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月亮の輝きを……【破鏡の世に……第二章】  作者: 刹那玻璃
少年たちの成長と恋……。
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《裏番外編》馬仲常さんの本音の本心の裏の裏。

 馬仲常ばちゅうじょうは、実は妻より二つ下の姉さん女房である。




 元々、名家の次男として何不自由なく育ったものの、余り執着するものがなく、書簡さえ与えておけば大人しい性格だった。

 長兄は跡取りとしてあれこれあり、娶った嫁は口うるさく、仲常や家族が集めた書簡にけちをつけるが、実際の所、その書簡を売り払い自分の身を飾るようになるにつけ、益々鬱陶しい存在になり、いつか潰れるか、若しくは潰してやる……と考えていた。


 しかしその時ではないだろうと、ほったらかしつつ見張っていた丁度その頃、父と兄に呼び出された。


「あのな……お前に、見合い話が舞い込んだ」

「はぁ……そうですか」

「ハァって、良いのか‼」

「と言うか、私は体が弱いので、結婚しなくてもいいかなぁと思っていましたので、逆に嫁が来ると言うのはビックリです」


 正直に答える。

 ちなみに、病弱と言うのは半分。

 本当は、かなりのボケとのんきな性格、方向音痴でどこに行くか解らない上に、その性格で因縁をつけられ、誘拐され……と言う具合なので、両親と兄は病弱と言うことにして、書庫に押し込めていたのである。


「で、どこの有力なお嬢さんですか~?」

「有力なのは後見人。本人は徐州から叔父と兄弟と逃れてきた下級役人のお嬢さんで、姓は諸葛しょかつ。年がお前よりも二つ上だ」

「年子の妹さんと二人でかなりの武勇伝を残しているらしくて……最初はお前に言う前にお断りをしたのだが、後見人の方がどうしてもと」


 父と兄が交互に告げ、仲常は、


「後見人よりも、諸葛家……西漢(前漢)の時代の忠臣の一族ですね。ほわぁ……そう言えば、私より3才下の孔明こうめいと言う少年が、水鏡老師の塾に入ったとか。彼のお姉さんですか~‼それはお会いしたい‼会いに行ってきます‼」

季常きじょうが会いに行った」

「普通のどこにでもいる少年だそうだ」


二人の言葉に、少しムッとする。


 年の離れた弟は頭はいいが、自分の賢さを鼻にかけて、自分勝手で何でも思い通りにできると思い上がっている。

 はっきり言って大嫌いである。

 顔には見せないが、将来自滅しやがれ‼とすら思っている。


「只今帰りました」


 帰ってきたのは5人兄弟の真ん中で、下の二人は可愛くないが、唯一可愛がっている妹の球琳きゅうりんである。

 見ると、あちこちに傷の手当てのあとがあり、唯一の娘、妹の惨状に3人は青褪める。


「ど、どうしたんだね?それは‼」

「あ、父上。実は、季常が又、襄陽じょうようの街でツケで怪しい書簡を買い求め、請求書が……お金を支払いに行った所、途中で盗賊に襲われました」

「何だって‼」

「何で、季常自身に払わせにいかなかったの‼」


 仲常は正論を吐く。

 すると、球琳は、


「あの子にお金を持たせると何に使うかわかりませんし、母上は父上と兄上たちにばれないように私が買ったと言いなさいと……」


哀しげに笑う。


 仲常は、実は母が嫌いである。

 小賢しい季常や末っ子の幼常ようじょうばかり可愛がり、妹には家庭を守る為にと言うように、何もかも押し付ける。

 特に季常のしでかした事をすべて揉み消し、逆に球琳がやったことにして、家族の前で責めたりすることも多かった。

 義理の姉と同様で、名家の出身として気位が高くそれを鼻にかける母が嫌いで、余計に嫁に期待してなかったのである。


 球琳は、ニコッと笑顔になる。


「父上、兄上‼助けて頂いた方々です。帰りも危険だろうと、送って下さいました‼」


 後ろに立っていたのは瓜二つの少年二人と、ひょろっとした少年。

 一人は肩に強弓、矢を収める筒を背負い、もう一人は軽装だが、拳には布を巻き付けている。

 ひょろひょろの少年は、本当にガリガリに痩せているのだが、仲常よりも背が高く顔立ちは整っている。


「申し訳ございません。このような姿で失礼いたします。私は徐州泰山郡じょしゅうたいざんぐんの生まれの諸葛孔明しょかつこうめいと申します。丁度、姉たちが狩りをしておりました所、お嬢さんが襲われている所を目撃して、お助けしたものです。このような時に女の子が馬で一人と言うのも危険だと思いまして、お送りした次第です。弓を背負っているのが上の姉、紅瑩と、もう一人が下の姉、晶瑩しょうえいと申します」


 長身の少年の言葉に、父と兄は呆気に取られる。

 先程の話題の家ではないか……。


「このような姿で失礼致します。諸葛紅瑩と申します。お嬢さんと、お嬢さんを襲う輩に出会いましたの。ですが、この様な所で失礼ですが、どうして、この孔明よりも幼い球琳ちゃんが、一人で馬に乗っておりましたのでしょうか?」

「晶瑩と申します。私たちと然程変わらぬお兄様もおられますのに……それに、弟どののしでかした不始末の尻拭いを、妹さんに押し付けたそうではありませんか‼」

「姉上、姉上……初めてのお屋敷で、それは失礼だよ」

「何をいっているの‼私は、正論を言っているだけ‼」


 止めようとする弟を振り切り、二人は前に進む。


「ごめんなさい‼僕が、体が弱くて……」


 飛び出してきたのは、仲常の気にくわない季常。

 可愛らしい少年を演じる様に、内心又か……これで、周囲は許す、と思っていると、紅瑩が、


「貴方が弟君ね?こちらに来て頂戴」


自分の前を示す。

 とことこ出てきた季常は、可愛らしく首を傾げる。

 それをじっと見下ろした紅瑩は、


「そこで、足を踏ん張って立ってなさい‼」


と言うなり、手を大きく振り、季常の頬に叩きつけた。

 唖然とする家族の横で、孔明が、


「あぁ……姉上たちは女の子……球琳が本当に気に入っちゃったから……」


と呟く。

 よろよろとよろけた季常に、晶瑩ももう片方も叩く。


「お姉さん……球琳は、大の男数人に襲われてたわ‼一人でどれだけ怖かったと思うの‼」

「見てみなさい‼球琳の傷を‼」


 腕を引っ張り、姉の前に立たせる。

 球琳は頬を殴られただけでなく、棒で腕を殴られ、馬から突き落とされた衝撃で背中を強く打っていた。

 その為青い顔をして、よろけたのを孔明が支えている。


「全身傷だらけのお姉さんに、言うことはないの‼」

「ちゃんと謝りなさい‼」

「あの~?あそこの店で前に一番高額で売られていた書簡ですが、あれ偽物です。本物は昔、兄が洛陽らくように遊学に行った際に書き写して、それは今、確かつてを頼って江東に逃げていますのでその馬車にありました。私は読んだことがあったので、偽物だと解っていたのですが……買いませんでしたか?君」


 孔明の言った題名に、季常は蒼白になる。


「あれは偽物です。見せて貰いましたが意味が通らず、文章も曖昧、文字も誤字脱字が多かったです。他の書簡の文面も写していましたので、完全に偽物だと思います。私が球琳どのと一緒に行って、ごねる店主から球琳どのの怪我の治療費と、今まで騙していた人への謝罪に返金を要求しておきました。でも、騙されるんですねぇ……あそこの商品ほぼ全て偽物ですよ。逆に安いものが数本あって、確認すると本物でしたので、その場で値切って買っちゃったんですよ。ありがとうございます。探していたので嬉しいです」


 嫌みではない……本人は、ホクホクしている辺り、本当に探していた本らしい。

 しかし、頬を腫らした季常はムカッとしたらしい。

 それに気がついた孔明は、球琳の頭を撫で、


「人を利用するなら、その人への見返りを……お返しを考えるべきだよ?お礼でも気持ちでも。それもせずに、お姉さんである球琳をこきつかって……お姉さんを何だと思ってるんだい?人をこけにするなら、自分がされてどう思うか考えてからにしろ‼」


圧し殺してはいるものの、仲常には余り感じたことのない殺気らしきものが広がる。


「自分が偉いと思うなら、勝手に思うがいい‼だが、本当に偉いのは、自分は賢いんだと自慢する人間ではなく、影でそれを支える存在‼その存在がいてこそ自分は生きられるのだと思い知れ‼」


 言い放つと、季常を無視し、


「申し訳ございません。あの、突然の訪問の上に……。それと、球琳どのが手当てはしたのですが、余り調子が良くないようです。お部屋に……」

「あ、申し訳ない。従者を……」


兄の伯常はくじょうが近づく。


「いえ、私が抱き上げてお連れします。本当は数日お休みさせておくべきでした。無理をさせてしまいまして……」

「では、こちらに」


と、球琳を抱き上げた孔明が歩き出す。

 仲常の横を通り抜ける時、球琳は我慢していたらしく、目を閉じ意識を失っていた。


「季常や?」

「僕は悪くありません‼姉上が、そんな輩に出会うなんて思いませんでした‼」

「でも買ったのは貴方でしょ?」

「しかも偽物……ウフフフ……あの子は小さい頃から書簡を読んでいたから、鑑定できるのよ。16だけど」


 二人はにやっと笑う。


「さぁ、家の中に偽物いくつあるのかしら。楽しみだわ‼」

「弟の部屋の書簡は触ってないので解りませんが、屋敷の書庫は全部読みました。正規の書簡の写しですので大丈夫かと思います」


 仲常は声をかける。


「それよりも、孔明殿、紅瑩様に晶瑩様……本当に本当に、妹を助けて頂いてありがとうございます‼あの子は本当に優しい子で……体だけでなく心にも傷が……」


 本気で涙をこぼす。


「私が行っていたら……迷子になって、何もない所で転んで怪我をしたり、誘拐されたりで、球琳に迷惑ばかりかけて……」

「えっと……球琳ちゃんのお兄さん。球琳ちゃんは一杯いい子だから、お兄さんたちの事を自慢してましたよ」

「ドジでボケで、間が抜けていると、あの季常にもバカにされる兄で……」

「直しましょう‼」

「いや、本気でこれは転ぶと骨を折るか、どこかに行くと道に迷い、屋敷の中ですら歩けないのだよ」


 馬家の当主が必死に答える。


「前には屋敷の中を抜けて、6日余り行方不明になって……見つけた時には、数百里先とか……。悪い子ではないのだが、性格も温厚でとろくさいが、賢くいい子なんだよ‼」

「はぁ、そうですね……あら、そう言えば、球琳ちゃんに私より二つ下って伺ったわ。上のお兄さんは3つ上」

「そうそう。一つ下……でも球琳ちゃんに似てて優しい人ね。りょうは絶対に喜びそうだわ。勉強教えて下さい‼って」

「私の勉強は机の上の物ですから、孔明殿程ではありません。方向音痴でなければ、塾に通いたかったです」


 しょげる少年の頭を撫で、


「亮とお友達になればいいのよ。馬家の書庫は本当に宝の宝庫なんだもの。喜ぶわ」

「でも、紅瑩様も晶瑩様も会えないでしょう?」

「大丈夫大丈夫。弟の友人の家に、球琳ちゃんに会いに来るもの‼」

「そうそう」

「と言うか、お嫁に行っちゃうじゃないですか‼」


 がしっ‼


紅瑩の手をつかむと、


「紅瑩様‼年下ですが、私と結婚して下さい‼私は方向音痴で、世間を知らないので色々教えて下さい‼」

「わぁぁ‼ど、どう言うこと‼」

「キャァァ‼お姉さま求婚されてる‼」

「ちょ、よく解らないんだけど⁉結婚って……」


ぐるぐるする紅瑩の後ろから、戻ってきた孔明が、


「姉上?ちゃんと聞いてなかったんですか?この仲常兄上が姉上の許嫁ですよ?姉上はここに嫁ぐんですよ。兄上になる仲常兄上と仲良くして下さいね?」

「うっそぉ~‼聞いてない聞いてない‼それに2才上よ‼私‼その上、ここってどう見ても名家じゃない‼それにあの可愛いげのないガキを、ぶん殴っちゃったわよぉぉ‼」

「あれ、良かったですよ‼私も、可愛い球琳にあんな目に遭わせた季常を叩きたかったんですが、一歩動くと何かが起こるので……」

「いやぁぁ‼天変地異が起こるみたいに言わないでよ‼」


紅瑩は叫ぶ。


 しかし、紅瑩のあの潔さに啖呵たんかを気に入った馬家の当主は、当主側からわざわざ紹介者の黄承彦こうしょうげんに承諾の使いを送り、結婚したのだった。




「いやぁぁ‼この年で‼この年で‼」

「良いじゃない。なんか、ここって亮の屋敷の離れだっていってたけど、こっちの方が綺麗?」


 キョロキョロとする仲常に、父親と共に出張中の長男の金剛ダイヤモンドと大怪我をして静養中のこう以外の3人が、


「ここは、元々あちら側だけだったんです。で、金剛兄さんと、兄さんの叔母夫婦に当たる龐令明ほうれいめい殿ご夫婦が来られて、おじさんたちが住んでいたんです」

「で、おじさんたちの位が上がると屋敷を頂いたので出ていって、今度、金剛お兄ちゃんが結婚したらここの家に住んで欲しいなって」


じゅんきょうは笑う。


「でも、まだまだなので、叔母さんも叔父さんもお兄さんたちも気軽に住んで下さいって」


 とうは頬笑む。


「そうだねぇ。安定期まではいようね。私!一人で帰れません‼」


 言いきった仲常に、紅瑩はため息をつくのだった。

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