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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

完結済み 短編集

富士の樹海とドラゴンと文学少女

作者: 薄味メロン

「文学少女ってモテるんですか?」


 春の陽気に包まれた日曜日の昼下がり。高校2年の少女、春日部 優花(かすかべ ゆうか)は、行く手を阻む大木を乗り越えながら、後ろを歩く4人の男達に向けてそんな質問を投げかけた。


 彼女が現在いる場所は、富士の裾野に広がる広大な樹海の中。それもハイキングコースから大きく外れた場所であった。

 そんな状況下にありながら、少女の服装はワイドスリーブのカットソーにショートパンツ。一応、ニーハイで肌の露出は抑えられているものの、どう考えても森の中、それも樹海などと呼ばれる場所に入るような服装では無い。


 一方、投げかけられた男達のほうもおかしな服装だった。全身を厚手の迷彩服で包み、そのうえから防弾ベストを着こんでいる。そしてフルフェイスの防弾ヘルメットを着用し、極め付けがその手に持ったアサルトライフル。

 もはや日本で見かけて良い服装では無い。


「んー? なんだ、嬢ちゃんモテたいのか? いいねぇ、青春だねぇ。

 けど、嬢ちゃんなら何もしなくてもモテモテだろ?」


「いやー、それが全然ダメなんですよねー。

 この前も友達に、優花はもうちょっと知的な雰囲気を出した方が絶対いいよ、って言われちゃいまして」


「ははは、それで文学少女ってことかー。

 んー、文学少女ねぇ。まぁ確かに、モテそうな響きではあるよな」


「ちょっ、隊長!! 響きだけじゃないっすよ!! 最高じゃないっすか、文学少女。

 茂った木の下に置かれた小さなベンチに腰掛けて、よそ風に髪を靡かせながら小説を読むその姿。萌えなきゃ男じゃないっしょ!!!」


「……ってことだそうだ」


「……あー、なるほどです。理解しました」


 かわいい服を着た少女と戦時中のような大人4人が、富士の樹海で和気藹々と文学少女につて語り合う。最早、状況を理解できる要素が1つもない無い、そんな状況だった。

  

 もちろん、サバイバルゲーマー達が少女を引き連れて樹海に遊びに来た訳でも、優雅に森林浴を楽しみに来た訳でも、人生に疲れた訳も無い。


 こう見えても、彼女達は仕事の真っ最中だった。


「うーん、木の下にベンチがある場所なんてあったかなー? 学校の中庭? けど、なんか虫が落ちてきそうでやだなー。

 あっ、そういえば、読む本ってライトノベルでも良いんですか? やっぱり、分厚い難しい本じゃなっ――接触(コンタクト)!! 赤竜です」


 会話の最中に獲物を見つけた少女は、開戦の合図を叫びながら走り出す。そして、合図を受け取った迷彩服の男達も慌てて四方に散会し、少女の後を追いかけた。


「おうおう。なかなか大物じゃねぇか」


 少女が進む先、乱立する木々の向こう側、そこには全長6メートルを超える生物の姿があった。


 全身が真っ赤な鱗に覆われ、背中には立派な羽が生えている。足先に生える鉤爪は鷹が持つそれであり、尻尾は大蛇、鋭い牙が生えそろった顔はティラノサウルスを彷彿させる。


 日本人がドラゴンと聞いて真っ先にイメージするであろう生物がそこに存在していた。そしてそれが少女と男達の目的、探し求めていた獲物だった。


「グァオゥーー」


 大人3人ほどを丸のみ出来そうなその口を大きく開き、近づいてきた少女達を威嚇するようにドラゴンが吠える。そして、その場でグルリとその巨体を一回転させた。


 巨体故の重みに加え、遠心力までもを身に纏った長いしっぽが周囲の木々にぶつかり、爆発的な破裂音を発生させるとともに、木々を粉々に打ち砕く。

 その姿はまるで『それ以上近付くとお前らも粉々にするぞ』と言っているかのようであった。


「それじゃ、行きますね」


 そんな火竜に対し、少女は己が愛用する武器、手のひらにすっぽりと収まるサイズの刃物をポケットから取り出し、収納してあった刃をカチカチっと押し出す。

 そして、破壊の限りを尽くす火竜の前へ、……踊り出ようとした矢先、背後から待ったの声がかかった。


「嬢ちゃん……、それ、カッターだよな?」


「ふぇ? はい、そうですよ?」


 彼女が手にした武器の正式名称は、カッターナイフ。主に使用される用途は、紙の切断。その市場価格は218円であり、本屋などで普通に買える。100円均一の物よりは少しだけ丈夫だと評価される、そんな代物だった。ちなみにオートロックスライダー方式を採用した最新型である。


 そんな武器とも呼べないよな刃物を装備し、少女は無邪気に笑った。


「筆箱の中から持ってきました。どうです? 文学少女っぽいでしょ!!」


「「「「…………」」」」


 いや、カッター振り回すとか、絶対文学少女じゃ無いから!! などと突っ込む者は皆無であった。皆、分別のある大人であることに加えて、あまりにも少女が不憫すぎたため、誰も二の句を継げなかったのだ。 


「今日のラッキーカラーに合わせて、ピンク色にしてみたんですよ。可愛いでしょ。

 それじゃ、今度こそ行きますね」


「……あぁ、そうだな。……仕事にするか」


「「「うっす」」」


 一応の賛同を得た少女は、一目散に巨大生物の前へ踊り出る。右手にカッターを握りしめて。


 そんな少女に対し、男達は一定の距離を保ったまま火竜と少女を四方向から囲み、アサルトライフルを構えた。どうやら少女が手に持った武器に関してなにかしら思うことはあっても、彼女の行動自体を止めるつもりは無いようだ。

  

 それもそのはず、それが彼女達、日本警察特殊部隊所属スペシャルハンターチーム、通称SHT(シュット)の戦い方だった。



 事の起こりは西暦が2000年を過ぎた頃に遡る。


 当時小学1年生だった優花は、大学で准教授をしている父の研究に同行して富士の樹海へと足を踏み入れた。

 優花としては、その日も家に引きこもって、大好きなオンラインゲームをして過ごしたかったのだが、学校で『お父さんの仕事について調べてみよう』という宿題が出たのだから仕方がない。


 父親の方も、そんなに深い場所に行く予定では無いから大丈夫だろうと判断し、引きこもりがちな娘を引っ張るようにして、森へと連れだしたのだった。


 そのことが、二人の人生を大きく左右することになるとも知らずに。


「おとーさーん、ドラゴンがいるよ?

 優花がたおすー。ソウケンかカタテケンちょうだい」


「ははは、優花はゲームのやりすぎだぞー。双剣も片手剣も日本じゃ持ち歩いたら捕まっちゃうからなー。

 それに未知の生態が豊富な樹海とは言え、ドラゴンなんて居たら…………」


「この子なんか弱そうだよ? ボスじゃないのかなー?」


 きゃきゃと笑う娘と、身動きが取れない父親。そして興味深そうに親子を眺めるドラゴン。

 父が持つ一般常識よりも、優花が持つ視力の方が正しかったようだ。


「優花、逃げるぞ!!」


「ふぇ? あっ、たおす系じゃなくて、にげる系のゲームなんだね。わかったー」


 ゲームで見慣れてる優花にとっては弱そうに見えても、父にとっては恐怖以外の何物でもない。ここは現実世界であり、ゲームの中ではないのだ。

 

 幸いなことに出会ったドラゴンは幼体であったため、一目散に逃げ出した2人に人的被害は無く、父が長年愛用していた鞄と愛情たっぷりの弁当が置き去りされただけであった。


「おとうさん。ドラゴンとの鬼ごっこ、楽しかったねー。

 おしごとは、コンプリートできたー?」


「……あ、あぁ。……そうだね。優花のおかげで大成功かな」


 そんな混乱の中でも、無意識でシャッターを切ったカメラや記録ノートを手放さなかったのは、さすが准教授と言えるだろう。


 その写真と准教授の肩書が決め手となり、政府が調査団を結成。数回の調査によって、複数のドラゴンが生息して居ることと、数が増えるとその生息範囲を増やすことが判明した。


 つまり、放置すれば富士の樹海はドラゴンの支配下となり、いずれ町にも姿を見せる可能性が高いらしい。


 このままではまずいことになる、と判断した政府は、発見者である優花の父を所長として専門の研究所を立ち上げると共に、SATやSITから優秀な人材を引き抜き、ドラゴン討伐部隊を結成した。

 それがSHT(シュット)の原型である。


「優花もやる!! 優花もしたい!!!」


 そんな警察のエリート部隊が結成されて間もなくのこと。その練習を見学した優花が、自分も参加したいと言い出した。


「……いや、あの、ね、嬢ちゃん。これは――」


「とくべつこもん」


「……大変失礼しました。特別顧問殿。

 しかし、特別顧問殿の訓練への参加は――」


「えっと、うん? こもん、けんげん?」


「……いや、あの……。

 ……イエッサー」


 無論、そんな少女の我儘が通るはずが無いのだが、優花はドラゴン発見者の1人であり権力者(しょちょう)の娘だった。また、ドラゴン発見の見返り、つまりは口止め料として、名誉顧問の役職を政府から与えられていたこともあり、少女の我儘は実現することになる。


 名誉顧問は実態を持たない肩書だ。その当時、軍略ゲームにはまっていた優花が、サンボウチョウかメイヨコモンになりたい、と無邪気な笑顔で言ったため、ドラゴン発見の報酬を決めかねていた上層部が面白がって役職につけたのだった。無論、実務も責任も無い役職である。


 給料は月に1000円分のお菓子が現物支給される。これも優花と政府が交渉して決めたことだった。

 最初の要求である1万G(ゴールド)には、勤務40年のベテランネゴシエーターでもおおいに困惑したそうだ。日本の通貨は円である。ゴールドなる貨幣で払えるはずもない。


「……おい、顧問ちゃんの動き、やばくねぇか?」


「……もしかしたら、俺、勝てないかもしれない」


「おい、お前ら!! 優花ちゃんと模擬戦だ!! 中学生に負けんじゃねぇぞ!!」


「「イエッサー!!」」


 それから数年。

 放課後はゲーム、休日はSHT(シュット)の訓練に参加して過ごした優花は、徐々にその才能を開花させ、SHT(シュット)のメンバーと対等に戦えるまでに成長していた。


 しかしながら、その思考回路はドラゴンと遭遇した当時のまま、いや、年月を重ねた分だけ厄介な成長を遂げていた。


「……優花ちゃん。迷彩服は? 武器は?」


「廃棄しました!! あのですね。前々から思ってたんですよ。迷彩服と銃ってドラゴン退治っぽくないですよね? 迷彩ってなんか可愛くないですし。

 それにお兄ちゃんが言ってました。防具が無いなら当たらなければいい、って」

 

「……あー、うん。……まぁいいや」


 土嚢を挟んでペイント弾を撃ち合うSHT(シュット)の模擬戦。その中に真っ白なワンピースを着た少女が1人。武器は手に持ったペイントナイフが1本だけ。最早意味が分からない。

 どうやら団長と思わしき人物も理解することを放棄したようだ。


 ちなみに、優花は1人っ子だったのだが、ゲームの中には大勢の兄弟や姉妹が居た。最近は恋愛シミュレーションにも興味を持ち始めているので、大勢の彼氏が出来る日も近いのかもしれない。


「田原さん、ちょっと悩みがあるんですけど、聞いてもらえます?」


「うん? どうしたんだい?

 ってか、いま模擬戦中なんだけど、今じゃなきゃダメかい?」


「あっ、戦いながらでも大丈夫ですよ。

 なんか、学校の友達、普段はすごく優しいんですけど、ドッジボールだけは絶対に私を参加させてくれないんですよ。どうしたら良いですかねぇ?」


「……ドッチボール。…………あー、うん。……ドッチボールは参加しなくても良いんじゃないかな?

 いや、ほら、顔にボールが当たったら危ないからね。うん」


「えー、そうですか?

 あ、田原さん、そこ撃たれますよ」


 真剣に悩む表情を見せた少女。その身を包む真っ白なワンピースには、模擬戦が3回目の現在でもシミ一つ無かった。

 現役のエリート警察官が銃を持ってしても当てれないのである、それが中学生のドッチボールとなれば、結果はお察しの通りだ。


 結局この日、優花の服に色が付くことは無かった。お気に入りのワンピースは無事である。



 そして高校に入学した現在、『年齢を理由にその高い戦闘力を放置しておくのはもったい無い』と上層部からのお墨付きを貰った優花は、SHT(シュット)のメンバーと5人体制のチームを組み、学校がお休みのときはこうしてドラゴン退治へと赴くのであった。

 ちなみに、部活には所属しておらず、平日の放課後は今でもゲームの時間である。


 現実でドラゴンを倒すのも楽しいけど、ゲームで倒すのも楽しいですよ、とは、高校生になった優花の言葉だ。


 

 そして舞台は冒頭へと戻る。

 巨大なドラゴンに接近した優花は、その鋭い牙を見上げながら、嬉しそうに微笑んだ。


「この子、どう考えてもボスですねー。

 レアアイテム、ドロップするかな?」


 どうやら現実とゲームが混同しているらしい。いくら見た目が似ているとは言っても、現実世界のドラゴンはアイテムなんて落とさない。なんとも哀れな少女である。


 そんな彼女の残念な言葉もドラゴンには通じるはずもなく、おいしそうな餌がやってきたとばかりに口を大きく開いたドラゴンは、優花に向けて鋭い牙を突き立てた。


 だが、そんなドラゴンの攻撃を優花はバックステップをとるだけで回避してみせる。閉じた口と優花との距離は5センチも無い。まさに紙一重の回避であった。


 その鋭い牙に少しでも体が触れれば千切れてしまうことは明白であるにもかかわらず、優花に慌てた様子は一切見られない。 


「ほんとに、おっきいですねー。

 この子の牙見たら、お父さん喜ぶだろうなー」 


 どうやら余計なことを考えれるほど余裕らしい。


 そんな優花に対し、ドラゴンは飛びかかるようにしてさらなる追撃を加えた。のんきに微笑んでいる餌を放置する理由なんて無い。

 

「田原さん、お願いします」


 だが、そんなドラゴンの攻撃も横に転がるようにして回避すると、優花は、自分の背後に居るであろう男に声をかけた。


「ギュォン」


 直後、優花の耳に発砲音が届き、優花を食らおうと開かれていた巨大な口から血が噴き出す。

 優花の遥か後方で待機していた男が、アサルトライフルをドラゴンの口目掛けて放ったのだ。


 ドラゴンの皮膚は分厚い鱗に覆われているため、普通にアサルトライフルを打ち込んだのではその鱗に阻まれて効果が無い。それ故に、狙う場所は鱗が無いお腹の部分か口の中。


 優花が囮になって口を開かせ、そこをすかさず男達が攻撃する、そんな戦闘スタイルだった。


 ただし、口に一発の銃弾を撃ち込んだだけで倒せるほど、ドラゴンの生命力は弱くはない。


「お嬢ちゃん、準備できたぞ」


「はーい」


 後方からの合図をもらった優花は、口から血を吐き、怒りの表情を見せるドラゴンに対し、出会った時と同じように平然とした態度で近付くと、尻尾が届く一歩手前で突然クルリと背中を向け、一直線に走り出した。

 自分を殺そうとしている相手に対して無防備な背中を見せるなど、並大抵の精神で出来るものではない。ゆえに、囮としての効果は絶大だ。


 怒りを覚えながらも、出血の痛みにより怯んでいたドラゴンだったが、優花のその姿は、捕食者としての本能を刺激するには十分だった。例えるなら、『完全無料、ご自由にお取りください』と書かれたプラカードの下においしそうなケーキとフォークがあるようなものだ。手を出さない道理が無い。


 だだし、無策で追いかけるほど、ドラゴンも愚かでは無い。


 口を開けば痛い思いをする、そんな教訓を文字通り体で覚えたドラゴンは、噛みつきによる攻撃をあきらめ、鋭い爪で切り裂くことにした。強靭な後ろ脚に力を入れて滑るようにして駆け出し、少女との距離を一瞬で詰める。そして下からすくいあげるようにして、自慢の鉤爪を放った。


 ブオンと風が鳴く音が森に響く。


 しかし、その爪は空を切るばかりで、優花の血が付着することは無かった。

 優花は今回も横に飛ぶことで鉤爪を避けたのである。ドラゴンの方を振り返ることもなく。後ろ向きで。


 しかし、それはドラゴンとしても予想出来た事態だった。


『その避け方はさっきも見たぜ』とばかりに上半身を優花が避けた方向と反対側に向けて勢いよく振りぬく。そんな上半身に引っ張られるようにして、長い尻尾が弧を描き、優花へと迫った。


 尻尾が優花との間にあった邪魔な木を粉砕し、1本、2本と彼女との距離を次第に詰めていく。そして最後の1本を破壊し、いよいよ尻尾が優花を捉える、そう思った瞬間、不意にその動きが止まった。

 

 そこにあったのは、宙につられた長い尻尾と、それに巻き付く5本の太いワイヤーロープ。

 様々な方向にピンと張られたエレベーター用のワイヤーは、見事にドラゴンが繰り出す衝撃に耐え切り、その行動を制限する。


「ギャォン」


 ドラゴンが悲鳴にも聞こえる叫び声をあげ、必死に手足をバタつかせるものの、ワイヤーが切れそうな雰囲気は一切無い。


 ドラゴンにとって尻尾は、強靭な武器であり、強さの象徴であるとともに、その大きな体を支える第5の足でもあった。2本の太い後ろ脚に加え、獲物を切り裂くことに特化した鋭い前脚をいくら動かそうとも、幹たる尻尾の自由を失ってしまえば、その巨体故に地面から立ち上がることすら出来ない。


「よし、ミッションコンプリートですね」


「あぁ、お疲れさま。後は俺達に任せて嬢ちゃんは休んでな」


「はーい」


 こうなってしまえば、ドラゴンに出来ることは無い。


 男達による長時間の射撃にさらされたドラゴンは、そこから一歩も動くことなく、命の炎を消すのだった。

 ちなみに休みを貰った優花は、近くにあった木の根に腰掛け、ポケットから取り出した携帯用ゲーム機で遊んでいただけである。


「嬢ちゃん、始末終わったぜ。次行くかい?」


「はーい。行きまーす」


 男達は倒したドラゴンにGPSを取り付け、優花はゲーム機の電源を消して、次の獲物を探しにその場を後にする。回収や解体などの仕事は、優花の父をはじめとした研究者達や解体班にお任せだ。


 結局この日、3体ものドラゴンを討伐した優花は、『今日も楽しかったですね。来週また来ます』と隊長に言い残して帰宅。オンラインゲームでも数体のドラゴンを討伐してから幸せそうな笑顔で眠りについた。


 そして、明くる日の朝。


 澄み切った青空から降り注ぐ光が教室の窓から差し込み、涼しげな風がつりさげられていたカーテンをふわりと揺らす。


 そんな教室の窓際に椅子を並べ、時折聞こえる小鳥の声に耳を傾けながら、少女は本のページをゆっくりとめくっていく。そして、自分に近づく友人の気配を感じた少女は、その手に持った本を閉じて鞄の中へと仕舞うと、今日の空にも負けない爽やかな笑顔を見せた。


「おはよー。昨日も山登りに行って、お肉わけてもらったんだー。

 家庭科室借りてあるから、あとで一緒に食べよ」


 仕舞われた本の代わりに出てきたのは、肉厚のドラゴンステーキ。


 優花が文学少女の称号を得る日は、永遠に来ることは無いのだろう。

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