『枯れ女』咲蘭ちゃんと索ちゃんの六礼が決まりました。
次々と集まってきていた人々は、まずは台所の巨大な生き物の残骸をみて、
「これを、統が仕留めたのか?」
「はい。一人では持って帰られないので、途中で索兄さんにお願いして、一頭ずつ」
「それにしても……こいつらか……この辺りの畑を荒らしていたのは……」
感心する益徳。
「そうみたいです。これだけありますから、お酒は無理ですが、一杯騒いで下さいね?」
部屋に案内していると、孔明の姉の紅瑩が、姪の滄珠の手を引いて歩いてくる。
そしてその後ろには、未婚の女性の衣装の少女の手をひいた索が……。
「あ、紅瑩どの」
「まぁ、皆様。ようこそお越し下さいました。私は何もしておりませんが……お会いできて嬉しいですわ」
「それと……」
「私の住まいの近くに住む子ですの。後でご紹介させて下さいませ」
と言う横をすり抜け、
「うわぁぁぁ‼将軍様ですか?将軍様ですか‼わぁぁ~‼」
「ちょ、ちょっと待って、待って‼」
慌てて出てくる索に、手を捕まれるが、
「ご挨拶を‼何なら筋肉‼後で、勝負~‼」
「いや、勝負事じゃないでしょ‼ここは、諸葛家です‼君のお家ではないです‼大人しくして下さい‼良いですか?」
「そう言えば、お裁きがあるのでした。うわぁぁん。ごめんなさい‼筋肉に萌えて、忘れてました‼」
「そんな暑苦しいものに燃えないで下さい」
索は、疲労感がひしひしと背中にのし掛かる。
「そ、それに、何やってんですか‼」
叫ぶ索の前で、襦裙をからげている。
「いえ、隠しておく武器の場所確認と、さっき見えたので、隠した匕首で攻撃してしまおうかと……」
「駄目だって‼ここにいるのは皆、君程度の腕じゃ、すぐに押さえ込まれる人ばかりだよ‼それに、その……」
「家に武器を持ち込んだり、攻撃したりしたら……追い出しますよ」
統が冷たい声で告げる。
「私の家族に攻撃したら……」
「ふぅぅ……」
咲蘭は涙を浮かべる。
「ごめんなさい。ご家族には何もしません。したかったのは……私の姉夫婦です」
「お姉さん夫婦?」
「はい……」
ボロボロと涙をこぼし、告げる。
「私の家は、元々しがない行商人だった祖父が、祖母とこつこつお金をためて、馬家のお屋敷の近くにお店を兼ねた家を買いました。父も堅実に働き、行商をしつつ品物を仕入れ、店でも小物や仕立て、売ると言う仕事を続けていました。父が行商で行った先で見初めた母と結婚して生まれたのが、姉二人と兄と私です」
紅瑩がよしよしと背中を撫でる。
「姉二人は平凡な私とは違いとても美しくて、町でも評判でした。一番上の姉がある商人の方が跡取りの方と共に町を訪れて、見初められました。お相手は乗り気で格が違うと言っても、姉も乗り気でしたので結婚しました。それで、すめば良かったのですが……」
「ど、どうなったんだ?」
益徳の問いかけに、
「姉がお金を散財するので身代が傾き、最初は仲の良かった姉夫婦が喧嘩ばかりするようになり……最後には、兄が仕入れに遠出をしている間に、兄の親友と浮気をして……離婚しました。そのつけがこちらにも当然来て……父は『済まない‼お父さんたちには、お前を嫁に出す余裕がないんだ‼』と言われました。でも、本当に両親も祖父母も兄も必死に行商して、私を育ててくれて、私も手伝おうと母に教わった仕立て等を……合間に、懇意にして頂いているお師匠様……馬家の紅瑩様のお手伝いと言う形で、最低限の読み書きと計算、将来行商に行けるようにと武器を学びました」
余りにも悲惨な話に息を飲む。
「そうしたら、下の姉も見初められました。馬家の幼常兄上の嫁にと。こちらは当然お断りしました。格が違う上にお金も……すると、馬家の紅瑩様がある程度整えて下さり、その上、兄が結婚を約束している相手がいると知って、こちらも……『家族だから』と……本当にありがたくて、それで、上の姉の借金は何とか返す目処がたったと言うのに、今度は恩のある馬家からの……それで祖父母が倒れ、父と兄が必死に金策に励んでおりまして、母は看病。兄嫁は幼い甥と姪の子育てで……とるものもとりあえず、駆けつけたのです‼」
「咲蘭ちゃんは悪くないのよ。でもね、額が額だったの‼絹を馬車一台分、他にも装飾だのを持ち出したのよ‼」
「ゲッ!」
益徳たちは絶句する。
関平達の使い込みも冗談ではないが、馬家の幼常の使い込みの額は半端じゃない。
絹は最高級の褒美で、これを町に持っていくだけで、相当な食料と交換できる。
冗談ではなく、家族数人が何ヵ月も食べられると言うのも本当なのである。
その為、先日索は二反の絹を本当に喜んだのである。
自分が努力して得たもので、母にと思ったのも本当に美談になる位である。
それなのに……。
「お話を伺いました。納得しました。家では本当に上の姉の借金で苦しいんです。上の姉は自分勝手にしています。でも、下の姉の借金の額を払うまでは無理で……私がどこかの妾になるか、体を売るか……ですね。ご、ご挨拶をしたら帰ります。申し訳ありません。折角の衣装に化粧も台無しに……」
「な、泣かないで‼」
「……えっ?」
しゃくりあげる少女に、索が告げる。
「そんなの、姉さん達が返せばいいんだ‼君が必死になることない‼」
「で、ですが……」
「君は悪くないんだから、泣かなくていい‼紅瑩様のことだから、多分家族には一応、知らせるってことで、後でお姉さんと、幼常どのに払わせるから気にしないでって伝えるつもりだよ、絶対。それに君は多分、紅瑩様に誘き出されたんじゃないの?」
「誘き……?どう言うことでしょうか?」
素直な世間知らずの少女を、家から飛び出させた理由……それは、
「多分、紅瑩様のことだから、女の子がいないから自分の娘にして、嫁に出す‼……アダダダ‼すみません‼嘘つけなくてすみません‼」
つねられ悲鳴をあげる索に、オホホと笑う紅瑩。
「本当だけど、索君に言われると、ちょっと亮の言い方に似ていて、ムカッとしたわぁ」
「でも、その通りじゃないですかぁぁ……あぁ、アザになった……」
「と言うことなの。咲蘭ちゃん。ちょっとお嫁にいっちゃいなさい」
「……はぁ?えっと嫁って、家では娘を出すと身代潰すって、父がお前は特に出せないって。まぁ、お金もないし、不細工ですから……」
その一言に、紅瑩はがっくりし、周囲は、
「いやいや、嬢ちゃんは可愛いぞ?」
「益徳どのに同意しますよ。幼常どのの奥方の妹さんとは思えない程、可愛らしいお嬢さんで……」
「そうじゃ!」
索は、父の声に振り返る。
「どうしました?父上」
「のう。紅瑩どの。わしの息子は若輩とはいえ、先日位が上がり、ある程度の収入があるのじゃが、息子の嫁にお願いできんかの?」
「はぁぁぁ~‼父上‼何をおっしゃって‼」
索は訴えようとするが、
「わしは、孫の顔が見たい‼嫁も喜ぶぞ?」
「……っ‼」
索の母親大好きを知り尽くしている漢升は、
「もう数年もすれば。興も出歩くであろうし……、蕾果はお前の嫁に喜ぶであろうなぁ……」
「うぅっ‼」
「想像してみよ。母が嬉しそうに嫁と二人、嬉しそうに話す姿を。男ばかりでむさ苦しい、暑苦しいのを続けてどうする‼可愛いこのお嬢さんを嫁に貰え‼」
「あの、可愛くないのですが、大丈夫ですか?」
咲蘭の言葉は無視し、漢升は告げる。
「わしは、可愛い嫁が欲しい‼お前のことじゃ、むさ苦しさは倍増じゃし、幼馴染み運に健康運、仕事運はあるが、絶対に恋愛の縁はない‼父として……頼むから早めに結婚せい‼」
「……あの、父上は私がむさ苦しいと?」
「そこにおる統とお前を見てみよ。整った美貌の少年と、お前はわしに似ているはずじゃのに、むさ苦しさ倍増じゃ‼父に可愛い嫁を‼見せてくれ‼いつまでもこの家の5人兄弟とじゃれあっとったら、嫁が来んわ‼」
「何言っているんですか‼私は、こちらに勉強と特訓をお願いに来てるんです‼それに、じゃれあうって幼馴染みですから‼何かおかしいんですか?」
憲和が示す。
「そこの統の顔は?」
「統の顔です。5人兄弟全員違う顔ですけど、何か?」
「美貌とか……」
「はぁ?美貌?普通ですよ?な?統」
索の一言に唖然とする。
「お前の美貌の基準って誰だ?」
憲和の言葉に、
「母上と琉璃姉上と、循達の母上の木蘭様です‼」
美的感覚と、今で言うマザコンである。
頭を押さえながら、
「じゃぁ、可愛いのは?」
「滄珠‼それに、統と一緒の祐蘭も可愛いと思います‼」
「で、お前的には、この嬢ちゃんはどうなんだ?」
「へっ?」
索はまじまじと見る。
そして、自分がずっと少女の手を握っていたことに、改めて気がつく。
その行為を思い至った時、顔を真っ赤にした。
そしてたどたどしく、告げた。
「え、えっと、えっと……き、綺麗で、可愛い……です」
「ではどうする?父は、縁談を無理に推し勧めはせんぞ?お前の意思に任せるが?」
混乱する中で思い至ったのはただ一つ。
「自分は構いませんが、彼女の意思を尊重して下さい。よろしくお願いします」
だった。
「よし。解った。と言うことで、馬家の方にご挨拶せねばの。六礼の準備をせねば‼盛大なものにしたいのぉ。では、紅瑩どの」
「えぇ、漢升将軍と縁続き、本当に嬉しゅうございますわ。ホホホ」
と、滄珠の手を引いて去っていく父と紅瑩を見送る。
「索兄さん。おめでとう。咲蘭様もよろしくお願いします」
と言う統の言葉も耳から抜けていったのだった。




