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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第四章 指名調査依頼「竜の棲む火山島」編
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第74ページ 火山島上陸

「クルゥ!」


俺の方は問題なくなったとはいえ、アステールはそういう訳にはいかない。

羽毛がある分俺よりも被害は深刻だろう。


空間魔法で帰らせることも考えたが、俺の側を離れようとしない。

心配してくれているのだろうか。


というわけで、簡易ではあるが氷魔法で冷気を作り上げアステールの回りの温度を下げて涼しくしている。

魔力の消費はされるが、仕方ない。


アステールも気持ちよさそうにしているからこれでいいだろう。


「さて…」


火山島に目を向ける。

近づいてきたことにより、その全体がわかるようになってきている。


所々赤い輝きがあり、溶岩が流れていることがわかる。

だが、幸いにも噴煙は上がっておらず、噴火したてということもないようだ。


その代わりに、上空にあるは大小入り混じった影。

火山島そのものも大きいのだが、だからこそその影の大きさが際立つというもの。


「竜か…」


離れていても伝わってくる力の波動。

地竜や、腐竜などとは比べ物にならない程の物だが、体長が大きくなるにつれてその力もより強まっているようだ。


船に気づいたのか、上空を飛んでいた二頭がこちらに向かって飛んでくる。

上位の竜となると意思疎通が可能であると言われるため、警戒をしながら戦闘態勢は取らない。

しかしいつでも抜けるように斬鬼を腰に下げておくのは忘れない。


竜の速度は凄まじく、あっという間に接近してきた。

船は止めてある。


赤い鱗に鋭い牙。

地竜よりも大きな体躯で、両翼を羽ばたかせている。


所々で個竜差?があるようでパッと見ではあれだが、見分けがつかないということもないだろう。


『人か』

『人よな』

『幾年ぶりであろうな』

『さて』


俺たちの姿を認めて、剣呑に目が細められるが、今のところすぐに攻撃を受けたりはしないようだ。


『何用で参った、人よ』

『理由如何によっては死を覚悟せよ』


違った。

かなり好戦的であるようだ。


「ここより近い人の町より調査に来た。ここを源泉とする温泉の湯に異常があったのだ。そちらで最近何か異常はなかったか調査させてくれるだろうか?」


俺の言葉に、二頭の竜は顔を見合わせる。

何やら会話しているようだが、俺の耳までは届かない。


『長に確認を取る。しばし待て』


そう言うと、一頭の竜が踵を返し(踵はないが)火山島へと戻っていく。

もう一頭は俺の見張りで残ったようだ。


『…』

「…」


竜との沈黙は人のそれとは比べ物にならないほどの気まずさがあるな。

何かを話すべきか?

いや、だが何を話せばいいんだ?


頼む、早く帰ってきてくれ。


---


竜が帰ってきたのはそれからしばらく後のことだった。

報告に行った一頭と同じ者のようだ。


『許可が下りた。島への上陸を許そう』

「ありがとう」


まずは第一段階クリアといった所だろうか。

どうなることやら。


竜たちが船と速度を合わせて飛び始める。

アステールはまだ警戒しているようだ。


しかし、この竜たちはSランク以上の力を持っている気がする。

アステールでは一体でもきついだろう。

俺も二体を相手にするなら、神剣を抜かないと無理だろうな。


---


緊張を孕んだ沈黙の末、ようやく島へ到達した時には、辺りは暗くなってきていた。

島では幾頭の竜が飛び交い、また飛んでいない個体がこちらを睥睨している。


島に着いたことで気温が更に上がっている。

アステールにかけている魔法ではカバーしきれなくなってきたので、魔力量を上げて冷風を強めてやる。

冷やした端から温められている状態で、魔力が休まる暇がない。

もし次こんな機会があったら何か対策を用意しないとな。


『こっちだ』


一頭はそのまま上空へと飛び、もう一頭が俺たちを先導する。

おそらくは長という個体の所へ案内してくれるのだろう。


ここで長の機嫌を損ねないようにしないとならない。

しまったな、土産でも持ってくるんだったか。

しかし竜の喜ぶ物…肉か?


『入るがいい』


案内されたのは、火山島の中央。

火山の中層に洞窟があり、奥へと進めるようだ。

だが、これは…


「アステール、ここはその魔法では防ぎきれない熱になると思うぞ」

「クルゥ…」


今まではなんとかなっていたが、火山そのものに入るとなると話は違ってくる。

さすがに溶岩の中へ入れとは言われないとは思うがその距離まで近づいてしまえば入ろうが入るまいが同じだろう。


『ふむ…そういえば人の身でよくぞここまで来るものよな』

「そういうスキルがあるからな」

『なるほど。だが、ここから先は熱だけが問題となるわけではない。よかろう、我が守ってやろうぞ』


アステールを説得して、ここで待たせようと思っていたが、俺も危なかったらしく竜が何か呟く。

すると、俺たちの回りに一瞬赤い光が輝きそれまで感じていた熱や臭いもしなくなった。

何らかの魔法であるのだろう。


「ありがとう」

「クルゥ」

『では、行くぞ』


竜の後に続いて洞窟へと入る。

案外短かったらしく、すぐに先が明るくなり広い場所に出た。


中央に今まで見たどの竜よりも大きく、威圧感を放つ竜が蜷局を巻いている。

こちらをチラリと見ると、その大きな身体を起こした。


その目がカッと見開かれる。


『よく来た。そしてここで死ぬがいい!竜殺しよ!!』


開かれた口から迫る火炎が、俺の視界を埋め尽くした。

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