第70ページ エサイム・ハフナー司教
季節は冬になろうかとしていた。
相変わらずアキホにいる俺は、アステールと温泉に入ったり、偶に依頼を受けたりしている。
依頼と言っても、討伐依頼はほとんどなく、配達や建築の手伝いなどばかりで、俺が受けるのは専ら配達依頼がほとんどだった。
ギルドが破壊されているため、現在はギルドがあった敷地の前で仮設テントにより運営されている冒険者ギルド。
幸い、ギルド内にいた者の被害は少なかったが、それでも職員、冒険者共に一定数が怪我を負った為に一時はギルド運営が立ちいかないこともあったが、他のギルドから増員が送られてきたりと、現在はなんとかなっている。
爆破された三箇所は優先的に建築が進められており、ギルドと衛兵詰所はもうすぐ完成となる。
問題は、教会だった。
ここの教会は、ガイアにあるものほど大きくはなかったが、神聖な建造物として建てられる人間が限られるのだそうだ。
様式や配置が宗教により様々だと言うこともその理由の一つとなる。
よって、他の二箇所よりも大幅に時間がかかって、建築に取り掛かり始めたのも最近のことだ。
今日は、ふらっとその教会へと来てみた。
ドンナ司祭から言われていたことを忘れていたのだ。
だが、建設中なだけあって、作業員以外の人影は見えない。
ドンナ司祭はどこにいるのだろう?
聞いてみるか。
俺は石材を軽々と担いで運び、また新しい石材を取りに戻ってきた作業員に声をかける。
「ちょっとすまん、ドンナ司祭がどこにいるかわかるか?」
「お?君!」
「司祭!?」
驚いたことにその作業員はドンナ司祭だった。
道理で他の作業員よりも多めに石材を持っていけるなぁと思っていた。
この人は何をやっているんだ?
「いやー作業員も人手不足でね。私はエサイム司教のように細かいことは苦手だからこっちを手伝ってるのさ」
額に浮かぶ汗を腕で拭う司祭。
その姿がとても様になっている。
「というかやっと来てくれたね、君。あれからもう一月は経つよ。まさか忘れていたんじゃないだろうねぇ?」
そう言って顔を近づけてくる司祭。
怖い怖い。
「いやー、教会が大変なことになって司祭も忙しいかと思いまして」
目線を逸らしながら言う。
怪しまれているようだが、どうやら尋問は終わりなようだ。
「来なよ。エサイム司教に紹介するからさ」
司祭は、現場を仕切っている棟梁らしき人物に一声かけて、歩いていく。
俺はその後ろに大人しくついていき、少し歩いた所にある石造りの建物に入る。
どうやら病院のようだ。
「エサイム司教!」
その女性は、怪我人の横に膝をつき、手を握って祈っていた。
意識のない怪我人の顔色が見る見る内に良くなり、ほんのり赤みを帯びた所で手を離す。
安定した呼吸を繰り返す元怪我人を見てほっと一息ついてから、こちらを見た。
「おはようございます、ドンナ司祭。しかし、ここは病院ですよ?大声はやめなさい」
優しい口調だが、きっぱりとした言い方だった。
その言葉に、司祭は恥じ入るように頭をかく。
「すみません、司教。紹介します、こちら冒険者のシュウ。あの時に、町を守る為尽力してくれた一人です」
ん?
俺名前名乗ったかな?
まぁいいか。
「シュウ・クロバです。初めまして」
「そう。あなたが…初めましてシュウ君。創造教会マジェスタ王国北西部総括エサイム・ハフナー司教です」
糸のように細く、背中まで伸びる金色の長髪。
美人であるが、その顔には疲れが見えていた。
「エサイム司教、お疲れではないのですか?」
「私は大丈夫です」
司祭の問いに気丈に答えているが、どう見ても大丈夫そうではない。
「ずっと治療を続けておいでなのですか?」
司教は少し困ったように頷く。
「あの時、私はアキホにいませんでした。せめて、今できることがあるなら私はやらねばならないのです」
「だからと言って、ずっと治癒魔法の行使など…あなたが倒れてしまいます」
そう言うと、驚いたように目を丸くしてクスリと笑う。
「ふふ、お優しいのですね」
「ごまかそうとしても無駄です。あなたが倒れたら困る人がたくさんいるのではありませんか?」
ドンナ司祭が大きく頷いている。
「…わかりました。少し休憩させていただきます」
しぶしぶといった表情で司教が椅子に腰掛ける。
この調子だとまたすぐにやりそうだ。
「それで、ドンナ司祭、彼を連れてきたのには理由があるのでしょう?」
「そうでした!司教、シュウ君に祝福をお願いしたいのです」
祝福?
なんのことだろう?
「構いませんよ。カイデルベルン様のご加護もお持ちのようですし」
「よかった!シュウ君、やってもらいなさい」
「はぁ」
俺は気のない返事をしてエサイム司教に近づく。
前に膝まづき頭を差し出すように、と言われそのとおりにするとエサイム司教はポンと頭の上に手を置き、何やら唱え始めた。
「主よ、ここに主の祝福を求める者あり。どうか彼に祝福を、彼の生を、見届け給え」
《ユニークスキル「天の声」を習得しました》
「っ!?」
司教の手が輝くと同時に、頭の中で無機質な女性の声が響いた。
「これは一体!?」
「どうやら成功したようですね。祝福とは神が一つだけ何らかのスキルを与えることです。スキルは人によって違い、その時その人に最も必要だと思われる物が与えられると言われています」
俺は慌ててギルドカードを確認すると、ユニークスキルの欄に間違いなく「天の声」と書かれている。
―・―・―・―・―・―
天の声
スキルの習得・変化・進化、加護の取得など様々なことを教えてくれるスキル。
その声は、ある女神のものとされているが詳細は不明。
―・―・―・―・―・―
便利な能力を手に入れたものだ。
一々ギルドカードで確認する必要がないということか。
…確かに便利ではあるが、無くてもいいような気もする。
もう少しいいものはなかったのか。
言っても仕方ないか。
「本来ならば、祝福をするには色々と制約があるのですが、あなたならいいでしょう」
何を考えているかわからない笑顔で司教が言う。
この人も神に仕える身だ。
何か聞いていたりするのだろうか?
だが、言ってくれない所を見ると、聞いた所で教えてくれそうにない。
俺は礼を言って、病院を出た。
黒葉周 17歳 男
冒険者ランク:B
HP:10500
MP:8200
魔法属性:全
<スキル>
格闘術、剣術、槍術、棒術、弓術、刀術、棍術
基本六魔法、氷属性魔法、空間属性魔法、無属性魔法、神聖魔法、暗黒魔法、魔法陣術、召喚術
馬術、身体強化、魔力制御、完全回復、天足、覇気、看破、隠形、危機察知、魅了、罠解除、指揮
耐魅了、耐誘惑、耐幻惑
礼儀作法、料理、舞踊
<ユニークスキル>
天衣模倣、完全なる完結、全知眼、識図展開、天の声(new)
<称号>
「知を盗む者」、「異世界からの来訪者」、「武を極めし者」、「すべてを視る者」、「竜殺し」、「下克上」、「解体人」、「誘惑を乗り越えし者」、「美学に殉ず者」、「魔の源を納めし者」、「全能へと至る者」、「人馬一体」、「無比なる測量士」、「翼無き飛行者」
<加護>
「創造神の期待」、「戦と武を司る神の加護」、「知と魔を司る神の期待」、「生と娯楽を司る神の加護」、「鍛冶と酒の神の加護」




