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月亮の輝きを……【破鏡の世に……第二章】  作者: 刹那玻璃
少し成長してきたでしょうか?刹那が幼いので、年相応であるか不安ですf(^_^)
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滄珠ちゃんもお父さんと喬ちゃんと同じ星見でした。

 滄珠そうしゅは、テコテコと母親の琉璃りゅうりの後ろを着いて歩く。

 琉璃は表向きは武将だが、ほっそりとした華奢で優しげな女性である。

 その立ち居振舞いは優雅で、それでいて少しだけ表情は哀しげである。

 憂いを帯びたその美貌は、『白牡丹しろぼたんの将軍』とも呼ばれている。

 その美しさは、伯父様の公祐こうゆうの奥方である木蘭もくらんと並ぶと呼ばれている。

 木蘭は、『白木蓮はくもくれんの君』と呼ばれているらしい。


 琉璃は、じっと自分を見つめてニコニコしている娘に、フワッと花がほころぶように笑う。


「どうしたの? 滄珠ちゃん?」

「おかあしゃま、綺麗だなぁって思ったのでしゅ。しょうしゅもおかあしゃまみたいになれましゅか?」

「あら……」


 クスクスと笑った琉璃は、


「滄珠ちゃんは、お母さんよりもきっともっと綺麗になるわよ? これは本当」

「でも、おとうしゃまは『琉璃は一番です!』って」

「あらあら」


プッと吹き出した琉璃は、滄珠の頭を撫でる。

 琉璃と同じふわふわとした金色の髪になるかと思いきや、夫と同じまっすぐな髪に育った。

 色は琉璃と同じ金色で、瞳も同じ。

 顔立ちは暗い表情の自分よりも明るく、辛い状況に置かれていると言うのに、元気で笑顔が愛らしい。


 一度、益徳えきとくは、


「う~ん……麗月れいげつ姉貴はどっちかと言えば琉璃に似ているし、滄珠のその明るい所は、孔明の姉上方に似たんだろう。あのおっかねぇって言うよりも、本当にあの姉にして孔明ありだもんな。昔の孔明は、もしかしたら滄珠に似ていたんだろう」


と言っていた。

 義弟になるきんも、


「うーん……僕はあんまり覚えてないけど、母上が兄様を庇って、珠樹しゅじゅが生まれてから父上と棟を別にしてね、僕たち兄弟と母上が一緒に住んでたんだけど、その頃はものすごく快活と言うか、兄上や姉上たちに振り回されて、母上が3人に説教して、ぐったりする兄様の手を引いて、四阿あずまやに連れていってたよ。僕たちがいる横で並んで座ってね。お菓子を寄せていた母上に頬を真っ赤にして『僕、僕は……母上大好きです……僕のこと嫌いですか?』って聞いたら、もう母上が『自分の子供を愛さない親がいますか! 貴方は私の息子ですよ! 嫌いなんて言わないで頂戴! 良いわね?』って言いながらぎゅっと抱きしめてたよ。その時の笑顔が物凄く滄珠にそっくり。琉璃は美人だけど、滄珠は兄様にも似てるから可愛いね」


と笑っていた。


 そうか、孔明は自分に似て欲しくないと言っていたが、二人に似ているのか……。

 そう、凄く嬉しかったのを覚えている。

 そして下の娘は、夫が嘆く程、


「孔明に似てるな」

「あぁ、あの眉といい、切れ長の目といい、きょうよりも凛々しい!」


と、士元しげんや益徳に言われるように、滄珠の美少女顔とは違い、キリッとした顔である。

 しかし、顔立ちは整っていて、そして笑顔が可愛い娘である。

 名前の桃花タオファは、兄である5人の息子が決めた。


『神聖な聖木である桃の木、その花は優しい色で、春を呼ぶ。

 悲しく冷たい冬を乗り越えて、皆で頑張ろう』


とそう決めたのだとか。

 その優しい息子たちがいてくれるだけでも励まされたが、夫には感謝と、そしてそれ以上の愛情を持ち続けられる自分が嬉しい。

 孔明は、琉璃がどれ程自分を愛しているのか解らない。

 孔明は、自分は愛情をあちらこちらに振り撒くのだが、返されることに慣れていない……いや、あれ程愛されているのに、どうして分からないのだろう? と不思議に思うこともある。

 そういう琉璃も、孔明の深すぎる愛を受け止めるのに抵抗はない。

 逆に嬉しい……。


 こういう所が似た者夫婦なのだが、それが分からないのだろう。


 クスッと笑った母に、


「おかあしゃま? どうしまちたか?」


首をかしげる娘に、微笑む。


「……あのね? 滄珠位の頃に……もう少し大きい頃かしら? お母様は、お父様に助けられたのよ? お父様は、お母様の命の恩人であり、一番一番大切な人なの」

「しょうしゅ位のお年でしゅか? おとうしゃまはしゅごいでしゅ! やっぱり、おとうしゃまはかっこいいでしゅ!」

「そうね! お父様はかっこいいの。滄珠にとってほう君みたいな存在かしら?」


 顔を覗き込むと、滄珠は珍しく頬を膨らませる。


「苞おにいしゃまはしりましぇん! いちゅも、しょうしゅをあかちゃんっていうでしゅ!」

「あらあら、そうなの?」

「しょうなのれしゅ。しょうしゅだってもうしゅぐ8しゃいでしゅ。おねえしゃんでしゅ!」


『8才』その言葉に、切ない思いが溢れてくるのはどうしてだろう……。

 琉璃は顔を背けるが、伝う涙は一滴二滴と娘に降り注いだ。


「おかあしゃま……? 悲しいのでしゅか? おかあしゃま……しょうしゅ……」

「違うのよ」

 泣きそうになった娘を抱き締め、囁く。


「お母様は……滄珠を愛しているわ。それだけは信じてね? お母様が泣いているのは……滄珠をお兄ちゃんたちと一緒に過ごすことが出来なかった……お母様の傍でお父様と笑って、笑っていて欲しかったの。お母様の……」


 ハラハラと牡丹から降り注ぐ夜露よつゆのように、肩を震わせる母親を、背後からそっと抱き寄せるのは父孔明。


「どうしたの? お父様の大事なお姫様たちが悲しい顔をすると、お父様も悲しいよ」

「おとーしゃま……ごめんなしゃい……しょうしゅ……」

「違うのよ。滄珠が悪くないの。お母様は、滄珠と一緒にいられなかった事が悲しいだけ……今はここにいてくれて嬉しいの……」


 よしよしと琉璃をなだめるように頭をなで、そして滄珠に、


「滄珠? お空を見よう」

「おしょら?」


父に抱き上げられた滄珠は、ぶわっと総毛立つ。


 いや、父から流れ込む……それとも眠っていた能力が父に抱かれることで開化したのだ。

 空が……変化して見える。

 空から星の言葉が次々飛び込んでくる。

 そして……。


「おとうしゃま……士元おじしゃまが危ないでしゅ……」

「えっ!」


 空を見ると、星の位置が変化している。


「こ、これは!! 駄目だ!! 士元が!! 危険だ!! 何とかして!!」


 焦る孔明に滄珠が、


「おとうしゃま。しょうしゅが囲碁を教えてくらしゃいといってききましぇん、なのれ、戻ってきてくらしゃいとお願いしてくらしゃい!! 早くでしゅ!!」

「わ、分かった!! ありがとう!! 滄珠の方がすぐに冷静になるなんて……お父様も駄目だね……」

「大丈夫れしゅよ。おとうしゃまはしょうしゅの一番かっこいい、だいしゅきなおとうしゃまでしゅ!!」


その言葉に微笑んだ孔明は、琉璃に、


「滄珠を頼むね!! 琉璃。いいかい? 二人とも、関平かんぺいどのが来ないうちに、裏から一旦公祐どののお屋敷に行きなさい。良いね?」

「は、はい!! 旦那様。お気を付けて!!」

「琉璃も滄珠も、大丈夫。士元が何かあるわけがない。安心しなさい。行ってくるよ」


滄珠をおろし、全速力でうまやに向かう孔明を、二人は祈るように見つめていた。

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