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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第四章 指名調査依頼「竜の棲む火山島」編
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裏話 目覚める者

世界のどこかに存在するとある場所。

人から忘れられたその場所で、今一つの影が浮かび上がった。


「…私は…目覚めたのか」


一見して女性のように見えるその影は、とても美しい容姿をしていた。

金色の長髪、白に金糸で飾り付けられた簡素な服。

女性の周りには煌く羽衣が浮き、神秘性を醸し出している。


「…前に起きてから…300年という所かの?」


女性の声を聞く者は誰もいない。

と、思われていた。

ジャリという砂の動く音が背後から聞こえる。


女性が振り向くと、そこに立つ白衣を着た男の姿を認める。

黒髪に眼鏡をかけ、袖の下より覗く手には黒の手袋をしている。

白衣の下は、昔通りであるならやはり黒を纏っているのであろう。


「お主か…まったく、あれから長き年月が経つというのに変わらぬその姿。もはや人の範疇であるまい」

「これはこれは、手厳しい。今回は遅いお目覚めでしたね、裁きの女神よ」

「妾は半神の身。女神と呼ぶでない」


裁きの女神。

この世界にある伝説の一つ。


自在に動く羽衣で人を縛り、左手に持つ天秤で人の罪を測り、右手によって罰を与える。

美しき姿をしたその女神は、騒乱の世に現れるという。


「して、遅い目覚めと申したな?何ぞあったかえ?」

「ええ。既に色々と。どうやら魔神が目覚めようとしているようで」

「難儀のことよな」


女性はそう呟きため息をつく。

そのあまりに人らしい仕草に、男は思わず笑みを浮かべた。

その笑みを見咎め、眉を不機嫌そうに歪めながらも、女性はそのことに触れず話を続ける。


「お主は此度どのように動く?」

「さて。その時になってみねばわかりませぬな。私がここに来たのは、女神に挨拶をしようと思っただけのこと」

「それだけの理由でこのような世界の果てまで来る者がいるなど、妾は信じたくなかったよ。まぁよい。お主が変なのは昔からじゃ」


男の言葉に、さすがの女性も呆れる他ない。


本来、人がここに来るには相当な苦労が必要だ。

その苦労をした所で辿り着ける保証はないのだ。


にも関わらず、男の白衣には汚れ一つ付いておらず、乱れた様子もない。

通常ならば有り得ないと切って捨てる言い分を、飲んでしまう程にこの男は異常であった。


これで本人はまだ人のつもりでいるというから恐れ入る。

半神の自分から見ても、十分化物の部類に入るというのに。


思えば出会った当初。

この人間がまだ老いを知る只人であった時から、この男は変だった。


半神たる自分に表面では敬意を表しておきながら、その実内面で何を考えているかは全く悟らせない。

今ここにいる理由とて、先ほどの言葉が全て真実であるとは感じなかったが、さりとて真たる理由はわからない。


不明。

この男に対する自分の見立ては、今も昔も、そしてこれからもそうであるのだろう。


悪ではないが、かと言って善であるとも言えぬ。

もし自分がこの男を裁かねばならなくなったとき、果たして裁くことはできるのか。


神より力を授かり、人を裁く使命を与えられ、今まで何千、何万と人に罰を与えてきた自分が、この男だけはどう裁けばいいか見当も付かない。

故に、できればそもそも関わりたくもない存在であるのだが、どうやらこの男は世界の流れの中心を、その傍で眺めることを好んでいるようなのだ。


それはまるで自分のようだ。


男もそう思って、自分に接触してきているのかもしれない。


「まぁよい。妾が眠っておった間のことを聞かせよ」

「仰せのままに、我が君」


白々しく礼をして見せる男に、女性はもう何度目かわからぬため息をつく。


あるいは自分をこうして疲れさせることが、この男の目的なのかもしれなかった。

それをして、錬金術師と名乗るこの変人に、何か益があるとも思えぬが。

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