元直さんたちが話すのは、月亮には難しいです。
「では、子脩、充と元直も行こうか」
義父の元譲に促され、歩き出す。
そこには、瓊樹と玉樹が待っている。
侍女がお茶の準備をしている。
幼い弟妹と遊びつつ、
「お祖父様‼ぼく、剣の稽古しちゃダメですか?」
「ん?構わないが、どうして?」
「えと……」
月亮が悲しげな顔になる。
「さっきのおじちゃんもだけど……ぼくは、お祖父様の孫じゃない。何かが起こる前に殺してしまえって」
「誰がそんなことを‼」
元譲は声を荒らげる。
「ぼくはお父さんの子供じゃない、りゅ、りゅうげんとくって言う人間の子供だって」
「月亮?」
元直は、手招きをする。
「月亮は私と玉樹の子供だよ。でもね?お父さんの名前を考えるのが苦手で、つけちゃった名前のせいで、そう言われることになっちゃったんだ。ごめんね?」
「名前?」
「そう。月亮の名前はね?お父さんの義兄弟……本当の兄弟のように仲良くしようって誓いあった2つ下の人の諱から一文字と、お父さんはここに来るまで勉強をする為に転々としていた、その時に援助してくれた人から一文字を貰っているんだ。義兄弟は諸葛孔明と言う」
「あ、知ってる‼おっきい人なんでしょ?で、妙才じいちゃん、食えない、要らないって」
月亮の言葉に苦笑する。
「孔明は諱が亮。で、援助をしてくれている黄月英おじさんの月からだけどね。これでもお父さんは考えてつけたんだけど、お祖父様に聞いちゃったんだ。劉玄徳どの……ここの南西を制圧した人はね、何人も子供がいるんだけど、一人行方不明の女の子がいるんだって」
「女の子?」
「そう。確か、生きていたら22歳前後かな?名前は亮月。月亮と名前がひっくり返ってるね」
「あ、ホントだ‼」
「その人はお母さんが胡人で、金色の髪と青い瞳をしているらしいよ。子脩様の奥方の水晶さまに似ているんだろうね」
月亮は首を傾げる。
「ぼくは金色の髪と青い瞳じゃないのに……」
「多分、名前を勘違いしちゃったんだね」
「でも、そのお姉ちゃんは見つかったの?」
月亮に悲しげに答える。
「亮月さまは亡くなっているよ。もう14年程前に。戦場に置き去りにされたらしい」
「……可哀想だね。ぼくと年が変わらないのに。戦乱が収まったらいいのに……お祖父様‼子脩おじさま‼」
月亮は訴える。
「ぼく、一杯一杯頑張るから、その、亮月お姉ちゃんのような悲しい目に会う人を、一人でも減らすから‼だから、一杯一杯勉強と剣術も頑張るから‼お祖父様‼おじさま、教えて下さい‼それにお祖母様や公達お祖父様にも教わるから‼」
「頑張りすぎてはいけないよ、月亮はまだ小さいだろう?」
「大丈夫だもん‼ぼくはお祖父様の孫で、父さまとお母様の息子だもん‼負けないよ‼国をよくしたいんだ‼」
幼い子供でも平和を願う……なのに成長するに従い、何故人は幼い頃の夢を捨て去るのだろう……穏やかに日々を過ごしたいと思えなくなるのだろう。
そう言えば、大人になっても変わらず、平和を平穏な日々を願い続けた者がいた……元直の義弟孔明である。
純粋で、そして強い意思を持つ男だった。
最近は文のやり取りをしているが、元気そうだと言う。
孔明の元気は余り信用してはいけないが、子供たちに琉璃もいるし大丈夫だろう……。
元直は息子に、
「じゃぁ、月亮。お祖父様のように素晴らしい方になれるように努力するんだよ?」
「はい‼」
少年の声は広がって消えたのだった。




