子供たちは仲良く成長しているようです。
琉璃は躊躇わず、そのまま隣家の公祐の屋敷に、滄珠と桃花を連れていく。
「おや、どうしました?」
祐蘭の後も、3人娘に恵まれた公祐は、大きな瞳の4人の可愛い娘の手を引いて現れる。
「伯父様! だ、旦那さまが!」
「孔明どのに何か?」
表情を引き締めた公祐に、母親に手を引かれて現れ、顔を歪めていた滄珠が泣きじゃくる。
「ごめなしゃい……ごめなしゃぁぁい……こあい、こあいのぉぉ!」
「滄珠ちゃん? 何が怖いの?」
木蘭は優しく腰を屈める。
「おばしゃま……わぁぁぁん!」
余りにも激しく号泣する様子に木蘭が抱き上げ、公祐が、
「中にいらっしゃい。琉璃。家の者に、循たちもここに戻ってくるように伝えます」
「お父様、お母様、どうしたの?」
13才になった長女の玉蘭はキョトンとする。
本人はきつい顔は実の父に似ていると自分の顔を嫌っていたが、成長するごとに母親に似てきて、その上元々努力家の性格で、苦手だった刺繍なども頑張るようになり、今では、20才の月季と共に『花の姫』と呼ばれている。
月季は公祐の屋敷で生活しており、現在は武将として出仕している。
「玉蘭? 隣の屋敷に多分、広がいるから、連れてきなさい。私は、益徳どのの屋敷に使いを送るのと、金剛たちを連れて戻る。良いね?」
「はい! お父様」
父親の口調に返事をした玉蘭は、さっと上品な足さばきで立ち去る。
「木蘭? お願いしますよ?」
公祐は微笑み出ていった。
「では、琉璃さま、滄珠ちゃん、桃花ちゃんもゆっくりしましょうか」
奥の四阿で下ろしてお茶の準備をすると、ひっくひっくとしゃくりあげている滄珠に、
「怖いことがあったの? 滄珠ちゃん? おばさまにお話しできる?」
そっと告げる。
顔をあげた滄珠は、ポロポロと涙をこぼしながら、
「おしょら……おほししゃま、みえたにょ。士元おじしゃまが……」
その後は言葉もなく、ただ泣き続ける。
木蘭は琉璃を見ると、躊躇いがちに告げる。
「旦那さまと喬ちゃんと滄珠ちゃんは……星見の力があるのですわ」
「星見……?」
「はい……」
どう説明すればいいのか、一瞬黙り込む琉璃に滄珠は、
「おばちゃま……士元おじちゃまが、おじちゃまが……怖いことがあるの……」
泣きじゃくる。
「怖いこと?」
「強弓で、ふわぁぁぁん!」
「強弓!」
木蘭と琉璃は顔を見合わせる。
「士元おじちゃまが、お城のお父様に忠言するのでしゅ。そうしたら、ひげのおいちゃまが、そりぇと……か、関平どのが……」
「……!」
青ざめる琉璃に、木蘭は微笑む。
「大丈夫ですよ。旦那さまは残っていますが、簡憲和さまも行かれていますし、心配しなくても良いと思うわ。滄珠ちゃん」
よしよしと頭を撫でて微笑む。
「それよりも、滄珠ちゃん。循と月季さまと、玉蘭と喬くん。どちらが先に結婚すると思う? それよりもどうしましょう! おばあさまって呼ばれちゃうわ! でも、でも、おばあさまって呼ばれたら、私は兎も角、琉璃さまは困るわねぇ……」
のんびりと頬に手を当てて、漏らす声に、
「母様は困るよねぇ……それよりも、金剛お兄ちゃんはどうするの?」
姿を見せた兄弟。
ぱぁぁっと目を輝かせた祐蘭は、統に駆け寄る。
「おにいしゃま! こ、こんにちはでしゅ!」
「あぁ、こんにちは、祐蘭。今日も可愛いね?」
統が大好きな祐蘭は、ポッと頬を赤くする。
「おにいしゃまも、いつもりりしいでしゅ」
「ありがとう」
頭を撫でる統の無意識のタラシぶりに循は、
「統はモテモテだなぁ」
「? 兄さんは、月季姉さんに刺されないようにね? 情報収集とは言え、やり過ぎだと思うけど?」
「なっ?」
「循?」
実母の木蘭の声に、首を竦める。
「母上!」
「先程の言葉は、何かしら?」
「いえっ? な、何でもありません!」
慌てて首を振る。
木蘭は、統と喬を見ると、
「二人とも? 教えてくれないかしら? おばさまに」
「えっと……」
兄と兄の実母を見て困った顔になった喬は、
「多分……月季お姉ちゃんは、理解していると思います……」
たどたどしく告げる。
「でもお姉ちゃんは、表情に出ないけれど、きっと話してくれないお兄ちゃんのこと、とても寂しがっていると思います」
「それより、お兄ちゃんはばれていないと思っているみたいですが、僕たちや月季お姉ちゃんには完全にばれているのに、続けても無駄のような気がします」
「統!」
循は弟を睨むが、冷静に、
「循お兄ちゃん。月季お姉ちゃんしかいないんだからね? お兄ちゃんは根性悪いんだから。いい? 月季お姉ちゃんに見離されると、結婚できないよ?」
「わぁぁ? 統! 本当だけど本当の事を言っては駄目! 循お兄ちゃんが根性も性格も捻れてるけど、多分良いところはあるから!……えっと、あるのかなぁ……?」
「ないない。喬も統も気にするな。循はこのままだ」
金剛の一言で、循は、
「三人とも……ぶっ潰す!」
「良いのかなぁ? 兄ちゃん」
広は、循の母の木蘭に抱き締められて、お菓子を口にしている滄珠を示す。
瞳が潤んでいて、慰められている。
「兄ちゃん? どうする?」
「……くぅぅ……」
悔しがる循の顔に兄弟が笑い、瞳を潤ませていた滄珠もキョトンとしたのだった。