閑話休題:じい様の独り言
番外編ですみません。
「フウギャァァ‼」
泣き出した声に、老齢に近づいたそれでも美しい顔立ちの武将は慌てて身を起こす。
「どうされた、姫……我が主……」
「フアフア……」
しゃくりあげるふわふわの金色の髪の愛らしい赤ん坊は、小さな拳を動かす。
「うーむ。姫。爺は、子育てをしておらぬので、とんと、姫が言いたいことが分からぬのだ」
ぎこちなく抱き上げる。
老齢の武将は姓は趙、名は雲、字は子龍。
白髪はあるが、しわはほぼなく、年齢未詳の美貌の主である。
姫を恐る恐る抱き上げる姿も、見方によれば、初孫を抱き緊張する祖父か、遅くに生まれた待望の我が子を抱いている父親である。
「襁褓か、お乳か……うーむ」
赤ん坊を抱いてうろうろと歩き回るさまを見て、
「何か、子育てに困ってるじじいですね」
「公祐何か言うたか?」
ジロッと睨むさまは、迫力よりも色気がにじみ出て、それはそれは周囲に何か危うい世界へと引きずり込む何かがある。
この時代、同僚、上司部下との結束をと共に寝たと言う習慣もあった。
しかし、子龍は主共、周囲の彼から見れば小童どもと寝る気もない。
特に、イビキの五月蠅い益徳は蹴り飛ばしておけば良いが、好色の髯をやたら自慢するバカや主君と寝て首をかかれる心配よりも、姫をだっこして寝ている方が温かい。
実家に妻子を残している。
もう、息子や娘は幾つになったのか……懐かしい故郷が遠くなり、家族の顔も名前も年も忘れかけていることに愕然とする。
「姫……姫様泣かんでくれんか?なぁ?可愛い顔が台無しぞ?」
よしよしとあやす。
「爺は、姫様が幸せになって欲しい……笑って欲しい……幸せな結婚をして、爺はその時には、姫を大事にせぬものは、この腕で殴り飛ばしてくれましょうぞ」
「貴方のお眼鏡に叶う、若者が何人いるか……その前に長生きして婿をいびるじいさんにだけはならないで下さいね?」
「公祐……それ程疲れて寝たいか?」
子龍と公祐、そして子仲と憲和は年齢を越えた悪友である。
そして、
「なぁなぁ……子龍の親父」
恐る恐る顔を覗かせたのは、益徳である。
「あ、公祐兄貴も……邪魔なら帰るが……」
文官と武官との仲が最悪に悪いのはいつもだが、野性の感で感づく益徳に感心する。
「いや、構わんぞ?どうした?」
「……姉貴の遺骸を集めて、近隣の村に託した……でも、いいのか?」
「……ほほぉ……益徳はわしがじじいだと……」
「違うわ‼姉貴を自分の嫁だって言って良いのかってことだ‼」
「本当は正妻の方が良かったんじゃがのぉ……これ、姫。何でも口に入れてはならん」
慌てて衣の裾をアグアグと口に入れようとした赤ん坊から、手をはずす。
「えーい‼公祐。姫がお腹が空いたと言っておる‼それに、益徳は姫の襁褓を探してこんかぁぁ‼」
若かりし頃の本物の親バカじい様のお話である。
趙雲じいちゃんを書きました。




