのことを甘やかしてくれる彼氏が欲しい。

 そんなに多くのことは望まない。

 ついでにイケメンで、賢くて、将来有望で、イケメンで、お金持ちで、身長高くて、イケメンで、性格が良くてイケメンなら言う事ない。


 ……くっそ虚しい。

 とりあえず、今日は魔王直属の幹部を苛めてこないといけない。

 勿論、ほぼ一人でだ。

 部下の仕事は周囲の雑魚掃除なのだ。ボスクラスはいつもあたし一人だ。

 勇者たちは仲間と組んで戦っているっているのに。


 あたしは溜息をつきながらハンガーも使っていない床に置き捨てられたしわくちゃの聖女服に袖を通し、部屋を出た。

 勿論、夢の中の私は丁寧に整頓されたシワ一つない綺麗な聖女服を着ている。


 くそう。

 いちいち夢との差を思い知らされる。


 そうしてあたしは仕事に出て、魔王軍の幹部を一撃で仕留めた。




* * * * *


【夢】


「今夜も美しい夜ですね」

「あぁ、月がとても綺麗だ」


 貴族の住む豪勢な城の部屋の一角で聖女と勇者が共にお酒を嗜んでいた。

 部屋のバルコニーに出て、細かい装飾の施された綺麗な椅子に腰かけ、上等なワインを啜る。


 でも星が綺麗に見えるのは金のかかった調度品やお酒のせいでは無い。

 ただ愛する人が傍にいる。それだけで1人で空を見上げるより星々が何倍も綺麗に見えた。


「このおつまみの燻製、美味しいですね。綺麗な星と美味しいお酒によく合う」

「あ、いえ……そんな大したものじゃないですよ……」

「え………?もしかして、イーナ様が作られたのですか?」

「はい。どうしても高級なワインには劣ってしまいますが………」

「いや……どうして、なかなか……」


 そう言って勇者はワインを一口喉に流し、彼女の造ったつまみを頬張る。つまみはワインに劣るどころか、ワインの良さを引き上げているようにしか思えなかった。


「……もうすぐ最後の戦いですね」

「そうですね、魔王との戦いが近づいています………」


 2人の体は強張っていた。

 何度も死線を潜り抜け、絶望を背負った魔王四天王との戦いに勝利を収め、他にも数々の強敵を何とか打ち破り、皆の体も心も既にボロボロであった。

 ボロボロでも戦うしかなかった。世界の為に、国の民の為に。

 それが勇者たちの使命であったから。


 それでも体は強張るのだ。

 最後の最後、魔王との戦いが近づいているのだから。


「時々思うんですよ……」

「はい?」

「俺って本当に勇者なのかな……って……」

「―――――?」


 勇者は俯きながら手を組み、重い声を出した。


「―――どういうことですか?」

「勇者ってのは皆に救いを与える者のことです。人がどうしようもない悪に苦しむ時、勇者は人々の救いとなって闇を打ち払うんです。どんなおとぎ話も、伝説もそうなっている………」


 勇者が笑いながら顔を上げた。自嘲気な笑みを浮かべていた。


「でも俺は……俺が救いを求めているんですよ」

「…………」

「今までの戦いもギリギリだった。苦しくない戦いなんてなかった。

俺は本当に魔王に勝てるのか?俺が負けたら世界はどうなってしまうんだ?俺は勇者の称号を背負えるほど本当に強いのだろうか?

恐くて恐くて仕方がないのです………」


 星が雲に覆われ見えなくなった。


「誰か……俺以外にもの凄く強い人がいて、その人が魔王を簡単に打ち倒してくれる……そんな荒唐無稽な救いを、俺は心の中で求めてるんです」


 勇者の体は震えていた。

 こんな姿は兵の前では絶対に見せない姿であった。悩みや苦しみを分け合うのはすぐ傍にいる仲間にだけ、それもここまで弱った姿を見せるのは初めてであった。


 聖女は席を立ち、勇者をぎゅっと抱きしめた。


「きっと……きっと、そんなに強い人が存在するのだとしたら、その人はきっと孤独ですよ」


 聖女が勇者に優しく囁く。


「そんな人はきっと全てを一人で解決できて、人を頼らず、仲間を持たず、ただ前を向くだけの孤独な人間となってしまうでしょう」

「―――――」


「もし勇者様が何でも1人でこなせる最強の人間だったら、きっと私も必要なかったでしょうし、きっと孤独だったでしょう」


 聖女は勇者にキスをした。


「私は嬉しく思います。勇者様が私を頼ってくれるお人であって」

「―――――」

「そして、私達は人間で、私達は私達で一生懸命頑張るしかないのです」

「…………あぁ、そうだな……そうですね、イーナ様の言う通りだ」


 勇者がその言葉を言い終わるか否か、聖女を力強く引き寄せその唇を少し強引に奪った。


「んっ……!」


 勇者が聖女を抱きかかえる。

 口の中で官能な刺激が弾け、朦朧(もうろう)とする聖女を寝台の上に連れて行く。勇者は自前の強い力で有無を言わさず聖女の体をベットの上に押し倒した。


 聖女には抵抗する暇も無かったし、抵抗しようともしていなかった。

 ただ、激しいキスによって目は蕩け、頬は紅色に染まっている。


「嫌ですか?」

「…………いえ」

「誓う。優しくするよ」


 襲い掛かる獣は身を強張らせていた。

 彼はただ欲望に身を任せたわけでは無いのだ。理性を交えた勇気と覚悟を本能に交えながら、強く緊張して、恋人と契りを交わそうとしていた。

 体がふるふると震えているのは勇者の方であった。


「いえ………」


 聖女は首を振り、否定の言葉を口にした。

 勇者の心臓がドキリと跳ねる。拒絶されたのではと、勇者の緊張は極度に達していた。


 聖女は頬を赤く染めながら、恥ずかしそうに、どんな男も魅了するかのような笑みを浮かべ言った。


「優しくするより……激しくして下さい………」


 色の含んだ聖女の声の前に勇者の(たが)が外れてしまった。

 窓から零れる月の明かりが、重なった二人の影を部屋に映していた。




* * * * *


【現実】


「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?


 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?


 あ゛ん゛ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?


 跳ね起きる。


 なにしてくれてんのっ!?

 な゛に゛し゛て゛く゛れ゛て゛ん゛の゛っ゛!?


 あいつ、な゛に゛し゛て゛く゛れ゛て゛ん゛の゛っ゛!?


「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 頭を抱える。

 頭を抱えるしかない。

 熱いっ!頭が熱いっ!頭が熱くて仕方ないっ!


 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛生々しかったっ!


 生々しかったっ!

 生゛々゛し゛か゛っ゛た゛っ!

 め゛ち゛ゃ゛く゛ち゛ゃ゛生゛々゛し゛か゛っ゛た゛っ!


 呻きながらベットの上でブリッチをする。

 うごごごごごご………!

 意味などない!意味などないけど、冷静ではいられない!奇行であることはあたしでも分かっている!でもとてもじゃないけどじっとしていられれないっ!


 くそぅっ!

 く゛そ゛ぅ゛っ゛!


 言いたかないっ!言いたかないけどっ、冷たいっ!どこがとか言いたかないけど、濡れて冷たいっ!

 くそぅっ!くそぅっ!

 喪女になんてもん味あわせるんじゃあ、あんにゃろうっ(夢の中の私)


「やめろぉっ……や゛め゛ろ゛ぉ゛っ゛…………」


 頭の中でリフレインする。

 ぐるぐるぐるぐると頭の中で同じ考えが回っていって、思考と言う遠心力に脳が振り回され頭がはじけ飛びそうになる。

つまりよぉ……、バーーーンと破裂しそうなんだよぉっ!頭がよぉっ!


 あ゛ぁっ……、熱゛っ…………!あ゛っつ゛……!

 体があ゛っつ゛………っ!あついあついあ゛つい゛っ!

 火照ってる!火照ってやがる!喪女として十数年生きてきたあたしの体が火照ってやがる!スーパーエリート完全究極喪女であるこのあたしが一生経験できないであろう夢の刺激に猿のように体を火照らせてやがるっ!


 あ゛ーーーーーーーーーーっ!

 くそおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!

 ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶあいつら()のせいだぁぁぁぁぁぁっ!


 気分が優れなかった。

 気分が優れなかったからめっちゃ暴れた。

 魔王城に至るための最後の砦『闇の塔』の壁を砕きながら練り歩き、魔王軍最終元帥に1発1発大量の気合と行き場のない劣情を込めた拳をぶち込んでいった。負のオーラを纏った拳を20発、30発と入れておいた。


 八つ当たりのようなあたしの攻撃を喰らい、魔王軍最終元帥は爆発四散し『闇の塔』はあたしの拳圧によって空へと昇って行った。

 部下がその様子を上層部に報告していたが言っている意味がまるで分からないと怒られていた。報告が支離滅裂とされ、その部下はカウンセリングを受ける羽目になっていた。


 わりぃ。




 そんな部下を放って置いてあたしは軍の食堂へと足を運んだ。

 敵の拠点を奪い簡単に改装した簡素な食堂で、戦いの後を無理矢理補修した小汚い場所である。壊れた場所にはベニヤ板が張り付けられて、廃材を使って作られたようなボロボロの机や椅子が適当に並べられている。


 出てくる料理も大して美味しくは無い。煮た芋と具の少ないうすいスープが出てくるだけだ。

 最初、「聖女様には真っ当な食事を」と言う話もあったが辞退した。

 特別扱いされ自分だけがいいものを食べているというのは精神的に良くない。周囲から嫉妬とやっかみの視線が向けられているような気がして、食事が美味しいかどうかなんて分からなくなってしまうのだ。


 つまり喪女ってことだよぉっ!

 人の目がめっちゃ気になるんだよぉっ!大丈夫!?あたし嫌われてない!?生意気だと思われてないっ!?


 あぁっ!ほんとだったらこの飯も人目の付かない場所で食べたい!

 トイレの個室に持って行って、一人で黙々と食べたいっ!

 聖女なのに友達もいないで食事してるとか思われたくないっ!聖女なのにぼっちだとか知られたくないっ!


 ほんとはもう知られているけどなっ!

 大分前から周囲から生温かい目を向けられているのに気付いているけどなっ!


 そんなこんな頭の中でぐるぐると思考を巡らせていると、自分の体に影が差すのに気付いた。机の向かい側に誰かが立っていた。

 顔を上げてその人を見る。食堂の席は満席に近く、私の対面の席はたまたま空いていた。


「あれっ?イーナ。お久しぶり」

「………………ぎょぎょっ!?」


 目の前にいたのはベイグ―――つまり勇者様であった。

 夢の中の私と愛を育んでいる相手だった。


「前、失礼するよ」

「ぎょぎょぎょっ………ぎょぎょぎょっ………!?」


 目の前のこのやろーは私の動揺などお構いなしに、気軽に対面に座った。

 思わず変な声が漏れてしまう。当たり前だ。それほどまでに驚いたとかそういう以前に、私は喪女なのである。

 男の前で緊張しなかったらそれはもう既に私ではない。


「最近どうだい?イーナ?」

「ぼっ………ぼぇっ…………!?」

「最近の調子さ」


 最近の調子?

 最近の調子って……良くないわっ!あほうっ!

 良い訳あるか!あんたのせいじゃいっ!あんたと妙な私が夢の中で出てくるせいじゃいっ!


「…………なんかさっきから、俺から目を背けていないか?」

「………………気のせい」


 顔なんて向けられるかっ!

 あたしが今日どんな夢見たか知ってんのかっ!?

 あんたとめっちゃめちゃなことした夢を見たんだから!


 どうしてくれるんだ!

 大人の階段なんて登る気さらっさらなかったのに、リア充どもに縄を括り付けられ階段の角に背をぶつけながら無理やり引き摺られ大人にされたあたしの気持ちが分かるか!バーカ!


 あーもう!さっさとどっかいけぇ!いくら席が無かったからって対面に座るなぁっ!

 あんたとあたし、別に会話するほど仲良くないだろうがあっ!

 会話なんて数度しかしたことないだろうがぁっ!


「礼を言いたくてね」


  いきなりベイグはそう言った。


「……礼?……お礼言われるようなことなんて何もしてないわ」

「俺には魔王を倒せる自信がない」


 勇者の顔は真剣だった。


「君がいてくれて本当に良かった。君の力なら魔王だって倒せる。勇者として情けないかもしれないけど、君がいるから俺は心の底から安心ができるんだ」

「…………このおだては何が目的なのかしら?別に何も出せるものないわよ?」

「相変わらず捻くれてるね」


 ベイグは小さく笑った。


「…………そういえばあんた、あたしに敬語じゃないわね?」


 夢の中でのベイグは夢の中の私に対し丁寧な口調で語りかけていた。プライベートな空間でも勇者としての気品が漂う会話をしていた。


「ん?あぁ?そうか。敬語のほうがよろしかったでしょうか、聖女様。大変な失礼を致しました」

「……いや、別にいい。そういうつもりで言ったんじゃない。敬語じゃなくていい」

「うん?そうかい?いや、なんとなくさ、君って聖女って感じがしないから、敬語……ってのもなんか違和感あってね。おっと、これも失礼だったかな?」

「……別にいい。自覚はしてる」


 聖女っぽくないってよく言われているの知っているし、自分が一番自分のことを聖女っぽくないって思っている。

 っていうか敬語で話されると体がむずむずする。フランクでどうぞ、フランクで。

 あたしに敬語とか似合わない。


「…………ベイグは敬語使ってないほうが素なの?」

「ん?いや、どうだろうね?別にどっちが素ってわけでもないんじゃないかな。剣聖殿と喋る時は敬語だけど特に固い感じはしないし」

「……ふぅん」


 別に夢の中のあんたは気取っているって訳じゃないのね。

 ふぅん…………


「魔王の討伐はよろしく頼む。情けないけど、俺たちだけじゃどうしようもないから」

「…………」


 ベイグが頭を下げる。

 別にいい。別に情けないとは思っていない。

 だって夢の中の私はあなたに惚れていて、


 ―――現実のあたしだってあんたに惚れているのだから。




 今から7,8年前くらいのことだろうか。

 あたしは教会から『聖女』として認定を受け、幼いころに親元を離れた。

 友達もなく、訓練はきつく、魔物は恐く、いつも涙を隠して歯を食いしばって生きていた。

 『聖女様』と慕われても親しい人など出来なかった。世界に一人しかいない希少な『聖女様』なのだから当然だ。


 だからパーティーは苦痛だった。

 知らない人に挨拶挨拶挨拶挨拶。愛想笑いを浮かべ、つまらない話を楽しそうに聞き、人をおだて持ち上げ、わーすごいですねと相槌を打つ。


 私を誰だと思っている。喪女だぞ。その頃から喪女の片鱗が見えていたんだぞ。

 臆病なんだ。臆病なんだよ。こんなパーティーいられるかぁっ!


 そしてあたしは一通り挨拶を終えるとパーティー会場の隅で身を縮め、独り呆然としていた。

 息をひそめ、ただ誰とも会話しないように自分の殻を作っていた。


 そんな時に声をかけられたのだ。


「大丈夫?」


 それは小さな勇者ベイグだった。

 あたしを心配してお菓子をたくさん持ってきてくれたのだ。


 たったそれだけのこと。たったそれだけの小さなこと。

 ありふれた小さな優しさであり、何も大きなことは起こっていない。そのあと大した会話もせず、彼はお菓子を置いてあたしの元を離れた。


 たったそれだけのことで、その日からあたしはベイグのことから目が離せなくなった。

 パーティーの中でダンスが開催される。あたしはただ誰かと踊る彼を遠くからじっと見つめていた。


 あたしは彼をダンスには誘えなかった。臆病にも遠くから見ているだけだった。


 ―――でも夢の中の私は彼をダンスに誘い、共に踊っていた。

 それに少し嫉妬している。




* * * * *


【夢】


「僕の夢を聞いてくれませんか、イーナ様?」

「ダメですよ」


 真剣な眼差しの勇者を聖女はそっけなくあしらう。

 ここは敵から奪った城の一室であり、勇者と聖女はそれぞれ城の個室を1つずつ貰っているのだが、最早2人は1つの部屋しか使っていない。

 同棲状態である。


「大事な話があるんですよ」

「それは私にだって想像がつきますよ。それがきっと女性にとって最も嬉しいことであるということも……」


 聖女は頬を赤らめながら勇者から顔を背けた。彼女の顔は熟れたリンゴのように赤くなり、気恥ずかしそうに唇を尖らした。


「じゃあ!」

「でもですよ、でも、今は駄目です。今はその言葉をもらっちゃ駄目なんです」


 聖女は立ち上がり窓に近づいた。

 遠く遠く、ただ遠くを痛ましい表情で見ていた。


「だってもうすぐ魔王との闘いじゃないですか………」

「……………」


 勇者も押し黙る。

 皆が無事で済むか分からない戦いがすぐそこまで迫っていた。


「苦しい戦いの前の約束なんて不吉じゃないですか」

「……イーナ様はそういう迷信を信じる方なんですね」

「本や映画が好きなもので……」


 困難の前に希望を語ることは避けたかった。

 希望は熱く輝かしいものだが、困難はその希望を削り取りひびを入れる。死と言う障害が約束を粉々に砕いてしまうかもしれない。

 だからその後の暖かな未来を口にするのは憚られた。


 星を見上げる聖女の後ろから勇者がそっと抱きついた。


「イーナ様…………」

「―――!」


 聖女の体がピクリと跳ねる。

 2人の間で抱きしめ合うことはもう珍しい事では無い。それよりも凄いことをもう何度か致しているのだ。

 それでも聖女の鼓動が早まる。どくんどくんと喜びと緊張の脈動が聖女の中に波打ち、それが勇者にも伝わる。二人の温度が共有されていった。


「未来のことを語るのがいけないのなら…………」

「―――――」

「今、この場で……」


 勇者の顔が聖女の顔に近づいていく。目と目が至近距離で合い、2人は2人ともその目に情熱が帯びていることに気が付く。

 唇が近づいていく。あと数センチ。いや、あと数ミリ……


 聖女はそっと目を閉じた。

 代わりに勇者は口を開いた。


「今、この場でいたずらさせて頂きます」


 ―――勇者は聖女のおしりをくすぐった。


「きゃあっ!?」


 聖女は勇者の腕を払い、ぱっと彼から離れる。恥ずかしさで顔を赤くし、頬をぷくーと膨らませ上目づかいで不満を表した。

 窓から漏れる月の光が不機嫌な彼女の銀色の髪を明るく照らしていた。


「ははは、怒った」

「怒ります!誰だって怒りますよっ!今の今までロマンチックな雰囲気だったじゃないですかっ!何でお尻をくすぐるんですかっ!」


 カラカラと笑う勇者に対し、聖女は声を荒げていた。


「でも少しは緊張も解れたでしょう?」

「…………」


 勇者の言葉を受け、聖女は自分の胸の内を探る。

 確かに気負いがあった。魔王との戦いの前に心に痛みを感じていた。それが今この瞬間、少し和らいだ。


 ……いや、でもお尻くすぐるのはどうなのだろうか。

 乙女心を何だと思っているのだろうか。


 ハハハと笑いソファに腰かける勇者の横に、せめて不機嫌を表そうとするかのようにどかりと音を立てと乱暴に勇者の傍に座った。


「機嫌直してくださいよ、イーナ様」

「ふーんだ……」

「よしよし、いい子いい子」

「ふーんだ……」


 勇者が聖女の頭を優しく撫でる。

 さらさらの髪を乱さないように勇者の手が丁寧に揺れていた。


「イーナ様がこの前言ってくれました」

「え?」

「勇者だけでなく、皆で頑張ろうって。1人の力だけでなく、皆で戦って困難を乗り越えようって」

「はい……」

「あの言葉、嬉しかったです。そして、それはきっと、天才では無い私達にはぴったりな言葉なんですね」

「ベイグ様は天才だと思いますが……でも、皆で力を合わせればきっと……きっと………」

「共に戦って下さい、最後まで」

「はい!」


 聖女は華やかで、しかし奥に堅い覚悟が見えるような笑みを浮かべた。勇者はその顔を見て満足そうに頷いた。


 勇者は聖女の頭を撫でていた手を下ろす。

 手は髪から顔の頬へと伝い、首を(さす)り肩を撫で、そして…………


 更に降りてきた勇者の手を聖女はぴしゃりと払った。


「…………」


 聖女のじとっとした目が勇者を見据えていた。

 勇者はいたずらがバレた子供のようにばつの悪い笑みを浮かべていた。


「今、胸触ろうとしていましたでしょ」

「…………さぁ?なんのことでしょ?」

「…………」


 聖女は口を尖らせた。


「分かってます。ベイグ様は本当はエッチな方だって最近よく分かってきましたから」

「いやぁ、そうでもないでしょう……?」

「絶対そうですからっ!2人の夜、どれだけ私がボロボロにされているのか分かってるのですか!?」

「い、いやぁ……イーナ様が激しくしていいって言ったから、それについ甘えて」

「―――――」


 聖女は顔を真っ赤にしてこほんと1つ咳払いした。


「ま……まぁ、べ、別にエッチな人だってのはいいのです。……いいのです。…………私だって気持ちいのですから…………」


 聖女の言葉はどんどん小さくなっていって、最後の方は蚊の鳴くような声になっていた。


「でもっ!でもです!これはけじめですっ!魔王との戦いが終わるまで、不純な行為は一切禁止ですっ!」

「えぇっ!?」


 聖女がぷいと顔を背け、勇者が愕然とする。

 彼はがっくりと項垂れた。魔族との激しい戦闘の後の、愛おしい彼女との背徳的な交流は彼の心をとても和らげていたからだ。

 要するに単純に勇者はエッチな人間だった。

 聖女の体に触れることは彼の大きな楽しみの一つだった。


「……本当にだめ?」

「だめです」

「なんと………」


 肩を落とす勇者。その姿に聖女はくすりと笑った。


「でも――」


 聖女は勇者の肩を抱き、顔を寄せ、軽く触れるようなキスをした。


「キスは不純な行為には含まれません」


 今唇に感じた柔らかな感触に勇者は唖然とする。落とされてから上げられるとはこのことで、突然のご褒美を貰った子供のような表情を浮かべていた。


 聖女は悪戯めいた妖艶な笑みを浮かべている。愛おしい勇者の反応を見て笑っている。

 勇者は聖女の肩を抱き、もう一度、今度は熱いキスをした。




* * * * *


【現実】


「だあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!

く゛ぞお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛っ!

いちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃし゛や゛が゛っ゛て゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛っ!」


 叫んだ。

 あたしは魂から叫んでいた。

 拳を振るいながら叫んでいた。


「いいぞっ!流石っ!流石だっ!魔王である私とここまで張り合えるなんてっ!流石は人族最強の英雄だっ!」

「う゛る゛せ゛え゛ぇ゛えぇ゛えぇ゛えぇ゛えぇ゛えぇ゛っ!今はそんなことどうだっていいのよぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛っ!」


 目の前にいるのは最後にして最強の敵、魔王である。

 流石は敵の大将と言うべきか、それまでの敵とは1味も2味も違う。あたしの拳を数受けてもそれに耐えてくる。


「さぁ来いっ!聖女よっ!私に生きているという実感をくれっ!」

「そんなのどうだっていいのよおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!

くそおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!いちゃいちゃいちゃいちゃしやがてえええええええええぇぇぇぇぇぇぇっ!あんにゃろおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!いちゃいちゃいちゃいちゃしやがてえええええええええぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 砂糖を吐いていた。

 昨日の夢を見て私は口の中に大量の砂糖を詰められたような気分となっていた。


 拷問かっ!

 喪女にあんな夢を見せるなんて拷問なのかっ!


 かーーーーーーーーーーーーっぺ!ぺっぺっ!

 たるいっ!甘ったるいっ!口の中が甘ったるいっ!喪女であるあたしには精神衛生上良くないっ!

 なんだ、あれっ!?なんだあの甘ったるいのっ!?ばかなの!?

 やめろぉっ!やめろぉっ!耐えられんっ!男女の仲睦まじさに食中毒起こすわっ!あほかっ!


「八つ当たりの相手は………貴様だあああああぁぁぁぁぁっ!魔王おおおおぉぉぉぉっ!」

「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 魔王はあたしのイライラを受け止めるサンドバックだ。なまじ奴の体が耐えられる分、あたしは喪女の重みを込めた拳を何度も何度も奴にぶつけている。


「これがっ―――この力が貴様の平和を思う愛の力なのかぁっ!」

「ちげーよっ!」


 ただの私怨だよ!

 平和なんて今、どーでもいーよ!

 あたしはあたしの心の平和が欲しいんだよっ!


 あ゛ーーーーーっ!マジ、やばいっ!死ねっ!世の中のカップル全員死ねっ!

 全員そうなのっ!?世の中の恋人達って全員あんな感じなのっ!?

 あ゛り゛え゛ん゛っ!あ゛り゛え゛ん゛っ!

 あんな常軌を逸した異常とも思えるような行動が、世界中の人間が憧れてやまない愛というものなのかっ!?


 あ゛あっ!砂糖が!砂糖が口からっ!まだ砂糖が口から吐き零れそうになるっ!


 カップルなんか――

 世の中のカップルなんか―――


 世界中の全てのカップルなんか―――――


「―――滅びてしまえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛っ!」

「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 滅びたのは魔王であった。

 怒りの連打は魔王を打ち倒してしまった。

 あたしの世のカップルへの怒りは、魔王を滅ぼし平和を呼び込んだ。


 世界は平和になった。あたしのカップルへの憎しみによって…………




* * * * *


【夢】


「くっ…………」

「つ、強い…………」

「これが……魔王の力…………」


 勇者たちは華美な装飾により飾られた大広間の中で膝をついていた。

 目の前にいるのは傷が浅く悠然と立つ魔王の姿がある。ここは魔王城の玉座の間であった。この部屋は戦闘の余波を受け至る所が壊れ無残な姿になっているにも関わらず、魔王の体に受けている傷は浅かった。


「はっはっは!もう終わりか!勇者ども!」


 一方、勇者たち一行の体はボロボロであった。

 体中が傷つき、体力は底をつき、仲間たちはあちこちが壊れた床に手や膝をついていた。


「くそ……くそっ…………!」

「これまでの敵とは……まるで違う…………!」

「強い……これが魔王っ…………!」


 誰も体を動かせなかった。

 勇者も聖女も剣聖も魔女も地に這い、魔王の高らかな笑い声だけがこの部屋に響いていた。まだ死んでいない。まだ意識は途切れていない。まだ声は出せる。


 それでも勇者たちに勝ち目はもうなかった。

 魔王に敗北していた。


「お前たち勇者には賞賛を与えよう。人のみでありながら強く成長し、我が軍の尽くを打ち倒し、我が元までたどり着いた」

「―――――」

「だが、ここまでだ。我には届かなかった。お前たちは平和には至れなかった。よく頑張った。もう眠れ」

「…………くそっ!」


 魔王が靴音をコツコツとたてながら、倒れこむ勇者たちにゆっくりとゆっくりと近づいてくる。息も絶え絶えの勇者たちにとどめを刺すために魔王はその歩みを進めた。

 絶望が近づいてくる。

 命が刈り取られそうになる。

 平和への希望が刈り取られようとしている。


「くそっ……!くそっ…………!」


 勇者は必死に体を起こそうとする。しかし、立てない。体が言うことを聞かない。

 自分の死が世界の絶望であることを彼は自覚している。決して負けてはいけない存在、それが自分である。

 それでも魔王という絶対的な存在に命が屈しようとしていた。


 立てない。

 どうしようもなく立てない。

 魔王が近づいてきた。


「……え?」

「ん……………?」


 そんな中、一つの影が立ち上がろうとしていた。

 傷だらけの体を揺らしながら両足に力を込め、ゆっくりとその体を持ち上げていく。整えられていた長い髪はこの戦いで乱れ、血と汚れを含みぼさぼさとなっている。

 彼女は長い杖を支えにして必死に立ち上がる。もう眼に覇気は無く、小突けば倒れてしまいそうなボロボロの体で、もうどうしようもない筈なのにそれでも彼女は立ち上がった。


「イーナ……」

「聖女様………」

「イーナ様……どうして…………」


 立ち上がったのは聖女――イーナだった。


「ふはははっ!勇者よりも先に立ち上がったのは聖女かっ!それで!?どうする!?お前に何ができる!?」


 魔王が笑う。でもそれを全く気にせず聖女は勇者のほうに振り向き、微笑みかけた。

 どこか諦観がこもった笑みであった。


「……ベイグ様」

「…………イーナ様?」

「これから、私は魔王を倒します」

「…………え?そん……」

「だから――お別れです」


 そんな、どうやって、と聞こうとした勇者の言葉を遮って聖女は別れの言葉を口にした。


「な……何を言っているんだ…………イーナ様………?倒せるわけないだろう、そんなボロボロの体で……」

「ベイグ様…………あなたのことが好きでした。竜の拘束から救われたあの日よりも前……孤独の中お菓子をくれたあのパーティーの日からずっと好きでした」

「な、なにを……」

「ずっと遠くから見ていたあなたの力になれる日々はとても嬉しかった。あなたと共に戦い、あなたと共に支え合え、そしてあなたに愛される日々はとても幸せな日々でした」

「こんな時に何を言っているんですか……!イーナ様っ!」

「ありがとう、ベイグ様…………」


 それは誰がどう聞いても別れの言葉であった。

 勇者が叫ぶ。しかし、それを振り切るように聖女は勇者から体を背け、魔王と向き合う。


 聖女の体から膨大な魔力があふれ出してきた。どこから溢れてくるのか分からない、不思議な魔力が聖女の身を包み、体を輝かせた。


「貴様……その魔力……命を使っているな…………」

「この秘術を使えば……私は死にます。でも、あなたも道連れです、魔王」

「ふははは……楽しくなってきたな…………」

「やめろっ!やめてくれっ……!イーナァッ!」


 聖女から溢れてくる命の魔力が収縮していく。聖女は最後の力を両の手に集め、最後の魔法を放つつもりであった。

 命の魔力の放出は文字通り命を放出することに変わりがなかった。


「これで……最後です!魔王!」

「貴様の覚悟っ、受け取った!来いっ!聖女!」

「やめろおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 2人の覚悟と仲間たちの悲痛な叫びがこの部屋を木霊した。

 部屋が震える。いや、この城全体が震える。2つの膨大な魔力がぶつかろうとしているせいか、空気が振動し空間が揺れている。

 覚悟と魔力、そして悲痛な叫び、思い、悪の心と正義の心、この部屋にはありとあらゆる激しい覚悟が混ざり合い、ぶつかり合い、世界を揺らしていた。

 世界を懸けた最後の一撃が交錯しようとしていた。






 嘘である。

 それは間違いであった。

 その空間の揺れは魔王と聖女の魔力によるものではなかった。


 介入があったのだ。

 世界を懸けた最後の戦いに介入しようとする無作法な1人の人間の存在があった。


「……え?」

「なんだっ?これは……?」


 空間がひび割れていく。

 何もない筈の場所に見えない透明のガラス板があるかのように、そこに(ひび)が入り、空間に分け目が入っていく。

 最初、空間の揺れも振動も最後の戦いの余波であるものだと誰もが思っていた。しかしそれは間違いである。


 空間の割れ目から指が這い出てきた。

 外でろくな運動をしていなさそうな不健康な指が割れ目の向こうから出てきて、その手が力尽くで空間の割れ目を押し広げた。


「な……なんだ…………?何が起こっているんだ?」

「あの向こう側にいる……一体…………」

「一体……何者…………?」


 空間の向こう側には1人の少女がいた。

 髪はぼさぼさ、眠たげな目をしており、服装はしわだらけ。身だしなみはなっておらず、卑屈な雰囲気が漂っている。

 そんなだらしない彼女から膨大な魔力が感じられる。

 先ほどの空間の揺れは命の魔力でも魔王の魔力でもなく、空間の向こうから現れた少女の覇気そのものであった。


「お……お前は…………」

「ま、まさか…………」

「わ……私…………?」


 その少女はとてもだらしない恰好をしていた。ただ、そこら辺の雰囲気を除けば、その少女は聖女イーナにそっくりであった。


 謎の少女がすうっと息を吸い込んだ。


「お前らああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃしやがってええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 謎の少女の叫び声一つで空間全体がビリビリと震える。


「夢見心地が悪いんだよおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「きゃっ!」


 謎の少女の体が高速で動き、聖女イーナに腹パンする。たったその一撃で両手に集中させていた命の魔力は解け、彼女の体の中に戻っていった。

 聖女イーナは膝をついた。


「あんたらっ!迷惑なのよっ!」


 聖女イーナによく似た謎の少女は叫ぶ。


「いつもいつもいつもいつもいちゃいちゃいちゃいちゃっ!あたしの夢に勝手に現れて、いちゃいちゃとさもあたしに当てつけんばかりの幸せを見せつけやがってええええぇぇぇっ!

 なんだ!?お前ら!?あたしのことバカにしてんのかっ!?喪女にはこんなの無理だろーってあたしのこと笑ってバカにしてんのかっ!?」

「えっ?えっ……?」


 謎の少女は聖女イーナを怒っているようだが、当の聖女は何が何だか分かっていない。勇者も怒られているが当然意味が分かっていない。

 先ほどまでの緊迫した空気感が嘘であるかのように、呆然とした空気感がその場を支配した。起こっている謎の少女を除いて。


「ばーか!ばーか!しかも魔王ごときに死にかけて!ここであんたら死んだら夢見心地が最悪じゃない!あたしに迷惑かけんなってーの!あほかぁっ!」

「き……君は一体…………何者なんだ…………?」

「平行世界から来たこの女に決まってんでしょーが!お前らの淫行をずっと夢で見せさせられてきた被害者だっつーの!ばかぁっ!」

「えっ!?」


 謎の少女は聖女イーナを指さしそう言った。平行世界の……つまり別の世界の聖女イーナであると名乗った。


「もしかして……あなたは夢に出てくる…………」


 聖女イーナは小さく呟いた。


「はっはっは!平行世界の猛者かっ!実に面白いっ!さぁっ!私と死合ってみせろぉっ!」

「えぇいっ!うっさいっ!今、あんた(魔王)の相手してる暇はないのよぉっ!

 聖女レーーーーーーーーザーーーーーーーーーーッ!」

「ほげえええええええええぇぇぇぇぇぇっ!」


 謎の少女が口から発する光線によって魔王は蒸発していった。そしてそのままその光線は魔王城の1/3を破壊した。というより女性が大口開けて口からビームを吐く姿はどう見ても美しいものではなかった。


 世界に平和が訪れた。


「だいたいあんたらはねぇっ!このあたしに配慮が足りていないっ!なんだ!?幸せっていうのは皆で分かち合うものだって思ってるの!?1人の幸せがみんなの幸せに繋がっているって思ってるの!?恋愛っていうのは皆を幸せにするって思ってるの!?

 ちげーよっ!ちげーから!喪女にはちげーから!

 見知らぬ誰かが街中でイチャイチャしているだけでこっちは胸の奥がムカムカしてんのよっ!さも?恋愛って世界の全てっていうかのような幸せそうな笑みを浮かべて男と腕を組んでる女を見ると、ケッて!ふざけんなばかやろーって!結局、ただの性の本能に従ってるだけのビッチめがって思ってんのよっ!

 分かるっ!?」

「あっ、はい」


 自然と勇者たち一行は正座をしていた。


「はいはい、分かってまーす!ひがみでーす!ただの僻みでーす!

 あんたたちが悪くないことは分かってんのよ!ただ!モテない女にはモテる女をそう思っていないと精神衛生上悪いのよっ!モテないストレスに詭弁をつけないとやってられないのよ!別にいいでしょ!そう思わないとモテない女はやっていけないのよ!

 っていうか、喪女ってなんだかわかってんの!?モテない女のこと、最近ではそう言うのよ!知ってんの!?」

「あ、いえ」

「やっぱりね!そうだと思った!住む世界が違うものね!モテる女とモテない女では住む場所が……いいえ!文字通り生きる世界が違っているのよ!

 考えたことあんの!?世のモテない女のことを!?モテない女がどんなに辛いか知ってんの!?知らないでしょうね!知るわけないでしょうね!

 そんなのに、あたしにあんたたちのあんないちゃいちゃいちゃいちゃとしたものをみせてきやがって!自覚あんの!?自分たちが見られているという自覚が!ないでしょうね!あるわけないでしょうね!」


 勇者たちはマジわけが分からなかった。


「大体なんでなのよっ!なんでこんなーーーーに強くて世界に貢献してるあたしが全くモテなくて、ひょろっちいあんたに恋人ができていい思いしてんのよっ!」

「えっ?私のことですか?」

「あんたのことに決まってんでしょーが!平行世界の『私』めっ!皆で一生懸命敵を倒して、絆を深めて、一緒に努力して、友情深めて、皆で1つの勝利を掴んで…………

 あほかあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?

 あほかなのあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?

 こちとら1人じゃいっ!常に1人じゃい!強すぎて1人じゃい!

 勝利とか努力とか常に1人じゃい!効率的に考えて1人じゃい!友情も1人じゃい!友情が1人ってなんじゃい!1人のチームワークってなんじゃい!あたし何言ってんのか分けわかんない!

分かる!?あんたたち、分かる!?」

「あ、いえ……」

「でしょうねっ!わけわかんないでしょうね!あたしだって訳分かんないんだからっ!

 でもねっ!でも、理解しなさいっ!それがっ……それがっ………

 ―――それが『喪女』って生命体な゛の゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛っ!」


 魂の叫び声が上がった。

 魔王が滅び、世界が平和になったというのに何やっているのか勇者たちには意味が分からなかった。


「そこの2人!あんたたちよっ!聖女!勇者!」

「え!」

「はいっ!」

「あんたたちが付き合ったきっかけってあれでしょ!竜に(さら)われてそれを助けましたーってあれでしょっ!命がけでの美女の救出劇!物語の主人公・ヒロインかっつーの!そりゃ、惚れるわ!誰だって惚れるし、恋愛に結び付くわ!聖女と勇者の命を救うラブストーリー!美しいわね!いいじゃないっ!

 でもあたしの置かれた状況を言ってみなさいよっ!分かる!?あたしがあの時なにしたか分かるっ!?」

「いえ」

「自分で脱出したのよっ!自分で竜を殴り殺したのよっ!勇者の助けが来る前に竜の軍勢ボコボコにしてやったのよ!はい!そこの勇者!そんなんで恋物語が生まれると思いますかっ!?両手が返り血まみれの聖女を前に恋物語が発生すると思いますかぁっ!?」

「い……いえ…………」

「でしょう!

 そうでしょう!

 そりゃあそうでしょう!?

 あたしは強かったから恋愛する機会を逸したのよおぉっ!

 あたしは強過ぎるからモテなかったのよお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛っ!」


 喪女の魂の叫びが響いた。

 とてもとても空しい叫び声が平和の空に響いていった。


 けれどそれに異を唱える者がいた。


「それは違いますよ」


 荒れ狂う聖女もどきの言葉を勇者は否定した。


「…………ん?」

「違うんです、平行世界のイーナ様。僕がイーナ様を気にし始めたのは竜との戦いで彼女を救ったからじゃない。

 そのもっと前……お城のパーティーでダンスに誘われたからです」

「んん?」


 それまでただ荒々しく荒れ狂っていた聖女もどきの動きが止まる。そして訳が分からないとばかりに憤怒の顔を張り付けたまま首を傾げた。


「僕は……城のダンスパーティーでイーナ様からパートナーにと誘われました。

 実を言うと、そこから彼女のことを意識し始めていました…………故郷から出てきて、部屋の隅にいた少女が顔を赤くして僕をダンスに誘っていた……

 その目の奥の勇気に……僕は惹かれていったんです」

「―――――」

「気が付けば彼女のことを目で追うようになっていました。彼女は元気だろうか、まだ孤独ではないだろうか、誰か彼女と踊ってくれる中の人はできたのだろうか…………

 そうして彼女が魔族の竜に捕まったと聞いてた時、僕は一刻も早く、一刻も早くと駆け出しました。

 あの時一緒に踊った彼女を心の底から助け出したかったから…………」

「ベイグ様……」


 聖女イーナは顔を赤らめ手を当てている。彼女もそのことは知らなかったようで、そんなに早くから意識されていたことに喜びと恥ずかしさを隠しきれていなかった。


 そんな中、聖女もどきは目を見開き驚きを露わにしている。まるで自分の信じてきた土台が狂ってしまったかのようだった。


「……竜の巣での救出劇は関係ないの…………?」

「関係なくはないですが、それよりも早いきっかけはありました」

「じゃあ……じゃあ、2人の本当のきっかけは…………ダンスパーティーで声をかけられたかどうかなの……?」

「少なくとも、僕にとっては」

「……………………」


 聖女もどきは目を丸くしていた。

 彼女は勇者をダンスパーティーに誘えていなかった。ただ勇気が無かったから勇者の手を取り踊ることが出来なかった。

 聖女は勇者と踊り、聖女もどきは遠くから眺めているだけだった。平行世界の2人にはその小さな勇気に差があった。


 聖女もどきは信じていた。

 自分は強すぎたため最初のきっかけを逸してしまったのだと。そのたった1つが平行世界の『私』との大きな差を生んでしまったのだと。


 でも原因はそれより前にあったようだ。


「あのっ!あのっ!もう1人のあたしさんっ!」

「……ん?」

「私……あなたのことを夢で見ていましたっ…………!私……私っ……あなたに聞きたいことがあるのですっ…………!」

「―――――」


 可憐な聖女が手を組み膝をつけ、髪もぼっさぼさの自称聖女に頼みごとをしていた。


「どうやったらあなたのように強くなれますかっ!?魔王は滅びましたけど、私っ!私たちっ!これからもずっと、守れるものを守りたいのです!

 大切な人たちを守れるよう、強くなりたいのですっ!」


 喪女の聖女が夢で平行世界の自分を見ていたように、可憐な聖女もまた自分の夢を見ていたのだ。

 喪女の聖女は顎に手を当て考える。


「―――臆病になることよ」

「……え?」

「臆病になること。それが強さへの秘訣よ」


 聖女もどきは聖女の目をじっと見た。


「臆病になりなさい。今のままではより強い人に勝てないかもしれない、殺されるかもしれない。自分は過酷な戦場に連れていかれて死ぬかもしれない。自分はまだまだ弱く、力が足りず、臆病で、弱くて、足りないと思いなさい。

 足りなくて足りなくて、どうしようもなく足りなくて……だからこと必死に練習せざるを得なくなる………」

「臆病に………なること……」

「怖がって、臆病になって、強さに飢えて、飢えて飢えて飢えて飢えて練習して練習して練習して練習して…………そのくらい臆病になれれば……私のようになれるわ」

「…………」


 聖女もどきは空を見上げた。自分が打ち砕いた魔王城から夜空が見えていた。


「私は臆病だから強くて……あんたは勇敢だったから恋人ができたのかもね…………」

「それは……」

「そっか……そこに違いがあったのか………」


 聖女もどきは臆病だったから人一倍強くなれた。死への恐怖に対し人一倍練習をした。でも、臆病だからこそ勇者をダンスパーティーに誘えなかった。

 一方、可憐な聖女は勇敢だったからこそ勇者をダンスパーティーに誘えて、強大な敵にも仲間とともに立ち向かって行けた。しかし、届くはずの自分の強さに手が届かなかった。


 平行世界の2人は全くもって違うものを持っていた。

 もうこれ以上聖女もどきは何か言うことも尋ねることもなかった。

 だから彼女は彼らから体を背け、自分が作った空間の割れ目へと歩みを進めた。


「あのっ!」


 背中から呼び止められた。もう一人の自分に。


「頑張りましょうね!」


 ピタと足が止まった。


「お互い頑張りましょうねっ!」


 聖女は両手の拳を握りながらぐっと握りながらそう言った。


「…………ふん」


 髪がぼさぼさの少女は小さく鼻を鳴らし、空間の割れ目の向こう側へと姿を消した。

 この世界もまた平和になったのだった。




* * * * *


【現実】


「なによっなによっなによっなによっ!」


 肩を怒らせながらズカズカと歩く。

 あー!イラつくー!もーなんだかイラつくー!

 んなによっ!なんか負けた感じみたいになったじゃない!


 なにが勇気よっ!あいつには勇気があって、あたしは臆病だったから今のようになってるような結論になっちゃったじゃない!

 こちとら魔王を倒してやったのよっ!世界を救ったのはあたしだっつーの!しかも2つも救っちまったつーの!


 やっぱ力こそ1番なのよっ!力がなければ何もできないのよ!あいあむなんばーわん!あいあむざべすと!いくら勇敢だからって、いくら恋人がいたって強くなかったらなーんもできないのよっ!


 くそーーーっ!分かってるわよーーー!

 負け惜しみよー!全部負け惜しみよー!くそー!くそーっ!

 これからもあたしは変わらず喪女生活を送ってやるわよ!くそーっ!


 いいじゃない!喪女生活!1人ってのは気が楽でいいじゃない!あんな、あーんな砂糖を吐くような毎日の生活こっちから願い下げだってのっ!くそーっ!

 あたしには似合わないっ!別にいいしっ!恋人なんていなくていいしっ!


 あたしはこのまま臆病でいいしっ!




『お互い頑張りましょうねっ!』




 ………………………………


 ……………………


 …………


 ふんっ…………

 別に負けたなんて思ってないわ。

 別に男なんていらないし。そうよ、恋人なんて必要ない。羨ましいなんて思ってない。

 平行世界の私に負けたなんて思ってないんだから。


 そしてあたしは扉を開いた。


 その向こう側では華やかなパーティーが開かれていた。

 魔王討伐の記念式典であり、世界の平和を讃えた大きな大きなお祭りである。豪華な食事が並び、皆華やかで整ったドレスを着ている。

 あたしには眩しすぎる世界があった。


 似合わない。

 あたしにはこんな場所似合わない。

 さっさと帰って寝たい。朝までいびきかきながら寝たい。


 それでもあたしはつかつかと一直線にある人の元へ歩いて行った。


 別にいいし。別にあたしは喪女のままでいいし。

 別にそんな勇敢さとか要らないし。

 何度も何度も頭の中でぐるぐる回る。


 それでも一歩ずつ一歩ずつ歩いていく。

 その人の元へ。


 緊張する。別にいいし。逃げたくなったら逃げていいし。そんなに男に固執なんてしてないし。

勇敢さなんて別にあたしに要らないし。


 そう思いながらたどり着く。

 勇者ベイグの元へ。男友達と談笑しているベイグの傍にやってきた。


 ―――あたしの好きな人の前にやってきた。


「あ……あ………あた………」

「ん?どうしたのかい?イーナ?」


 声をかけられる。汗が出る。鼓動が早まる。

 もう少しだけ、もう少しだけ待って欲しい。


「あた………あたし…………あたしと……………」

「?」


 ベイグは微笑みながら首をかしげていた。

 もうやだ。逃げたい。別に男なんて欲しくないんだ。要らない。このまま逃げたい。逃げたっていいだろう。あたしは喪女のままでいいんだ。そのほうが気が楽なんだ。

 勇敢じゃなくてもいいのだ。逃げたっていいのだ。


 でも、

 でもだ。

 あいつに出来たんだ。

 もう1人の私に出来たんだ。


 じゃあきっとあたしにも……………………


「ぁ……あたしと踊ってくれませんか…………?」


 こうしてあたしは1歩目を踏み出した。

 小さくて簡単で単純で、でも大切な1歩を踏み出したのだった。


 その先のことまではまだわからない。

 今は今で精一杯なのだ。


 これから手を繋いで踊るのだってとっても勇気のいることなのだから。




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― 新着の感想 ―
[一言] やばい、泣くほど笑わせてもらいました(笑) これまためっちゃいい話ですね。最初……いや終盤までは完全にギャグ路線だったけど、最後の聖女と喪女の話は共感出来ました。この先、イーナに幸があらんこ…
[一言]  つづきが…つづきが見たいです…!
[一言] 検索中に見つけて読ませていただきました。 とても面白い内容でしたネ・・・読者の心はハートフルになったと思います(小並)まあ喪女様の心はストレスフルですが ただ読んでる途中で自分が成功していた…
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