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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第四章 指名調査依頼「竜の棲む火山島」編
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第77ページ 魔力の流れ

「どういうことだ?」

『わからぬ!わからぬが、このままでは危険だ!炎竜王様の元に連れて行かねば!』


火竜は倒れた仔火竜を掴むと、速度を上げ飛んでいく。

俺もアステールに乗り、あとを追う。


紅焔竜のいる(あなぐら)は騒然としていた。

元々控えるようにいた竜たちが顔を付き合わせて相談をしている。


紅焔竜は瞑目し、何かを考えているようだ。

性格は苛烈とあったのだが、丸くなったということなのだろうか?


『我の眷属に手を出すとは…何者かは知らぬがただではおかん』


違った。

かなり怒ってらっしゃる。


『む、そなたか』

「ああ」

『長、この者が何か知っているのでは?』

『この者が来たタイミングでこのようなことが起きたのですから!』


そうきたか。

だが、そんなこと言われても何も知らない。


『お待ちくだされ。この者は先ほど仔竜を発見した際、本気で戸惑っているようでした。関わりはないかと』


庇ってくれたのは、俺の案内役をしてくれていた竜だ。

有難いが、なんでこいつは俺に好意的なのかね?


『ふむ、何か知っておるかね?』

「いや…だが視てもいいか?」


紅焔竜は不思議そうにしながらも横たえられている仔竜を見えやすいようにしてくれた。


俺は全知眼を発動。

魔力を可視化し、精霊や心霊などこの世ならざるモノを視る魔眼スキル「顕象眼(けんしょうがん)」。


視界が一気に明るくなる。

竜達から漏れ出る魔力。

この塒一杯にいる火の精霊たち。


「これは…」


少しずつ仔竜からは魔力が流れ出ていた。

しかし、仔竜だけではない。

この場にいる全ての者の魔力が少量ずつ流れ出ている。


それは、自分の感覚だけでは気づかない程の量。

体の中に収まりきらず、自然と漏れている魔力のうちの1%にも満たない。


俺やアステール、紅焔竜や火竜達にとっては取るに足らない問題。

だが、俺たちよりも魔力量が少なく回復も遅い仔竜達にとってはそうではない。


『長!その子だけではありませぬ!島中の子ども達が!』


やはり。

いつからこんな状況なのかはわからないが、少しずつ魔力を吸われていたのだろう。

何か(・・)によって。


俺は現状を竜達に説明する。

気づけなかったと悔しそうな顔を浮かべる竜達に、予兆はなかったのかと尋ねる。

完全になくなってはいないが、だんだん減っていたなら不調が続いていた筈だ。


『子ども達の調子がおかしいという話は聞いていた。だが、少し元気がないというくらいだ。完全に伏せっているという話は聞いていない』


竜達は口々に言う。

ここに来て体調が一気に悪化したということならば、何らかの理由があるのか。


ぐったりとした仔竜達が運ばれて来る。

とりあえずの対策として他の竜達が魔力を送っている。

これで魔力が完全に無くなることはないが、応急処置にすぎない。


「魔力が枯渇すればどうなる?」

『人と同じじゃ。魔力がきれれば生命力が魔力となる。放っておけば死ぬじゃろう』


それは今すぐという話ではない。

子どもとはいえ、竜種。

数週、あるいは数ヶ月は保つだろう。

だが、ただ死を待つ必要はない。


それぞれからの流れ出る魔力は1%に満たないとはいえ、竜の1%はそれこそ人の数十倍となる。

その流れは、川の流れのように俺の眼に映っていた。


「紅焔竜、俺は魔力の流れを辿ってみる」

『…残念じゃが、お主に頼る他ないようじゃ。頼む』


紅焔竜が俺に頭を下げる。

その光景に、周りの竜達は息を呑んだのがわかる。


「頼まれた」


俺は真剣な表情で頷いた。


---


魔力は窖にいた竜達だけでなく、島にいる全ての竜達から流れ出ているようだ。

合流した魔力の流れは、既に濁流のようになっている。


魔力が見えなくても、この流れを竜達が気づかないとは思えないほどの魔力量だ。

この現象はつい最近起こったと考えるべきだろう。


ならば、仔竜達のタイムリミットは思ったよりも近いかもしれない。

それに、だんだん流れていく量が増えているようでもあるのだ。


『どうだ!?』


一緒に来ているのは、俺を庇ってくれた竜。

この竜は火竜の中でも上位に位置する竜らしく、他の上位格の竜達が、窖で魔力を仔竜達に送り続けている中、俺の手助けをするようにと紅焔竜が付けてくれた。


「どうやら海の中に向かっているようだ」


魔力の流れが海に向かっていた時は、まさか人の手によるものかとも思ったが、どうやらそうではないらしい。

魔力の流れる先は、海の中だ。


『海…』


泳ぐのは問題ない。

水温も大丈夫だ。


新たに得たスキル「恒温体」は、温度変化が体に与える不調全てを無効とするスキルだった。

つまり暑さや寒さ、熱さ、冷たさなどが俺には通じない。


もはや人間ではない気がするが、これは所謂アクティブスキルのようでオンオフができるのが幸いだ。


よって海中での問題は呼吸と行動制限だ。

異世界補正によって肺活量も増えているようではあるが、いつまでも潜っていられるわけではない。


更に、海中の中では陸上と同じように動くことができない。

泳げないわけではないが、まず泳ぐという行為が既にダメだ。


完全なる完結(ジ・エンド・オブ・パーフェクト)」があるといっても、人間の泳ぎのスピードなどたかが知れている。


『我ら火竜は水中でも活動できる。だが、その力は陸上の半分も出せないだろう』


そうだろうな。

火竜にとって水中というのは鬼門もいいところだろう。

聞けば、海で漁をすることもあるが、小さい魚を獲っても腹の足しにならないので、動きの遅い大物を数で押して捕らえるそうだ。


『お主の力で視えぬのか?』


俺の眼については話している。

魔力を視てる時点で特別なのは知られているからな。

詳しく何ができるかは言っていないが。


「さっきからやってはいるんだが…」


クロを視た時のように視てわからないのではない。

何も視えないんだ。


「千里眼」や「透視眼」、「暗視眼」も使っている。

にも関わらず、魔力の流れを追い、深海に進めば進むほど、視えなくなる。


暗いのではない。

ただ暗いだけならば暗視眼で視えない筈はない。

闇なのだ。


そこには純然たる闇があった。

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