高位精霊
受付を通り中に入ってみるとなかなか広大な敷地があり見渡す限りだと、訓練場、息抜きの為にスポーツのできる運動場などが多く見えた。
「なかなか、広いんだな」
俺が独り言をつぶやくと返答が帰ってきた。
「そりゃあ、当然だろ。魔眼使いを育てる為の施設なんだから、そこそこでかくないとすぐに施設が埋まっちまうからな」
「へー、そういえば、というか今更だけどお前って名前なんだっけ?」
「ん、そういえば言ってなかったな。俺の名前はグライヤ・アルマードだ。1週間ほどよろしくな」
「ありゃ、止めないのか?」
「止められないだろ。高位精霊の助力があったんじゃこっちはお手上げだし。わざわざ追いかけて捕まえるメリットが少ないしな」
「そうなんだ」
ニーナが、そう呟いた。
「当たり前だ。わざわざ高位精霊に向かっていくリスクが1つ、捕まえるのに人員がいるためこの施設の警備が手薄になって他の脱走者が出たなんてなったら目も当てられないしな」
「じゃあ、私達の脱走は誰も邪魔しないの?」
「いや、そうでもないぞ。この収容所はなるべく魔眼嫌いが監視官に選ばれることは少ないが、たまに左遷とかで送られてくるからそういう奴らは邪魔してくるだろうな」
「じゃあ、そいつらさえボコ……ゲフン、黙らせれば容易に抜けられるってことだね」
「いや、ボコらないぞ。転移で出そうするからボコる必要も黙らせる必要もないから」
「それなら安心。そんな奴らの血で刀を汚したくないから」
うおっ、斬る気満々じゃないですか、止めて置いてマジでよかったー
まあ、とりあえずここにいる間は他の魔眼使いの観察と冒険者になる方法なんかを調べておこう。
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「着いたぞ。ここがお前たちの居住スペースだ」
少し歩き入った建物の中に着いた。
「居住スペースって言ったけど一部屋しかないぞ」
「大丈夫だろ。どうせまだ6歳なんだし」
「そうは言っても」
「1週間ぐらいなんだ。少しは聞き分けろ」
く、こうなればニーナを味方につけるしかない
「ニーナは嫌だよな、俺と同室なんて」
「嫌じゃない」
「なら、それでいいじゃねえか、どうせ1週間なんだし」
これを説得するのは……無理だな。諦めよう。
「まあ、それなら仕方ないし諦めるか」
「それならとっとと部屋に入って支度しろ。今日は無いが明日からは訓練や一般常識の授業があるんだからな」
「分かった。それと今日の夕食はどこで取ればいいんだ?」
「飯は朝昼夜全部部屋に届くから部屋で取れ」
「ああ、分かった。じゃあ、ニーナ行くぞ」
「うん、分かった」
俺たちは部屋に入り身支度を始めた。
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よし、俺の方は終わったな。ニーナの方はどうだ?ありゃ全然終わってないな。手伝うか
「ニーナ、俺の方は終わったから手伝うぞ」
「うん、お願い」
それからはペースも上がり直ぐに身支度も終わった。
「ナイト、脱走ってどうやってやるの?」
ああ、まだ説明してなかったな。でも口頭で言って誰かに聞かれたら面倒だな。〈念話眼〉を使うか
『ニーナ、聞こえるか?』
「頭の中に声が聞こえる?ナイト、これ何?」
『〈念話眼〉っていって話したい相手の事を想いながら言いたい事を考えれば脳内で会話ができる魔眼だよ』
『えっとこんな感じで聞こえる?』
『ああ、聞こえるぞ。じゃあ脱走計画を言うぞ。と言ってもニーナがやることは無いんだけどな』
『どういう事?』
『俺が持っている魔眼の中に〈転移眼〉ってのがあってな視界内にある物を1度見た場所に転移させられる魔眼を使って帝国付近に転移するからやる事は殆ど無い』
『じゃあ、高位精霊の助力っていうのは嘘なの?』
少し悲しげな表情をしてこっちを見てきている。あれ、高位精霊を見たかったのかな。
『もしかして高位精霊が見たかったのか?』
『別にそんな事は無い』
ああ、また悲しげな表情をしてる。
『高位精霊に会えるけど会いたい?』
すると、たちまちニーナの表情が明るくなった。
「本当に!!」
嬉しかったのか念話では無く普通に話しかけてきた。というか別にわざわざ念話を使う必要ももう無いか
「ああ、妹が高位精霊と契約しているから言えば会えると思うけど」
「本当に会えるの!」
「ああ、ちょっと待ってくれ」
俺は氷麗に念話をする
『氷麗、今大丈夫か?』
『大丈夫だけど、何?』
『魔眼収容所に送られるまでの馬車の中で仲良くなって一緒に脱走する奴が高位精霊を見たいって言うからこっちに来て欲しいんだけど』
『別にいいけどここからだと時間がかかるよ』
『それなら俺が〈転移眼〉を使うから時間はかからない』
『そういう事なら別にいいよ。どうせ暇だし』
『じゃあ、今から〈転移眼〉を使うから待っててくれ』
『うん、わかったよ』
「ニーナ、来てくれるみたいだぞ」
俺はニーナの方に振り返りそう言った。
「本当!!」
「ああ、だからもう少し待ってくれ」
俺はそう言い〈精霊の眼〉を使い氷麗を見て〈転移眼〉を使い氷麗をこちらに転移させる。
「転移は久しぶりだけどなかなか慣れないね」
「やっぱり氷麗は転移をした事があったのか」
「うん、とは言っても数十年前だけどね」
「数十年前か、その時も〈転移眼〉で転移したのか?」
「いやその時は魔法だよ」
「へえー、そんな魔法があるのか?」
「あるよ。でもその話は後にしない。そこで置いてけぼりくらってる子が僕に会いたがっていた子でしょ」
「ああ、そうだよ」
そう俺が言うと氷麗はニーナの方に向かっていった。
「やあ、僕の名前はフリージスト・アイス、名前通り氷の高位精霊をやってるよ。君の名前はなんていうのかな?」
「わ、私の名前はニーナって言います」
あれニーナかなり緊張してるな。そういえばこの世界で高位精霊ってどんな扱いなのか俺知らないな。
「ニーナちゃん堅いよ。別に無理して敬語なんて使わなくていいよ」
「分かりました」
「だから堅いって、君はナイトの友達なんでしょ。それなら私とも友達だからタメ口でいいよ」
「えっと、分かった。それと1つ質問いい?」
「うん、いいよ」
「ならなんでナイトはあなたの事を氷麗って呼んでるの?」
「ああ、それを説明するには少し長くなるけどいい?」
「大丈夫、今日は暇だから」
「なら、説明するよ。僕はね元々人間だったんだよ。今からだいたい600年ほど前まではね」
「もしかして禁呪を使ったの?」
「うん、禁呪〈聖夜の呪〉対象に指定したありとあらゆる対象を殺害する代わりに自身を精霊と化す禁呪だよ」
「でもその禁呪で高位精霊になれるなんて聞いたことないよ」
「それは使用者の実力次第だよ」
「そうなんだ」
ニーナはその答えで納得しているがおそらく違うだろう。
「氷麗、高位精霊になれるかどうかは実力うんぬんじゃなくて転生者であるかじゃないのか?」
俺は小声で氷麗に尋ねた。
「多分そうだよ。僕よりも強い人がやったけど高位精霊には慣れてなかったから、おそらく魂のなんかがあるんだろうね」
やっぱりか、本当に転生者って何なんだろうか?100年に2人ずつって事くらいしか分かってないし。まあ、いつか分かるだろうし今はいいか。
「それで人間だった時の名前が氷麗って言うの?」
「うん、そうだよ。人間だった頃は風音氷麗ちなみに氷麗が名前で風音が姓だよ」
「えっと、じゃあ私も氷麗って呼んでいいかな?」
「もちろん」
「ありがとう、氷麗」
2人ともすぐに仲良くなったな。ああ、そういえばまだ高位精霊のこと聞いてないな。
「そうだ氷麗、高位精霊ってこの世界でどんな扱いなんだ」
俺がそんな質問をすると怪訝そうな顔してニーナが尋ねてきた
「そんな事も知らないの?」
「ああ、知らん」
「絵本とかに結構書いてあるんだけど」
「小さい頃はあんま絵本とか読まなかったから知らないんだよ」
すると氷麗が答えてくれた。
「うーん、そうだね。一言で言えば天災かな。高位精霊を怒らせたらその地一帯で魔法が使えなくなる」
「なんでだ?」
「魔法って言うのは魔力と周りに精霊がいて初めて成立するんだよ。だから高位精霊を怒らせるとその地一帯の精霊が居なくなって魔法が使えなくなる」
「へえーじゃあ、なんでニーナは会いたかったんだ?」
「高位精霊が天災として見られる事もあるけどその逆で救世主として見られる事もあるの。そういう本を読んで1度会ってみたかったから」
「救世主として見られる時は色々な時があるけどその高位精霊が特定の人間を気に入った時にその人間に力を貸したりして戦争に勝利する時なんかがそれに当たるよ」
「日本の神に似てるな」
「まあ、そうだね。日本の神は構ってもらわないと祟りなんかの天災を起こしたりするけど時として大地に恵みを与えたりするしね」
「日本?神?なんの話をしているの?」
ニーナが不思議そうに首を捻りながらこちらに尋ねてくる。
「ごめん、今はまだ話せない」
さすがに日本の話は転生の事を話さないといけなくなるから話せないな。
「そう、じゃあ話してくれるまで待つからいつか話してね」
「ああ、分かった」
まあ、いつか妹達にも話さないとな。
「それで僕は手伝わなくてもいいんだよね?」
「ああ、どうせ〈転移眼〉で一発だし」
「それなら僕は戻るよ」
「もう、帰っちゃうの?」
「うん、契約者が待ってるからね」
「また、会える?」
「会えるぞ。遅くても3年以内には」
「なんで?」
「ユエ、氷麗の契約者で俺の妹なんだが、ユエも魔法学園に入るからその時には最低でも会える」
「それに僕もたまに帝国の方に出掛けるからその時に会いに行くよ」
「うん、分かった。その時までじゃあね」
「うん、また」
俺は〈転移眼〉を使い氷麗を送る。
「行っちゃったね」
「ああ、そうだな」
ニーナの表情は少し悲しげだがすぐに元に戻った。
「会いたいなら無理しなくても俺が〈転移眼〉を使えばすぐに会えるぞ」
「次に会えるまで待つって決めたからもう大丈夫」
「そうか」
“コンコンコンコン”
「夕飯を持ってきましたからここに置いておきますね」
夕飯が届いたみたいだ。受け取りに行くか。
「俺が取ってくるからニーナはここで待ってろ」
「うん、分かった」
それから俺たちは夕飯を食った後移動の疲れを取るために早めに寝る事にした。
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