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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第三章 休暇中の大騒動「燃ゆる温泉街」編
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閑話 若き世代(フェルディナン視点)

「結局湯治はあまりできなかったのぉ」

「…左様でございますね」


アキホから馬車を走らせようやく王都に戻ったのは、秋も終わりに近づく頃だった。

道中に問題はなく、ギースは王都に着くなり報酬を貰うと消えた。

どこかでまた賭けでもしているのだろう。


一緒に王都まで来たグード商会も、自分たちの店に行くからと別れた。

彼らにはなかなか面白い話を聞かせてもらい、実に有意義な帰り道ではあった。


が、元々はアキホの温泉での湯治が目的だったわけで、その目的を果たせたかと言われれば、否としか言えぬであろう。

温泉に何度か入りはしたが、本来であるならば冬の間はアキホで過ごす予定であったのだ。

無理を言って帰ってきたのは私自身なのだが、もう少し温泉を堪能したかったという気もある。


「おや?」


王城の廊下を歩いていると、前から歩いてくる騎士の姿が。

所々に金で模様が入る鎧を纏い、金髪をなびかせているその姿は、王子だと言われても信じるだろう。


「これは、前王陛下」


そう言って少年が腰を折ると、後ろにいた従者も礼を取る。

どちらも見事な礼だった。


「久しいのぉベンジャミン君」


私がそう声をかけると、顔を上げた少年は、嬉しそうに笑った。


「ご無沙汰致しております。シオン様も」

「はい、ベンジャミン殿」


シオンはベンジャミンの先輩に当たり、少しの間だが教育係になっていたこともある。

本当に少しの間だったが。


「陛下はアキホへ湯治に行かれたのではなかったですか?」


ベンジャミンはそう言う時だけ、少し辛そうに顔を歪めたが、普通の者であるならばその変化には気がつかないであろうほど些細なものだった。

私のアキホ行きは、もちろん機密事項ではあるのだが、ベンジャミンは七星剣であり、有事の際には一隊を指揮する身、無論あの事も聞かされているのだろう。


「色々あっての」


私が言うと、後ろでシオンがやれやれと首を振る。

ベンジャミンは不思議そうに首をかしげた。


「おお、そうじゃ。アキホで君の友達に会ったぞい」

「え?」

「シュウ君じゃよ」

「ああ!アキホにいたんですか?」

「うむ。休暇だと言っておったのぉ」

「それなら…大変だったんでしょうね」


何があったかも知らないというのに、まるでアキホであった出来事はシュウがいたからだと言わんばかりに告げたベンジャミンに私は思わず笑ってしまった。


「よくもまぁ自分を棚上げして言えるものだ。君だって相当なトラブル体質であろうに。」

「あそこまでひどくはありませんよ!」


ベンジャミンはそこは譲れないとばかりに主張する。

その必死さがおかしくて、私は更に笑う。

トマスもシオンも笑いを堪えるのを頑張っている。


「また報告が行くと思う。近々会議も開くと思うからそのつもりでの」

「はい」


私が表情を改めてそう告げると、ベンジャミンも今まで見せていた少年らしさを控え、キリッとした表情でそう言った。

礼をして辞去を告げる。

それを見送ってから私は再び歩き始めた。


「パレステンについてですか」

「うむ」


被害がなかったとは言え、私を暗殺しに来たのは事実。

今まで特に干渉はなかったが、この件は歴とした戦争行為に当たる。

対応を考えねばなるまい。


「それともう一つ」

「邪神教ですね」


邪神教の戦力がどれほどあるのかはわからないが、私たちの知らない情報を持っていたり、油断はできない。

今回のことも、もしあの場にシュウやギースといった腕利きがいなければどうなっていたか考えるのも恐ろしい。

アキホは他種族が集まる交流と交易の町であり、マジェスタの収益の一端を担っている場所なのだ。


「シオン、お主は早急に招集の準備にかかれ。会議は早いほどよい」

「かしこまりました」


ここで言う会議とは、王家、七星剣、主だった貴族・閣僚が一同に会する緊急会議の物だ。

このメンツが揃うなど滅多にあることではなく、私が国王になり、そして引退してからも数える程しか行われていない。

考えてみると現役の国王時代ではなかった気もする。


「…これもトラブル体質持ちがこの国に集まっておるからなのかのぉ」


先ほど会った少年が持ち込んだ数々のトラブルを思いだし、またアキホで会った少年が今度はどこでトラブルに巻き込まれるのか考えて、私は少し頭痛を感じた。


「ゴホッゴホッ」


あと少しで王の私室というところで、唐突に咳込んでしまう。

口に当てた手に目をやると少量ではあるが赤い色が見える。


「…」


こんな問題が重なっている今、倒れる訳には行かないと私は赤い色を擦り付けるようにローブで拭き、王の私室へと急いだ。

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