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猟犬系女子、事務所で死闘をする (the キリングフィールド of 事務所)


 □ □ □


 運転手が肩を跳ねさせて意識を取り戻した頃には、バスはすでに街の大きな駅の前に到着していた。

 まったく記憶がない運転手は、目を白黒させていたが、降りていく乗客に何とか対応をこなす。

 先輩から伝え聞いた怪談、『ワープするバスの怪』を思い出しながら……。


 □ □ □


 眠子はボロボロのストッキングと靴を駅のトイレで履き替え、勤め先へむかった。

 勤め先――雑居ビルを見上げながら、眠子はため息を吐いた。

 超能力者の派遣という、色々規格外の仕事だ。ため息もつきたくなる。

 社員は、社長と眠子の二人だけ。

 しかも二人とも超能力者なので、色々とおかしい仕事を歴任している。


 特に社長は、国の中枢にかかわる予知能力者だった。

 しかし、……。 


 しかし、ちゃらんぽらんな性格の癖に危ない橋を渡りすぎなのだ、あの社長は!

 例えば、暴力団の首相誘拐事件の予言をしたが、うっかり自分が攫われかけるとか!

 例えば、選挙不正を見抜いちゃって、宗教集団に拉致されかけるとか!

 うっかりで、攫われ過ぎなんだよ社長! ピーチ姫かよ! 

 助けに行く私、マリオ枠じゃねぇか!?


 カンカンと雑居ビルの外階段を怒りを込めて踏みつけつつ、眠子は歯噛みした。

 そういえば、社長つながりで、首相とも知り合いになったが、この人もなかなかの曲者だった。

 男性優位の政界で誕生した、歴代初の女性首相。

 美人だが、相当イカレている。


 社長が、宗教法人やら暴力団の抗争に巻き込まれても、

 「佐倉ちゃんなら大丈夫でしょ? はーい、さっさと助けてらっしゃい」と、眠子を特攻させるのだ。

 「首相の依頼が原因で、社長がとんでもないことになってるんですが!」

 実際そう言ったら最後、「ふ~ん?」と返された。

 それで? と言いたげな顔に反論は許されなかった。

 

 すごすごと眠子は潜入準備に入って、潜入先の宗教施設で、八つ当たりした。

 能力による攪乱と、同士討ちによる圧倒的な眠子無双だった。


 以来眠子は、首相には勝てた試しがない。

 国家権力は強すぎた。

 逆らえば、Death or Die。眠子は死ぬ。

 首相に逆らえないまま、眠子と社長は国家の犬になった。わんわん。

 下剋上を夢見る日々は虚しい……。


 だから眠子は、現実逃避という名の虚実に浸っている。

 猟犬系女子の名は伊達ではない。勝てなくて、餌をくれる人に対してはもう懐くしかない。

 それで回っているんだから、日々を精一杯生きるだけで、もういいかもしれない。 

(まぁとりあえず、今日の仕事を片付けることから始めよう。あとはどうにでもなーれ)


 朝から色々あって疲れていた眠子は、それでも気合を入れつつ、事務所のぼろいノブを勢いよく回した。

 たとえ空元気だろうと、笑顔が一番だ。

「おはようございます、社長! 今日もはりきtt……え?」


 しかし、その笑顔は事務所に足を踏み入れた途端、凍りついた。

 視線の先には、えらくガタイのいい軍服姿の外人が立っていたのである。

 男が身に着けたサングラスの奥から、冷ややかな視線を感じる。

 眠子は唖然とした。

 視線を部屋中に走らせても社長の影はない。多分部屋を間違えたのでもない。

 なら、この外人は……一体?

 

 混乱の極地にある眠子に向けて、彼はすっと手を伸ばした。ナイフだった。

 外人は眠子が瞬きする間も与えず、こちらに切りかかってきた!


 □ □ □


 (ツッ……!)

 書類鞄を咄嗟にかかげ、身体のど真ん中に向かって突き出されたナイフを防ぐ。

 しかし、苛烈な突きを、薄っぺらい鞄で防げるわけがない。

 中に満載されたファイル類を突き破ってナイフの刃先が、飛び出す。

 しかし、眠子の狙いはナイフを防ぐことではない。

 眠子はナイフごと書類鞄を後ろに放り投げた。


 ナイフにつられて、外人は前方に体勢を崩す。

 すかさずそのみぞおちめがけて、眠子は、横合いからカウンター気味に蹴りをかました。

(ナイフは一端刺した以上、急に抜けない……! それが隙になる!)

 かなり強力な蹴りを見舞ったつもりだった。しかし……。

(手ごたえが、……ない?!)

 外人は身体を折りつつ、片手で眠子の膝を受け止めたらしい。

 眠子の焦りを見越したように、外人は眠子の軸足を素早く払って床に引き倒した。

「……いッつ」

 頭を引き起こしてとっさに受け身は取ったが、瞬間息が詰まる。

 天井が見えたと思ったら、外人の靴の裏がぬっと視界に入ってきた。

(!?……やばッ!)

 眠子が転がるや否や、眠子の頭が寸瞬前にあった床を、大きい軍用靴が踏み抜いた。

 頭を踏みつぶすつもりだった、らしい。

 二転三転して、ようやく立ち上がる。

 一瞬の攻防だった。


「なんなんですか、あなたは……!」

 眠子は肩で息をしながら、不審人物にようやく誰何した。

 本当は、もっと前に聴くべきだったかもしれない。だが、その前に切りかかってきたのは向こうだ。他にどうしようもない。

「…………」

 無言で軍人は構えをとった。まだやる気らしい。

 眠子も応じて、軽く拳を握って構える。

 こちらもまだやれる。……まだやれるが、……勝てないかもしれない。


(社長、頼むから来ないでくださいよ。あんたを守る余裕はありませんからね……)


 最初の位置とは逆になり、外人が部屋の入り口に、眠子が部屋の中央に陣取っている。

 もし今社長が来たら、あっという間に人質に取られる。最悪、殺されるかもしれない。


(くそぉ、朝からとんでもなかったけど、今日はとことんついてないな。でも死ぬ気もないし、どこまでもあがいてやりますけどねッ……!)


 浅い呼吸を一つ、体内の気を高めるように強く吸い込む。

 先手を取るべく、足に力を込めた、まさにその時、

 ――――外人の後ろの扉が開いた。


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