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浮き足だって死んだ俺の話

俺は普通の大学生だった。

何か具体的な未来を想定するでなく、ただ漠然と自分の未来を想像しては落ち込むような、特段才能にあふれているわけでもないただの大学生だった。

そんなパンピーちゃんの俺の生活が一変したのが5年前だった。

今思えば何てことしやがったんだ、と思うが迎え入れられた当時はうれしかったのだ。

選ばれた人間である、なーんて言われて喜ばないやつがいるだろうか?

斜に構えたやつならば、「恥ずかしい」とか「別に・・・」なんて反応をするのかもしれない。

でもな心の中ではやっぱりうれしいのだ。

誰にだって英雄願望はあるのだ。


だから俺はたぶん、そのとき浮かれていた。



「異界の強き人よ、我が国をお救いください。」


美人だった。

やや現実離れした、小川の流れにも見えるような美しい銀髪が目に入った。ふわふわと重力に逆らうように幻想的にたなびいていた。

真っ赤な、ともすれば威圧感を覚えるような血のような瞳。しかしそれはやさしく細められていた。

白い、真っ白な初雪のような、白い肌。こちらから放たれる光に透明感を見せていた。


「残念だったな!!これで俺の勝ちだわー、ちょろいわ・・・?」


友達と大富豪をして遊んでいた俺は、片手にファンタのペットボトルをもち、もう片手には残した2のカードを2枚とエース1枚で勝利を確信したような悪い表情を浮かべていたが、その両方を取り落とした。

俺の記憶によれば2はすでに2枚使われ、ジョーカーも消費されている、勝ちパターンだったはずなのに・・・。


自分の周りから放たれる不可解な光と、荘厳といえる建物にぐるりと目を向ける。

天井の高さにくらっとして、口を間抜けに開いたままその美しい女性を見た。


「異界の勇者様、我が国を、救っていただけますか・・・?」


困ったように首をかしげたその女性に、日本人である俺は模範解答を返した。


「え、あ、はい?ええ、俺にできることなら善処します・・・?」




話はこうだ。

魔王軍とやらが軍隊を集めている。

魔王軍は魔族を率いている。

魔族に比べ人間族はひ弱である。

戦争になったら勝てないから、どうか異世界の勇者様、魔王を倒して国を守ってください。


と、テンプレートなファンタジーなお話である。

それでも選ばれることはうれしい。

王様と王女様と宰相様と騎士団長様と魔法師団長様とその他もろもろの偉そうな人たちに、よいしょされまくった結果俺は答えた。


「まっかせてくださいよー、はっはっは、俺がこの世界を救いますよ。」


俺はひとがいいのだ。

頼ってきたやつを見捨てることが出来ないのだ。

特にこんな美人なひとを見捨てるなんてして良いはずがない。世界の損失である、いや、異世界だけども。

そんなところがかっこいいと王女は言った。

無事かえってきたらこの美しい方を嫁にもらえるらしい。

やったぜ。



そんなわけで旅に出た。


長く苦しいたびに出たのだ。


300万イエンという通貨と、何でも切れる伝説の剣と、何でも防げる伝説の盾を両手に旅に出たのだ。

なんでも国民にこのことが知れると、魔王軍が攻めてくるのではないかという噂で混乱がおこる、ということで一人で、寂しく、こっそり城にある秘密の通路から旅に出たのだ。



そして俺は死んだ。


森に出て5分で死んだ。


痛みがあった、焼け付くような痛みだった。

生きたまま臓物を引きずり出されて死んだ。

俺を食べたのは狼の群れだった。


あ、死ぬんだな


って思って俺は意識を飛ばした。










と思った直後に俺は生き返った。

光を放ち傷口が修復される。

無理やり細胞が戻っていくのは無理やり細胞が引き裂かれたときと同じくらい痛かった。


「あ、あ、ああああああああああああああああああああああああ!!!」


叫び声と放たれた光に狼たちは驚いて逃げていく。

その場で嘔吐しながら俺は場違いに明るい音を聞く。



てれってってって~

レベルが上がったよ。


ピコンと音がして目の前にステータスウィンドウみたいなものが現れた。

生き返ると同時にレベルが2になったようだ。

この今まで経験したことのない、おそらく人生で一度しか経験しないような痛みと苦しみを味わった直後に鳴り響いた能天気な音に、怒りを覚える。

何で生き返ったのかもわからないし、何でこんな目にあってるのかもわからないし、どう考えても説明不足だし、怒りで叫びながら俺は城の秘密の出口まで走った。

強きものだから、君に敵はいない、なんていったのは宰相だったか、騎士団長だったか。


秘密の出口までたどり着くと王女様が待っていた。

俺の姿を見ると、がばっとものすごい勢いで頭を下げて言った。


「だ、大事なことを伝え忘れてました!!あなたの力についてです」


ぶち切れながらも頭を下げてくるひとに文句を言えるタイプでない俺は黙って話を聞いた。

どうやら俺の力は「不死身」であるということらしい。

この世界では死の境をさまようと、恐ろしいほどのステータスアップが望めるそうだ。

どこのヤサイ人だ。

というか、それは俺に何回もしねということか?

いいか王女様よ、世の中にはな、いろんな特性に萌えるやつがいるけどな。

その中にどじっこ、なんていうのもあるらしいけどな、でもな。

ひとを死に追いやるようなどじは「てへぺろ」じゃすまねえんだよおおおお。


「そう、ですか・・・、それはどうも・・・。」


心の中で叫びながらも、

「それではどうぞ勇者様、よろしくお願いします。」

という王女様の100万イエンスマイルに追い出されるように俺はとぼとぼと歩き出した。

所持金を使い切ればあと3回位はこの笑顔を見られると思った。

さすがに愛想をつかされそうだな、なんてあほなことを思っていた。


冷静になれば気づけたかもしれない。

俺の怒りはどこへ行ったのだ、と。


それからはつらい毎日だった。

5年だ。

魔王にたどり着く5年間の間に俺がいったい何度死んだことか。

熊みたいな化け物に首を弾き飛ばされ、巨大なさそりの毒にしびれ、蜘蛛女みたいなのには体をじりじりと解かされ、龍に丸かじりされて、数えたらきりがないが、途中で痛みにもすっかりなれてしまった。


俺は今かなり強くなっていると思う。

伝説の龍を倒したのだ。

いや、正確には何回も殺しても生き返る俺、そしてそのたびに強くなる俺をみつめると、

「おまえ、きもちわるいな。」

と彼は呟いた。

やがて俺がやつと互角に戦いを始めたころだった。

やつはその大きな翼を羽ばたかせると空たかくに舞い上がり再びこちらを見つめてこういった。

「きりがないし、なんか、きもいからお前の勝ちで良いよ。」

大変低くて渋いいい声でそんなことを言うと、どこかへばっさばっさと飛んでいってしまった。


伝承によると300年前、当時最強だった皇国の大隊2000人でも傷ひとつつけられずに全滅したという。つまり今俺は一人で優秀な兵士2000人を傷ひとつなく倒せるくらいにはつよいのだろう。

今の皇国はその損失が痛すぎてだいぶ国を縮小したようであるが、それでも俺を召還したイエン王国と同じくらいの規模らしいので、その大隊というのも相当なものであっただろうことが伺える。

ちなみに魔法は使えない。というか、誰も教えてくれなかったので、白兵戦でそれだけの戦果である。

なぜこんな剣と魔法のファンタジー世界で魔法が使えないか、といえば、それは俺に明確な身分証明がないからだ。

身分証明も国籍も何もない俺は公的な機関で魔法を習うことができなかったのだ。

なんせ俺は秘密の勇者なのだから仕方がない。

裏のルートから魔法を知ることも考えたが俺はしなかった。

なんせ、俺は、「秘密」の勇者なのだから。


ほんとに、何で俺は気づかなかったんだろう。



そんなこんなで最強になった俺はたどり着いた。

魔王の城の王座の前に立った。


魔王は笑う。


「ふ、っははははははは、お主もしかして勇者とかいうやつかの?王国から来た勇者かの?」

「そうだ、お前を倒すために長く、つらいたびをしてきた。」


恨みのこもった目で魔王をにらみつける。

魔王は女だった。

ロリっとした女だった。

肌の露出の多い、ボンテージっぽい服を着て、悪魔らしい翼を生やした女だ。

玉座で頬杖をつき、こちらを見つめる。


「で、何のためにわしを倒すんじゃ?」


おかしくてしょうがないといった表情で彼女は尋ねた。

もうわかっていたのだ、彼女は俺を一目見た瞬間に察していたのだ。


「そんなの決まって・・・」


一瞬、悩む。

何のためだっけ。

俺、こんなに死んで苦しい思いしてまで何のためにきたんだっけ。

ああ、そうだ、王国を救うんだった。

なんの義理も借りもなくて、むしろ平和な日常を強制的に奪い去ったくだらない王国を救うんだった。


「王国を、救うためだ」


俺は少し小さな声で答えた。

自信なんてなかった、あれ、ほんとに何でこんな、文字通り死ぬような目にあってまで冒険してきたんだろう。

そういえば最近一人のときもそんなことをよく考えていたのだ。


「なんでわしを倒すと王国を救ったことになるのじゃ?」

「それは、お前が、王国を攻める準備をしていると・・・。」


やめてほしかった。決心が揺らいでいく。

違う、やめてほしくなかった、こんなくだらない決心はぶち壊してほしかった。



「誰から聞いたのじゃ?」

「王国の、王様とか・・・。」

「それ以外から聞いたことは?」

「・・・ない。」


何を言ってるんだ。

落ち着いて考えるんだ、相手は魔王だぜ?

これもしかして洗脳され始めてるんじゃないか?

さっさと戦ったほうが良いんじゃないか?

いや、待て、待て、こいつの話は聞く価値がある。

違う、聞かなければいけない、今さえぎってこいつを殺したら俺は一生後悔する。

死なない体できっとこの先後悔し続ける。

早く続きを言ってほしい。確信がほしい。




助けてほしい。




「じゃあ教えてやるがの、わしは平和主義者じゃし、そもそも魔国シュガルドは民主主義じゃし、それぞれが強いからの、軍隊なんてありゃしないぞ。」




からからと笑いながら魔王が言った。

からからと音を立てて自分の中の何かがゆっくりと、崩れていく。

ああ、こいつの話なんか、聞くんじゃなかった。


いや、聞いてよかった、聞かなければいけなかった。


「う、そ、うそだろ?だまそうとしてるんだろ。」

「いいや?騙そうとなんてしておらん。まあ、信じられないならわしを殺して王国に帰ったらいい。おっと、その前におぬしにかけられた魅了の呪術と、王族にはむかったら永遠に死に続ける禁術を解いてやろう。ま、何でかしらないが術の効果は2つともずいぶん弱っているようだがのう・・・。おぬしまさか何回か死んだりしたかの?は、はっはは、死んだ人間が生き返るわけないからの、冗談じゃけどな。」


頭がおかしくなりそうだった。

魔王がにゃむにゃむと口の中で何かつぶやくと、ぱーっと自分の体から黒いもやが霧散していく。

体に力が入らなかった。

がっくりとそこに座り込む。

あ、ああ、助かった。

本当に助かった。

もやが晴れたのだ、頭の中に薄ぼんやりとかかっていた、魔王を殺さなければいけないというもやが晴れたのだ。


「それでおぬしはわしを殺すのかの?わしはまだ死にたくないんじゃがの。」


困ったように魔王が笑う。

長い黄金の髪が静かに流れる。青く吸い込まれるような瞳が此方をみつめる。


「ああ、おぬしは強いからの・・・。肉弾戦が苦手であるわしのことなんぞ簡単に殺すことができるはずじゃ。肉弾戦ってなんか響きがえろいの。なあ、そう思わぬか?・・・いや、なんでもない。その、まあなんじゃ、いわばこれは命乞いのようなものじゃの。一度王国に戻って、真実を確かめてからまた着たらどうじゃろうか?その間わしは魔力を隠し、死んだふりでもしておこう。どうじゃろうか?な?悪いようにはしないからの?」


王座を下りて此方に歩いてくる魔王を見つめる。

背は俺の胸の辺りまでしかないだろう、強さも感じない。

そして俺の前で止まると何かを唱えた。

体を一瞬こわばらせ、戦闘体制にはいったが、こちらには何も起こらなかった。

ぶーん、という低い音がして俺の真横にゲートのようなものが現れる。


「それは王城の秘密の出口付近につながっとるゲートじゃ。いってくるがよかろう。それとも不安があるかのう?女にだまされてここまできたんじゃから、わしのことも信用できんかのう・・・。」


ぷらぷらと手を振り黒い翼を揺さぶりながら俺の周りを歩く。

まだきまらんかのー?まだかのー?と子供のように歩き回るそれがうそをついているようにはとても見えなかった。

そもそも王城にいたとき俺は疑うことすらできなかったのだ。

もともとそれなりに臆病で用心深い俺が疑わず、死地に乗り込み、死に続けてここまでたどり着いたのだ。

そんなひどい目にあったことを考えると、選択肢を出すこの魔王のほうがよっぽど信頼が置ける。

もしかしたらだまされてるかもしれない。

でもそんなことは今考える必要がなかった。


足に力を入れて立ち上がりゲートをにらむ。

今俺が確かめなければいけないのは、王城にあるはずの真相だけだった。








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