「人間誰しも才能というものを必ず一つだけ神から与えられている。」
「人間誰しも才能というものを必ず一つだけ神から与えられている。」
昔、どっかのだれかからそんなことを言われた気がする。高校1年の今になって、そんなものはキレイごとにすぎないとわかる。才能なんて「もっている人間だけが持っているもの」なのだ。勉強も平均、スポーツも平均、何をやっても平均ぐらいの位置にいる僕、黒田凛は才能のかけらも無い人間だ。それに比べ、幼馴染の白宮蓮は文武両道、才色兼備で僕がかなうものは何一つないと断言できる。それこそ才能を多く備えている。昔から一緒にいたせいで、僕はしばしば彼と比べられ、非常に惨めな思いをしたものだった。高校も同じクラスになってしまい、親友である彼の存在を誇らしく思う一方、心の奥底に言葉では言い表すことのできないわだかまりが常にあった。ある日の放課後、家も近いので一緒に帰ることになった。
「いいな、お前はなんでもできて、少し才能分けてくれよ。あ、あとこの言葉聞いたことあるか?人間誰しも必ず才能1つもってんだってさ。俺にはなんもねえな。ははは。」
僕は皮肉交じりの軽いジョークのつもりだったのだが、突然彼の表情が翳った。
「おい、その言葉どこの誰に聞いた。」
彼が静かに尋ねる。
「その言葉ってなんだ?いきなり真剣になって、どうかしたのか。」
「人間誰しも才能が1つあるっていう言葉だよ!いいから早く答えろ!」
彼がものすごい剣幕で聞いてくるので、僕も真面目な風にして返す。
「いや、どこで聞いたかは覚えてないよ。ただ、印象に残ってただけ。」
「そっか、少し威圧的になって悪かったな。この後暇?少し話したいことがあるんだけど、うちにこないか?」
僕はなんとなく彼から不穏な雰囲気を感じたが、それを凌駕する好奇心には勝てず、うんとしか言えなかった。