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DANGER WORLD -無限の戦人-  作者: 湯澤 手紅矢
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序章 ツァンリューの霊長たち

序章 ツァンリューの霊長たち


東暦一一一四年一○月一八日。

トースト連邦共和国領 とある密林にてーー


「見つかったか?」

「いや、何も」

バンダナを頭に巻いた長身の男の問いに周囲を散策していた少々小太りの男が答えた。

「そっちの方は?」

「いえ、こっちも同じです」

さらにバンダナの男は幾人に問いかけるも返ってくる答えはどれも男を落胆させるものばかりだった。

「大尉、本当にこんなところに奴らはいんるですかねー」

それからしばらくして、仕事が行き詰まった頃、再び小太りの男が飽き飽きとした表情を浮かべて問い掛けてきた。

「データ上、この辺りで間違えはないはずだが……」

「ですが、かれこれ3時間ずっとこの調子ですよ? もはやデータ自体に誤りがあったとしか思えませんがね、少佐」

「そうは言ってもな……」

少佐と呼ばれたバンダナの男は言葉を詰まらせた。小太りの男の言っていることは反論し難い事実だったからだ。

少佐もそれには共感していた。しかし自分の置かれた立場上、無下に結果を残さず退散するわけにもいけなかった。

周りには無限に広がる樹海が展開されている。小鳥たちの鳴き声が森林内を児玉していて、木々の葉が空から照りつける太陽の光を妨げてくれるお陰て心地よい環境が整えられている。そしてちらほら伺える動物たちの営みーーそれらはまさに自然が織り成す素晴らしい世界だった。

だが、そんな観光気分に浸れるほど男たちに余裕はなかった。

少佐が率いる十数名の調査班の小隊はあるものを探して数時間前に森の中へ入り込んだ。

組織の中から抜粋された調査員たちはこうして体に疲労と心に焦りを抱えながらデータから割り出された結果を元にある一つの目的を達成するために任務を遂行していた。任務と言ってもそれは至って地味な宝探しに過ぎない。しかし時間によって侵食された彼らの体力は限界に達し、士気を下げていた。

少佐自身、足に溜まった足の痛みは相当なもので、心底先の見えないこの作業にうんざりしていた。

「そう言えば少佐はこんな話を聞いたことあります?」

お喋り好きなポッチャリ男は話し相手を求めて大尉に語り掛けた。

「何だ?」

ーー良い気晴らしになるから良しとしておくか。そんな考えから大尉は男の小話に耳を傾けた。

「大国同士の戦争ってこの前終わっただけですけど、あれってあくまで休戦中じゃないですか?」

「ああ」

大国とは東のフロル王国と西のエイジャ帝国の総称だ。この2カ国はイデオロギーにおいて対立し合い、数年まで世界中を巻き込んだ戦争を繰り広げていたのだった。

「両大国は消耗品に近い兵士の代役を探しているそうですよ。いわゆる無人の量産型兵器ってやつですよ」

「そいつは興味深い話だな。で、続きは?」

2人の会話は他の調査員にも聞こえていた。誰もが大尉と同じ動機で男の話に聞き耳を立てていたからだ。その一方で隊長は任務を続けながら、男に相づちを打ってやっていた。

「エイジャ攻防軍は生物兵器何て物に目を付けてるって噂があるんですよ。そってつまりーー」

「俺らが今回の任務を成功させれば、そいつが列挙共が欲しがっているそれになるわけと?」

少佐はいささか満足気な笑みを浮かべながら結論を言った。その一方で男はムウっと頬を膨らます。

「ほらー、一番美味しいところを言わないで下さいよ。全く……」

「悪いな。しかし、気は紛れた」

「そうすか? 何なら他にもネタはまだあるんですよ?」

「ほお、それは期待できそうだ。だが、少しは手も動かせ」

「了解です」

男はニッと笑みを浮べて頷くと額に溢れた汗を拭いながら、小声でブツブツと呟き出した。そのネタとやらを探しているのだろう。

その様子を少佐は傍目に見ながら、地道に目的のものを探す。 それは湿った場所を好んでいることからそこらを重点的に目を光らせていく。

「そう言えば少佐、この森ってトーストにしか生息していない世界有数のディンゴ生息地なんだって知ってます?」

男がそう言い出した時、少佐は不敵な笑みを浮かべると共に口角を緩めた。その表情には安堵にも似た感情が籠ってもいた。

「ーーそうだったのか。だが、その話は基地に帰ってからゆっくり聞くとしよう」

「ふえぇ?」

男が目を見開きいて驚きを露わにした。しかし僅かな間を置いた後、状況を察した男は満足気に微笑んだ。

「とうとう見つけたんですか!」

「ああ」

ざわめきな立つ始めると共に男に続いて他の調査員達もぞろぞろと少佐の周りに群がる。

大尉は樹木の根元にあったそれに手にしていたペンライトで光を浴びせた。

「おおー、それがあの結合値の高い原種獣の卵ですね」

男が意気揚々とそれを眺めながら呟いた。

「そうだ。正式にはセタラチュラと言う原種獣の卵嚢(ランノウ)と言うもので、周りは糸で包まれて中は保護されているそうだ。クモ型の原種獣には節足動物に属する小型のクモとは違って、産んだ卵嚢を保護せず目の付きにくい物陰に放置する習性がある。見つけるのには苦労するが、この場に親が戻ってくる可能性は低いと言うわけだ」

ペンライトの光を反射する艶のあるセタラチュラの卵嚢は白く輝いてより一層美しく見える。

「しかしまぁ、こうした原種獣の習性のお陰で我々は苦労したもんですよー」

男はまるでこの場にいる全員の思いを代弁するかのように、忌々しくそう吐き捨てた。

「ああ。原種獣は謎多き動物だ。遥か昔に突如として現れ、分布を拡大していったと言う……」

少佐の表情には冒険家が浮かべるような期待感に満ちたものが浮かんでいたことに男は気が付いた。そして、一呼吸置いて彼は続けた。

「しかし謎が多いからこそ、彼らに秘めたる可能性が無いかと期待してしまう輩がいるのだよ。現にコロラド•イーシュターはその一人だ」

「全く……あの人は物凄いものを作ってしまいましたよ。呆れたものです」

やれやれ、と言った様子で男はお手上げと言った様子で左右に頭を振ってみせた。

「数年後、彼は世界からどのように映っているのか気になるな。そして我々も」

「そうですね」

「取り敢えず任務を終わらせよう。例のものは?」

少佐がそう言うや、そそくさに調査員の一人が慎重な趣でアタッシュケースを差し出し、中を開ける。

「すまない」

少佐は一言断ると、そこに収められていたガラス製の注射器を手に取った。中身は黄土色の濁った液体が見受けられる。その正体を誰かが尋ねる訳でも無く、皆が少佐を見守っている。

「やるぞ」

大尉はセタラチュラの卵嚢の表面から針を刺し込み、注射筒の頭を親指で押して中身を注入した。

「これで任務は完了だ。この場所に使い捨て定点カメラをセットしておく。そしたら我々は退散だ」

「了解」

ようやく士気を取り戻した調査員達が慌ただしく動き始めた。その様子を傍目に見送りながら、徐々に黄土色に染まっていくセタラチュラの卵嚢へ少佐は皮肉めいた一言を送った。

「ーーこれで我々イーシュターは世界を敵に回してしまったようだ」


本作品は自分がモンハンにハマっていた中学の頃に想像していた世界観を自分なりのオリジナルにした物語です。


未熟者ですが楽しんで頂けたら光栄です。数日の間隔を開けて連載していく次第です。読者の方にコメントを頂く事がこの上ない自分の原動力になります。どうか目を通して頂けたら嬉しいです。

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