第79ページ 邂逅
『我を起こしたのは誰ぞ?』
音のない海底に響く声。
それは、凛としたバリトンボイスで、一切の感情を感じさせない。
その声を聞いたとき、俺は本能的な恐怖を抱いた。
背筋が冷たくなる。
『応えよ。我を起こしたのは其方らか?』
この声に応えてはならない。
警鐘が鳴り響くが、意思に反して口が開く。
「違う」
応えた瞬間。
その場の空気が変わったのがわかる。
感じていた寒気が消え、動かしにくかった身体に自由が戻る。
魔神の姿は、俺と同じか、少し高い程度の人型で。
その輪郭だけが反映されているらしく、顔の判別はできない。
『…其方、その刀で我を斬るか?』
「そのつもりだ」
口が勝手に動く。
声を紡ぐ。
虚偽を述べることは許さないというように。
『面白い。たかが人が我を殺めようというか』
面白いという割に、その声に感情は宿らない。
あるのはただ冷たさだけだ。
『何故?』
「…」
『何故、其方は我を斬る?我が其方に何をした?他者の言に従うだけの愚か者め』
声に侮蔑の色が混じる。
だが、その言葉を聞いたとき、俺にも感情が浮かんでいた。
「違う」
『ほう?何が違う?他神から言われたのではないか?我を滅ぼせと』
「関係ない」
『関係ない?』
「俺がお前を斬る理由は…お前が気に入らないからだ」
何をした、だと?
俺の魔力を、竜たちの魔力を奪ったではないか。
仔竜は死にそうになっていたというのに。
何をした?
こいつは、斬らねばならない。
俺とこいつが、相容れることはない。
確かに、今まで流されていた感は否定できない。
アキホの町で心臓を斬れ、と言われた時は、何故俺がと思いながらもどこかで使命感のようなものが生まれていた気がする。
それが俺の持つ元々の感情ではないと知りつつも、アキホを守る、ひいてはこの世界を守ることは俺の意思でもあった。
故に、それは良しとした。
しかし、今。
確かに体の内、心の奥底から浮かび上がる感情。
怒り。
俺の美学に反する者との敵対的感情。
本能が恐怖を告げる。
だが、それ以上に、こいつは敵だと叫ぶ。
『感情だけで神を殺すと申すか、面白い。さすがは愚かな人よ』
「何?」
『人のなんと愚かなことよ。知っておるか、人よ。理由なく同種を殺めるのは人と猿だけだということを。なんと危険な生き物か。その欲により人は、人を殺めるのだ』
「…」
『人は滅びるべきではないか?自らを頂点と考える傲慢。他者から奪うことを止めれぬ強欲。なんと罪深き生き物よ』
反論はできない。
人同士であっても、いや、同じ人だからこそ、その罪深さはわかる。
考えたこともある。
地球での人なんて、いない方が自然の為になるのではないだろうか?
森を壊し、生物を殺し、生態系を狂わせ、空気を汚し、害を撒き散らすだけの存在ではないだろうか。
だがそれでも、全ての人がそうだとは言えない。
人が持つのは破壊の能力だけではない。
何よりも…
「お前が破壊するのは人だけではないだろう、破壊神?」
聞かされている。
だが、それ以上に、こいつの破壊は人の範疇には収まらないと直感が告げている。
『左様。この世界ごと、一度壊してしまえばいい。何、創造神がおる、創り直せばよいだけだ』
破壊の上の創造。
この神からすれば容易いことなのかもしれない。
パソコンのデータを一度消去するのと同じだ。
そこに新しいデータを上書きする。
データの気持ちなど考えはしない。
この場合のデータ。
この世界に生きる者たちの意思など、考えられてはいない。
「そんなことはさせない。この世界に、俺はまだ用がある」
世界を全て見るまでは。
この世界を壊させたりしない。
「お前は俺が斬る」
『できるものならな。斬れなかったのであろう?』
魔神の視線が、神刀へと向けられる。
「確かに、斬れなかった」
そう、斬れなかった。
それは事実だ。
しかし、まだ試していない。
「さっきはな。『断ち斬れ』、神刀・天羽々斬」
神刀本来の力を解放させる。
解合を唱えると、魔力が一気に吸われ、更に生命力も吸い上げられる。
刀身が輝き、不可視の刃が伸びる感覚がある。
それは魔力とも、生命力とも言えぬ力を宿す刃。
神刀本来の姿。
神々しく光を放つ、竜殺しの剣。
『くっくっ、面白い。実に面白い。人でありながら神力を操るか。そうか、其方は人間か。こことは異なる世界より来た憎きイレギュラー。我を封印したあやつ等と同じ』
まるで無くしていた感情を取り戻したかのように、今の魔神は声に感情がある。
「そうだ。おそらく異世界人ってのはそういう宿命なんだろうな。俺は平穏に生きたいのだが」
『それ程の力を持ちながらか。よかろう人間。其方を我が敵と定めよう。あがくがいい。そして己の小ささを知るがよい』
「お前は既に俺の敵だ。見つけ次第容赦なく斬る。これは一つめだ」
『我は我にして我に非ず。他の我は我のように容易く斬られはせぬ。精々励むがいいわ』
「ご忠告どうも。じゃあな、破壊神」
『くくくっ、誠に愚かで面白き生物よな、人間』
神刀を振る。
竜を斬り、空間を断ち、神にも届く刃。
その力を存分に乗せ、魔神の身体を斬る。
先程とは違い、神刀はその切れ味を存分に発揮した。
刃が通る。
一瞬の輝きの後、辺りには静寂だけが残った。
そこで俺は、意識を失った。
黒葉周 17歳 男
冒険者ランク:B
HP:11000(500up)
MP:10450(2000up)
魔法属性:全
<スキル>
格闘術、剣術、槍術、棒術、弓術、刀術、棍術
基本六魔法、氷属性魔法、空間属性魔法、無属性魔法、神聖魔法、暗黒魔法、魔法陣術、召喚術
馬術、身体強化、魔力制御、完全回復、天足、覇気、看破、隠形、危機察知、魅了、罠解除、指揮
耐魅了、耐誘惑、耐幻惑、恒温体
礼儀作法、料理、舞踊、水中行動
<ユニークスキル>
天衣模倣、完全なる完結、全知眼、識図展開、天の声
<称号>
「知を盗む者」、「異世界からの来訪者」、「武を極めし者」、「すべてを視る者」、「竜殺し」、「下克上」、「解体人」、「誘惑を乗り越えし者」、「美学に殉ず者」、「魔の源を納めし者」、「全能へと至る者」、「人馬一体」、「無比なる測量士」、「翼無き飛行者」、「竜の友」、「神掛」(new)「破壊神の敵」(new)
<加護>
「創造神の期待」、「戦と武を司る神の加護」、「知と魔を司る神の期待」、「生と娯楽を司る神の加護」、「鍛冶と酒の神の加護」、「炎竜王の加護」、「大海と天候の神の加護」




