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月亮の輝きを……【破鏡の世に……第二章】  作者: 刹那玻璃
成長した子供達のそれぞれの日々(*´-`)
18/84

梅花ちゃんの破壊力に圧倒されている士元さんです。

 こうにより、馬車に引き返した士元しげんは、見えない目で必死に、


「やめろ‼広‼俺は軍師‼参謀だ‼皆の元に‼」

「治療先‼ほら、梅花メイファ姉ちゃん‼士元おっちゃんが怪我したんだ‼」

「士元さま?はい、こっちにお願いしまーす‼」


戦場とはそぐわぬ気の抜けるような声に、『梅花』の名前を士元は悟り、


糜子仲びしちゅうどののご令嬢じゃねえか‼な、何であんたのようなお嬢ちゃんが‼」

「大丈夫だよ~?おっちゃん。姉ちゃん、俺の強弓の師匠だから安全安全‼はい、おっちゃんよろしく‼俺も行ってきます‼」

「行ってらっしゃい‼気を付けて仕留めてきてね‼」

「はーい‼戦場の後で食料調達してきまーす‼」


二人の会話と出血に、気が遠くなった士元はよろめくが、誰かに担がれる。

 周囲の護衛だと思いきや、


「あらぁ……叔父様、お父様よりも痩せてますよ~?筋肉つけないと駄目ですよ?」


耳の横で聞こえた声に、


「か、かつ……‼」

「これ位軽いですよ~‼だって叔父様。私は、父様直伝の強弓使いですもの‼他は不器用でも、勉強と強弓の特訓は欠かしたことはありません‼それより怪力なので、医師にお願いしまーす‼」


 そりゃ怪力だ……、でかくはないが大の男を担いでけろっとしているお嬢様など、自分の嫁や、均の嫁の玉音ぎょくおん位だろう。

 ちなみに琉璃りゅうりは、痩せすぎで重いものは武器まで、何とか現在の三男のきょうは支えられるが担ぐのは無理である。


「それにしても……嫁に会いてぇなぁ……」


と、弱音を漏らす。

 最近忙しい士元は、子育てに、親族とこれからについて話し合う妻の球琳きゅうりんとはすれ違いが多い。

 特にお転婆ではなく、何故かどちらに似たのかおっとりとしていて可愛らしいが、ドジで同時に転んでは泣く二人の娘に、口が達者でムカつく息子と言う3人の子育てに関われないのが辛い。

 娘たちは本当に‼顔は球琳に似て可愛らしい上に、無邪気に、


「「お父様~‼」」


と甘えてくるのが可愛くて仕方がなく、逆に、可愛いげのない息子のこうを、いかにして舌戦で黙らせるか、いたずらを考えて実行し、姉たちを泣かせるのを叱りつけるより、今度こそ孔明に投げてやると思っていたと言うのに……。


琳瓊りんけい玉葉ぎょくように顔を忘れられたら困る‼宏は、構わん‼」

「何、言っているんだ?お前は?」


 耳元で聞こえる声に、はっとする。

 この、口調はきついが、安堵感を与えてくれる……自分だけに……声は……。


「……きゅ、球琳……?」


確かめるように問いかける。


「私だが?悪いか?琉璃が良かったか?玉音や、益徳えきとく将軍や、奥方の……」

「いや、他は遠慮する。あ、えーと、嫌いではないぞ‼妹よりも嫁が良い‼」

「……本当に、馬鹿か‼」


 涙声と共に降り注ぐのは温かい滴……。


「……大丈夫とは……いいがてぇ。すまん。お前の顔が見えなくなっちまった……それに、見えねえと戦場を見通せねぇ……ははは……。空をかける竜と対に呼ばれた鳳雛ほうすうが、目が見えねえとはな……」

「治してみせる‼私が‼絶対に‼」

「無理だろ……さっき、簡単に見て貰った」


 妻の膝に頭をのせているらしく、丁寧に目を覆う布が外され、はっとする息に苦笑する。


「な?無理だろう?」

「あーのー?叔父様?」


 気の抜けた声に、


「えっと、嬢ちゃんは……」

「その目片方なら治りますよ。確かに、片目は完全に失明すると思いますが、見て下さい」


痛みと共に、まぶたが開かれうっすらと見える。


「み、える?」

「骨に当たっただけです。でも、上のまぶたが斬れてますので、その治療をしてしばらく静養したらどうでしょう?」


 ぽややんと笑う少女。


「確か、西域には珍しいものがあると聞きます。叔父様、お姉さま。私は、金剛ダイヤモンドお兄様と、孔明こうめいさまと漢中に向かうのです。そちらには……」

「……金剛のオヤジがいるよな?いっつぅぅ‼」

「こちらで出来うるだけの治療をして、叔父様も向かいましょう」

「だ、だが……俺は参謀だ‼」


 叫ぶ。


「戦場を去るのは死ぬ時だ‼」

「ならば、死ね‼」


 妻の声に息を飲む。

 その気迫にその凄みに……哀しげな滴……。


「お前は、戦場で一度死んだことにすれば良い‼お前は戦場で死に、戦いから一旦身を引く。目を癒して、そして生まれ変わって戦場に戻れ‼その目を‼お前の体を傷つけた人間の命を奪う為に、お前は孔明兄上と違い、まだ『鳳雛』なのだろう?一旦巣に戻り、もう一度鳳凰として飛び立てば良い‼違うか?」

「……球琳……」

「お願いだから……まずは体を癒してくれ。お願いだから、お願いだから……。孔明兄上に伺った時には本当に、死んでしまうのではないかと……」


 声が震え、涙が降る。


「……す、すまん……すまん。球琳……。お前のことを考えず……すまん……最低の亭主だ」

「その上、ダメオヤジもつけてやろう。琳瓊、玉葉、宏。出てきなさい」


 ゴゾゴゾと物音がする。


「お、おとうさぁぁん‼」

「しんじゃやだぁぁ‼」

「もう死んでる」


 最後の一言に、


「宏‼勝手に父親を殺すな‼俺は死なん‼琳瓊、玉葉を可愛がるのと、宏のそのひねくれた性格を何とかしてやるわ‼」

「父上に似てますので、ご自分からどうぞ?」


 殴るか?


一瞬本気で思ったが、その前に凄まじい、


 ボコ‼


の音に、つい、


「おい、お前がやったのか?球琳?」

「いや。この馬車に無理を言って子供たちを乗せて頂いた時に、余りにも横柄な態度の宏を叱ろうとしたら、豪快に投げてくれたのだ。梅花どのが。で」

「必死に国の民のために戦い、大怪我を負われたお父様に、お父様に対しての言葉ではありません‼教育的指導ですの‼」


再び、同様の音がして、


「宏ちゃん?貴方は、お父様のように戦いに赴いてませんよね?その時点で、お父様と比べる?恥を知りましょう‼良いですか?次に失礼を言ったら、孔明様のお家の広くんに教えている、強弓を共にお教えしますね」


ぶっとんだらしく、どこかにぶつかって声がない。

 気絶したらしい。

 唖然とし、言葉もない士元に、悟りきった球琳は、


「あれでも梅花どのは遊んでいるらしいんだ。孔明兄上の所のきょう以外の4人と、武器対決に力自慢と日々めきめきと実力を増しているそうだ。その上、昔から喬とは学問仲間で賢い方だ。ただ……私には解らない、怪力だ……しかし、それを見て」

「お姉さまスゴーイ‼」

「もっとやって~‼」


娘たちがはしゃぎ、


「あ、後でグルグル‼」

「それに、だっこでブーンも‼」

「良いですよ~?二人とも、良い子でじっとしていたので、後で安全な所で遊びましょうね?」


の声に、士元は、冷静沈着上司である子仲が、娘をどんな風に育てたのか聞いてみたくなったのだった。

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