第7ページ 宿屋と武具屋
「いらっしゃい!」
中に入りすぐのカウンターから恰幅のいいおばちゃんが元気よく声をかけてくる。
おそらくここの女将さんなんだろうな。
「部屋空いてるか?」
「泊まりかい?大丈夫だよ!一泊朝夜食事付きで銀貨3枚、7日以上の泊まりなら銀貨2枚と銅貨5枚になるよ!」
こちらの世界のお金は数えやすく
銭貨
銅貨=銭貨100枚
銀貨=銅貨10枚
金貨=銀貨10枚
白金貨=金貨100枚
閃貨=白金貨10枚
光閃貨=閃貨10枚
となっており、銭貨を一円とすると、銅貨が百円、銀貨が千円、金貨が1万円、白金貨が百万円、閃貨が一千万円、光閃貨が一億円となる。
白金貨以上は国単位でくらいしか使わないそうだが。
つまりここでは一泊3000円。安いな。
ちなみにお嬢様を助けた報酬で俺は今相当なお金をもらっている。多すぎて重くなってしまったので金貨と銀貨だけにしてもらったくらいだ。
なので急いで働く必要がないのが救いだな。
「とりあえず7日頼む」
「はいよ!じゃお釣り銅貨5枚ね!朝食の時間は鐘3つまで、夕食は鐘7つからだよ!」
この世界も地球と変わらずだいたい24時間1日となり、6時に鐘が一度、その後2時間ごとに鐘の数が増えていき22時に最後の鐘が9回鳴ることになる。
鐘を鳴らすのは教会でそこには唯一時計があるらしい。この世界で時計は貴重なものなんだろう。
18時の鐘7つで街道の門は閉められ、これはこの世界共通であるらしい。
「わかった。ありがとう」
「はいよ!あんた見ない顔だけど冒険者かい?」
「今日からな」
「そうかい!がんばんなよ!」
「ああ。荷物を置いたら夕飯をもらう。いいか?」
「もちろんさ!食堂はあっちだよ」
受付に面と向かって左側に扉がありその奥が食堂となってるようで、既にザワザワとした盛り上がりが聞こえる。
俺はもう一度女将に礼を言い、自分に充てられた2階の部屋に行く。
その部屋は、特に狭いわけではないが机が一つ、ベッドが一つ、窓が一つの簡素な部屋だった。
「ふぅ」
荷物を置くといったもののそもそも荷物なんてほとんどなかったので部屋の確認だけしてそのまま部屋をでて、食堂に向かう。
「らっしゃい!おぉお前さんが今日からの客か!よろしく!俺がこの宿の主人兼料理人のファーザだ!」
「シュウだ。よろしく」
「おう!受付にいたのが俺の妻のマーサだ!そんでたまに娘のドーナが手伝ってくれてる!俺に似ず美人だが…手出すなよ?」
今まで笑顔だったファーザの雰囲気が急に怖くなり、俺は苦笑しながら頷く。
「よし!今日の夕飯はポークラビットのタレ焼きだ!うちの店は食材持ってきたらそれで作ってやったりするからじゃんじゃん持ってこいよ!」
「ああ、わかった」
俺は料理を受け取り空いている席に着く。
食べてみると絶品としか言えず、豚肉のような気もするが油がすごく、にもかかわらず重くはなくヘルシーといってもよい。
ほどよい弾力があるのに噛んでいるうちに溶けるようになくなり、まさに至福。
この宿は当たりだったと改めて思った。
食事を終え、うまかったと声をかけてから自分の部屋に戻る。
明日することを考えながら今日はそのまま眠りについた。
---
翌日。
今日の朝食はなんとかっていう魚の塩焼きにご飯だった。
和食だ。言うまでもないが美味しかった。
というか米があることにビックリだ。
朝食を食べ終えた俺はまず、装備を充実させようと午前中は店巡りをすることにした。
幸い紹介状をもらっているためどの店に行けばいいかはわかっている。
まず冒険者をやる上でなくてはならないのが武器だ。
1番値がはりそうだし、武器から見ることにする。
場所を聞きながら紹介された武具店につく。
そこは表通りからは少し外れて人通りの少ない…というか無い場所にあった。
ほんとに大丈夫なのか、と疑問に思いながらも店に入ってみる。
誰もいない。
「誰かいるかー?」
声をかけてみるが、反応はない。
もう一度と少し大きな声で言ってみると。
「うるさい!聞こえとるわ!」
とすぐ近くで聞こえた。
下を向いてみると小さなおっさんがいた。
初めて見たが、おそらくドワーフというやつだろう。
そんな感じがする。
「ああすまん。誰もいないかと思って」
「ふん!で小僧、なんのようじゃ」
「武器が欲しい」
「…小僧、冒険者か?」
「ああ。あ、これ紹介状だ」
「…ふん」
紹介状を渡すとドワーフの親父さんは一つ息をついて奥へと行ってしまった。
戻ってきたときにはひと振りの剣を持っている。
「わしは人の評価なんざ知らん。わしの剣を使いたいなら実力をみせろ」
そう言って剣を渡してくる。
どうやら振ってみろということらしい。
俺はテレビで見た剣道の素振りを思い出しながら振ってみる。
おそらくあれを見ていたから剣術のスキルが取れていたのだろう。
今の俺は一流の剣士といっても過言ではないはずだ。
まぁずるだが。
俺が振るのを見て親父さんが少し驚いたような表情をする。
「小僧、剣の修行でも受けたのか?」
「ん?ああ少しな」
親父さんは少し考えてまた奥へと引っ込んでしまった。
戻ってきて今度は木箱を持っている。
無言で渡してくるので開けてみるとひと振りの黒い刀が入っていた。
「これは・・・」
俺はこういうときこそあのスキルだと、「全知眼」を発動する。
このスキルを得てから発動の仕方を調節する感覚を身につけるのが1番難しかった。
人に使うにも物に使うにも情報がわかりすぎるのだ。
相手の誕生日やら3サイズまで知ってもしょうがないし、材質までわかったところでだ。
怖すぎて未来視なんてのはまだやっていない。
鞘も刀身も鍔も柄まで黒で統一されたどこか禍々しい刀を、「全知眼」の出力を調節し「鑑定眼」だけを発動して視る。
―・―・―・―・―・―
【刀】黒刀・斬鬼
品質S、レア度8、鍛冶師ジズマンの作。
オーガキングの爪、牙、角を用いて作られた刀。
その斬れ味は鋼さえも切り裂き何者にも折られはしない。
斬る度に斬れ味が増す呪われた刀でもある。
―・―・―・―・―・―
おいおい随分怖い刀だな。
しかし、これ相当な高級品なんじゃねぇのか?
「親父さん、これは?」
「使え。わしの人生で最高傑作じゃ」
「そりゃいい刀だってのはわかるが…俺にはこれを買えるほどの金はないぞ?」
「金はいらん。こいつは使えるやつが限られる。お前さんなら使いこなせるだろう」
どうやら認められたってことか。
この親父は俺が無理に金を渡そうとしても受け取らなさそうだしありがたくもらっておこう。
その代わりに俺はここで防具も買っていくことにした。
見る限り、武器が主だが専門というわけではないらしい。
親父にどれがいいか聞いてみると
「お前さんに動きが遅くなるだけの鎧は不要じゃ、どうしてもというなら革鎧にでもしておけ」
となんかの革鎧を渡された。
―・―・―・―・―・―
【革鎧】リザードの革鎧
品質A、レア度4、防具職人ファンズの作。
リザードの革を使った鎧。
防御力もあり軽く人気がある。
―・―・―・―・―・―
俺はそれと素材剥ぎ取り用のナイフ、それを差すためのケースつきベルトを買って、親父に心を込めて礼を言ってから店をでる。
親父さんもどこか嬉しそうだったのが印象に残った。
「あれ?」
「ん?」
店を出ると俺より少し上くらいの年齢の青年が何やら買い物をしてきたかんじで歩いてきた。
「お客さんでしたか、今は親父だけのはずですが何か問題はありませんでしたか?」
どうやら親父の息子らしい。
確かにあの親父さんの態度は客商売としては問題ありだろう。
しかし、俺的には感謝しかない。
職人という感じで好感がもてたし何より俺を認めてこんな物までもらってしまった。
俺がそう言うと
「それは…珍しい。あの人を認めない親父が最高傑作まであげてしまうほど気に入るとは…うちの親父は腕だけは確かでね、その名もけっこう有名なんですよ。その刀は今まで何人かがどこから聞いてきたのか売ってくれと言ってきたんですが、親父は絶対に売らなかったのに…」
お客さんただものじゃないですね。と息子もどこか面白そうに笑って一礼し店に入っていった。
俺はもう一度店を見てから次の店に歩き出す。
補足
「全知眼」は総括スキルですので「審知眼」や物品の詳細を見る「鑑定眼」などを含み普段はそれを使い分けています。
もちろん併用することも可能ですが、多くの魔眼を併用すると脳が処理しきれなくなり酔ったかんじになります。
2015/4/11:アイテムの表記を一部変更し、作者名を追記しました。