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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第三章 休暇中の大騒動「燃ゆる温泉街」編
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第68ページ エピローグ

「失敗しただと?」


ここはパレステン神聖教国、「太陽の塔」と呼ばれる王城の一室。

この国では、教皇が王であり絶対の君主だった。

その教皇の執務室で向かい合う二人の人物。

一人はこの部屋の主である、教皇ネテロ・パレステン。

まだ34という若さで教皇の座まで上り詰めた男。


「そのようで」


もう一人は、胸元に太陽を背にした十字架の紋章が描かれている白銀の鎧に身を包んだ男。

髪は根元まで白く染まり、年齢を感じさせるが、その眼光は一切の衰えを見せていない。

パレステン聖騎士団元帥、バルハーデ・ドゴール。


「自決用魔法陣が発動したのを感知しましてございます」

「…奴らは精鋭ではなかったのか?」

「精鋭でございました。詳しくはわかりませぬが、何かトラブルがあったものと思われます」

「マジェスタの爺は死んだのか?」

「わかりませぬ」


徐々に顔が赤くなるネテロとは違い、バルハーデの顔に変化はない。

それが余計に、ネテロの感情を高ぶらせた。


「すぐに調べさせろ!神の命を果たせたのかどうかをな!!」

「御意」


バルハーデが下がったのち、ネテロはすぐさま跪き天を仰いだ。


「おお、我らが神アポロシスよ。この身の不備をお許しください。必ずや、必ずや!あの王家の血を根絶やしに致します!」


部屋にはネテロの声だけが響く。

それは、この国ではよく見る光景であった。


---


「サメドラが死んだか…」

「枢機卿がですか!?」

「何かの間違いでは!?」

「あの方の縛魂術が敗れるなど!」


どこか暗い一室。

闇色のローブを纏った人影が、円卓を囲んでいる。


と、そこに入ってくる人影。


「事実だ。枢機卿は殉死なされた」

「ゲイル…」


男の顔を知っていた者がつぶやく。

男、ゲイルは更に口を開く。


「総主教様、申し上げます。計画は概ね、成功。ルベルベン様はその力の一端を再び地上に現界なされました」

「おお!」

「ついに!」

「よくやった!」


先ほどまでの悲壮はどこへやら。

場は歓喜と興奮に包まれる。


「しかしながらルベルベン様の心臓は破壊され、マジェスタ王国壊滅はおろか、アキホの町を壊すことさえできませんでした」

「なんと!」

「ルベルベン様が現界していながらだと!?」

「一体何があった!」


ゲイルは自分の知る限りのあったことを話す。

そして、懐から映像の記録と投射をする魔道具を取り出した。


「こいつがルベルベン様の心臓を破壊した張本人です」


映し出されたのはシュウがアステールと共に町を歩く姿。

いつどこで撮られたのかはわからないが、かなりの至近距離で撮られていた。


「こんな小僧がっ」

「我々の悲願を!」

「お主何故こやつを殺してこなかったのだ!」


その言葉に何も知らぬ老害が、と胸中で吐き捨てるが、臆面には出さず、ただ総主教のみを見据える。


「恐れながらこやつは、サメドラ枢機卿にも打ち勝つ程の者。私では力及ばず、情報を持ち帰ることを優先いたしました」


その言葉に周りの者は、また口を開きかけたが、総主教が片手を挙げそれを抑える。


「ご苦労だった。破壊は思ったようにいかなかったとはいえ、一時であってもルベルベン様がこの地上に現界なされたことは確か。これで、今一度この世とルベルベン様は結ばれた。ルベルベン様が完全に再臨なさる時も近いであろう」


そこで総主教は一度口を閉じ、この場にいる一人ひとりと視線を合わせる。


「だが、邪魔な存在はまだ多い。聞けばこのシュウ・クロバなる人物は神殺しの神器を有しているとか、こやつを我々の最大懸案人材の一人に加える。これで5人目。他の者と同様に殺した者には報酬を与える。皆今まで以上に励むように。そしてゲイル」

「はっ」

「新たな任務を与える。欠片の在り処を探れ、一つでも多く見つけるのだ」

「かしこまりましてございます」

「うむ」


総主教は目を伏せ、椅子から立ち上がる。


「時は近い!すべては魔神ルベルベン様の御為に!」

「「「「「「「ルベルベン様の御為に!!!!!!!」」」」」」」


---


アキホの町。

周りの建物が何かしらの被害を受けている中。

まったくの無傷で建っている一つの建物。

その中に一つの影がいた。


「何か御用ですか?」


その影に背後から声がかかる。

影の人物は、まったく気配に気付けなかったことを内心で驚きながらも、その感情を出しはせずに悠々と振り向く。


「こんばんわ」

「ええ、こんばんわ」


こんな場面にも関わらず、笑みを浮かべあう二人の人物。


「もう一度お聞きいたしますが、当店に何か御用ですか?」


前掛けをした、いかにも店員といった風情の青年が尋ねる。

それに応えるのは女性。

美しく、妖艶な印象を受ける黒髪の女。


「いえ、大丈夫よ」


これが昼間であったならば、この会話は店内を案内しようとする店員と、それを断る客ということで済んだだろう。

しかし時刻は既に深夜を過ぎている。

買い物というには遅すぎる時間であり、もちろんこの店も閉店している。


「そういうわけにも参りませんお客様。主よりお客様へのおもてなしは最大限にといわれておりますので」


ここにいたってなお、笑顔を崩さぬ二人。

しかし、少なくとも女の方は、その笑顔が引きつりつつあった。


「…あなたの主は今どこにいるのかしら?」

『私に御用でしたか?』


女の問いかけに答えたのは店員の青年。

しかし、その声は先ほどまでの声とはまったく違っていた。


「そう…それ(・・)もあなたの作品(・・)というわけね」

『ええ。それで閉店した私の店にわざわざお越しくださるほどの用でございましょうか?』

「ええ、そうよ。あなたに作ってもらいたいものがあって」

『……あなたのような美しい方のお願いを聞き入られず申し訳ありませんが、生憎私は今忙しくしておりまして』

「…では、売って欲しいものがあるわ」

『なんでございましょう?』

「あなたの能力を有した人造人間(ホムンクルス)を」

『…』

「いるのでしょう?」

『どこでお聞きになられたのかはわかりませんが、お引き取りくださいお客様。あれら(・・・)は非売品でございます』

「どうしても?」

『申し訳ありませんが』

「報酬は弾むと言っている(・・・・・)わよ?」

『この世界の貨幣に興味はありません。黙っていても入ってきますしね』

「…」

『お引き取りください』


優雅に、その青年はお辞儀をする。

それは完璧なお辞儀であり、完璧であるが故に、異様であると思えた。


女はそれを見て、一つため息を吐くと、外へ向かって歩き始める。

だが、何歩か歩いた所で止まり、壁にかかっていた商品を見る。


「この隠蔽の効果の付いたマントは売ってもらえるのかしら?」

『「毎度ありがとうございます」』


もう一度、今度は笑みを浮かべながら礼をする青年を見て、やれやれと首を振り金貨を放ってから今度こそ女は店を出る。


「二つ目の任務は失敗か…」


女は手を挙げ、嵌っている指輪を撫でる。

と、女の手には今までなかった一冊の古びた本が載っていた。


「アタミ伯爵の秘蔵書。異世界の技術が暗号により記されている書物」


女は薄く笑いながら、月の下を歩く。

失敗してしまった任務を、上司にどう伝えようかと悩みながら。

ただ、あの錬金術師に言うことを聞かせたいのならば、上司が直接出た方がよかったのではないかと思わずにはいられないのだった。

三章終了になります。

どうにか頑張りました。

いかがでしたでしょうか?

四章は閑話を挟んだのち、アキホからのスタートとなります。

季節は冬真っ盛りへと飛びます。

お楽しみに。

この三章内で散りばめた伏線も必ず回収いたしますのでお待ちください。

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