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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第四章 指名調査依頼「竜の棲む火山島」編
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第76ページ 初代アタミ伯爵

『ここだ』


初代勇者が造ったという祠は、確かにその姿が真っ二つと言っていいようなものになっていた。

もともと簡素な祠ではあったのだろうが、綺麗に縦に割れている。

見るも無残ということはない。


火竜たちは、特に興味もなく、調査するにも体が大きすぎるためできず遠目に見る程度しかしていないらしい。

不穏な魔力は感じないし、初代勇者とその友として来たというおそらくは初代アタミ伯爵が、当時の火竜たちと親しくしていたということもあり、害はないだろうとしていたそうだ。


俺は近づいて行ってとりあえず眺める。

それで何がわかるというわけでもないのだが、なんとなくだ。


ディメンションキーからカメラを取出し撮影。

ほんとは景色とかを撮る為に買ったのにそういう使い方があまりできていない。

どうしてこうなったのか。


更に近づくと、急に壊れた祠と俺の間に光が生まれた。


「『なんだ?』」

「クル?」


火竜も知らなかったようだ。

竜とハモってしまった。

貴重な経験だな。


光は見る見るうちに人型を取り、一人の男の姿となる。


『来たか、同郷人』


壮年の男性。

黒髪で鍛えられた…とは言い難いお腹をしている。

その顔はアタミ伯爵に似ており、おそらくは初代アタミ伯爵。


「初代アタミ伯爵か?」

『ああ、熱海重蔵(あたみじゅうぞう)だ』


やはり日本人か。

こちらの世界でそう自己紹介されると不思議な感じだな。


「黒場周だ」

『復活した魔神を斬ったのはお前だな?』

「ああ」


先ほど紅焔竜にやったように、神刀を見せる。

と、初代アタミ伯爵は満足そうに頷いた。


『ここは死んだ私の魂を捕らえておく為の場所。匣が開いたその時、目覚めるようにしておいた。私の子孫に伝えれるようにと』

「伝える?何をだ?」

『魔神復活を可能とするは心臓だけにあらず。魔神の魔力を封じしオーブもさることながら、この世界には更にいくつかの魔神の欠片が存在する』

「なんだと?」


魔神の欠片…それも複数だと?

あれで終わりとは思っていなかったが、そんな厄介な話か。


『欠片の所在はわかっていないものが多い。しかしその数は把握している』

「いくつだ?」

『44』

「多い!!」

『慌てるな。総計でだ。既にいくつかは破壊されているようだしな』

「わかるのか?」

『私は既に死んだ身。故に、世界と繋がることができる』

「世界と繋がる?」

『今、それはいいだろう。そうだな…現存する魔神の欠片は13といったところか』


13か…

それならまだなんとかなるだろうか?

話しは全員に通してベンにも動いてもらった方がいいだろうな。


『魔神の欠片は何をきっかけに発動するかわからん。気をつけろ』

「わかった」

『よろしい。では、もう一つ。この祠に我を縛るための神器がある。持って行け、何かの役に立つだろう』


また神器か…

そんな簡単に貰っていいものではない気がするのだが…

まぁくれるというなら貰うが。


『役目は…果たし…た…後は…頼む…ぞ…』


初代アタミ伯爵の姿が薄れていき、やがて完全に消えた。

考えてみればすごいことだ。

死んでからずっと、もしものためにとここに留まり続けていたということなのだから。


俺は手を合わせて冥福を祈る。

アステールと火竜も恭しく頭を下げていた。


---


「これが神器か…」


それは壊れた祠の地面に埋められるようにして置かれていた。

祠が壊れた理由はわからないが、これが何かしらの作用をしたのではないかと思われる。


その形は円形。

どうやら銅鏡であるようだ。


・―・―・―・―・―・


【神器】八咫鏡

品質X、レア度10+、創造神カイデルベルンが創りし神器。

写した者の魂を呼び、魂を縛り、魂を開放する鏡。

その力は神にも及ぶ。


・―・―・―・―・―・


今のところ使い道はなさそうだが、回収しておくべきだな。

だが、これは俺が持っておくよりも爺さんかアタミ伯爵に預けといた方がよさそうだ。

あの双子巫女でもいいけどな。


『ふむ…その鏡が魔力を放っていたようだな。埋まっていたことによりその魔力が地下水にまで及んだのであろう』

「魔神の復活に呼応して伯爵の霊魂が呼び出されたんだろうな。これで一応原因解明となったわけだ」

『では、お前の目的は達成というわけだな』

「ああ、案外あっさり済んでホッとしてるよ」


事実だ。

最悪の場合はここの竜全てを相手取らないとならなかったと思えばゾッとする。

よくもまぁ一人で来たものだ。

竜の棲む島というのに興味があったといえばそれまでだが。


『ではもう帰るのか?』

「長居する理由は特にないな。あんたらも人がいない方がいいだろう?」

『我らは別段人が嫌いなわけではない。いや、好きでもないが。お前なら歓迎するよ』

「そりゃどうも」


何故こうも好意的なのか。

何か好かれるようなことしただろうか?


「まぁ紅炎竜に首尾を報告してから帰るとするかね」

『うむ。では戻るとするか』


俺たちは、今来た道を引き返し始める。

異変が起きたのはその途中であった。


『む?』

「なんだ?」

『いや…何か…』


急に火竜が空を仰いだかと思うと、何か考えるように頭を傾ける。

どうしたのだろうかと俺が見守る中、火竜が何かに気づきハッとした。


『あれはっ!』

「?」


火竜の視線を追うと、何故かフラフラと飛ぶ小さい火竜の姿がある。

外傷は見受けられないが、満身創痍といった具合だ。


火竜は、そちらに向け一目散に飛んでいってしまったので、俺もそちらに向かう。

近づく火竜を見て、安心したのかその仔火竜は力尽きたように地に倒れた。


『おいっ!?』

「どうしたんだ?」


近くにいっても外傷は見受けられない。

だが、中はそうではないようだ。


「魔力が感じられない…?」


仔火竜の体内から、本来あるはずの魔力が感じられなかった。

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