連れていかれた先で開かれる道
スタスタと歩く父に置いていかれないように、せかせかとついていく。
どんどん奥に入っていくのを、大丈夫かと思いつつ着いていくと、ピタッと止まり、
「兄さまー‼ただいまー!」
と扉を引いた。
「叔父さん。お帰りなさい‼」
「ただいま、金剛。あ、天藍、おいでおいで」
手招きされ、おずおず姿を見せた少年は深々と頭を下げる。
「は、初めまして。て、天藍と申します」
「……天藍?膝ついて顔隠してどうするの。ほらほら立って」
慌てて均は荷物を下ろさせ、立たせる。
「兄さま。この子、天の藍で天藍。年は15歳だよ。金剛より一つ下だね。天藍?牀で、ごそごそしてるのが、兄さまの亮。そして、この子が兄さまの息子の金剛。16歳だからお兄さんだね」
「あ、あのっ‼は、初めまして……」
「うっわぁ!循と同じ年なのに、背が高い‼よろしくな?俺は金剛‼」
手を差し出され天藍はためらうが、金剛は手を握る。
「今日から兄弟だ。仲良くしような?」
「は、はい‼金剛さま」
「はいじゃなくて、うん‼だよ。天藍。それに呼び捨てでいいよ」
「えっと、じゃぁ、うん、金剛」
「あー‼良いなぁ。お父さんも‼」
牀から細い優しげな声がする。
「金剛、天藍、兄さまが目を盗んで牀から逃げようとしてるよ?」
「あ、又、父さんは……俺たち兄弟で仲良くしてると、混ぜてって言うんだから」
「だって、だって‼わーい!家の子‼」
金剛の視線をたどるように振り向くと、銀色の髪が光った。
そして、痩せすぎているのかやつれ、目の下にくまをつくった年齢未詳の男性。
不思議なのは、漆黒の瞳が澄み切っていること。
その眼差しは若くもあり、年を経たようでもあり、益々年が解らない。
しかし、にこにこと嬉しそうに、
「おいでおいで、天藍。お父さんだよー‼」
「兄さま。僕の息子だけど?」
「だって、均は31じゃないか。玉音どのが今度こそ卒倒するよ?」
「それこそ、玉音が倒れたら凄いことじゃない。アハハ‼楽しみ‼」
「玉音どので遊ばない。もう、お前が今までしでかしてきたことで、お兄ちゃんは本当に胃が痛いです‼」
均をにらむ。
「玉音どのと結婚したのに、ほったらかしで何やってたの‼技術者として独立するって、破壊活動に邁進しない‼」
「いいのいいの。玉音は太っ腹だから」
「太っ腹は意味が違うでしょ‼全く……金剛、天藍。こんな均みたいになっちゃダメだよ‼お父さん、まだ35なのに白髪だよ⁉均達のせいで‼」
「いいじゃん。ハゲよりましでしょ」
「やめて‼この年でハゲ‼怖すぎる……」
肩を抱いて震える孔明は、近づいてきた二人を抱き締めると、
「お父さん達の大事な息子だよ。金剛は体調よくなった?それに天藍は痩せてるね。元気になるようにしっかり食べて、無理をしない程度に運動をしよう。勉強もしないとね。大丈夫。お父さんたちは、二人のお父さんだからね。安心しなさい」
「って、あぁぁ‼言ってる兄さまが、又残してるじゃないか‼」
「いや、だって、お腹すかないし……」
「食べなさい‼毒入れるよ‼」
均の一言に、天藍は硬直する。
今、何と言った?
「だ、だだだ、金剛‼ち、父上、物騒なこと言ってるよ⁉大丈夫?大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。兄さまは、そんじょそこらの毒じゃ死にゃしないよ。頑丈だから、ね?兄さま」
「均。毒を入れてからかうのは私だけにすること。孟起どのはいいけどね。どんどん入れてあげて」
「うん、そうするよ」
と、扉が開き、入ってくるのは大柄な男。
「おらぁ‼お前ら兄弟、俺で遊んでいるだろう?何考えてんだ‼」
「ん?」
孔明と均は顔を見合わせ、
「孟起殿をぶん殴って叩きのめして……」
「可愛い金剛を家に連れて帰るんだよね?兄さま」
「そうそう。天藍も連れて帰ったら、皆喜ぶよ」
「天藍だと?」
周囲を見回し天藍と視線が合うと、あれっと言いたげに、
「お前、姜維じゃねぇか‼あの教祖の……」
「私の息子ですが、文句ありますか?」
「あぁぁ‼兄さま、家の子にするつもりだったのに……」
「同じ敷地の隣の家で、家に入り浸っているのに、均の子供とか、私の子供とか意味はないだろうに、天藍、おいでおいで。ここに座って」
金剛と並ぶように腰を下ろすと、
「天藍。子供は親を選べない。親も子供を選べない……」
言いながら頭を撫でる。
「でも、親は親、子供は子供。それに親元から旅立つ、巣立つことも出来るように、今まで生きてきた苦しみから逃れることもできる。新しい生き方を示されることがある。天藍?お前のお父さんは誰?名字は?」
恐る恐る孟起を見て、
「き、昨日までは姜維ですが、天藍と言います。よろしくお願いいたします‼……あの、父上」
「「なぁに?」」
孔明と均は声が揃う。
「あの、せ、姓は何でしょうか?」
「え?均?教えてなかったの?」
「あ、忘れてた‼天藍。姓はね諸葛だよ。諸葛。この人が兄の孔明」
「しょ、諸葛……?諸葛孔明さまと言うと⁉あのっ‼」
立ち上がろうとした天藍は、均につんっと額を押され、そのままコロンと寝転がる。
「はい、寝不足の息子は寝てなさい。それと、おっさんは出てけー‼」
「おら‼おっさん言うな‼」
追い出されていく孟起を押しながら出ていく均をボーッと見ていた天藍は、後ろから体を包み込む温もりに全身の力が抜けていき、そのまま目を閉じて眠ってしまったのだった。




