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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第三章 休暇中の大騒動「燃ゆる温泉街」編
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第67ページ その後

「うわ…ひどいことになってるな…」


アキホの中心広場は正に消滅といっていいことになっていた。

元々広場だった場所が巨大な穴となり、地下の水道合流地点までが無残な有様となっている。

もし一般人が落ちればただでは済まないだろう。


地下水道も合流地点がこれでは、機能をうまく果たすのかどうか疑問だ。

俺が心配してもしょうがないことではあるが、これでは温泉もどうなるかわからない。

破壊された三箇所も町にはかかせない場所であるし、魔物が暴れまわったことにより倒壊した建物、フレイムリザードにより燃えた建物もある。

何より、迅速な避難を行ったとはいえ、犠牲者の数がどれほであるかは検討がつかない。


今回の事件はアキホの町に甚大な被害をもたらした。

休暇なんて言っている場合ではなくなったのだが、どうするかな。

温泉が営業しないのなら帰るか?


「ん?そういえばギースはどうなんったんだ?無事なのか?」

「クル」

「…惜しい男を亡くしたな」

「勝手に殺すな!!」


近くに来ていることはわかっていたので、ボケてみるといいツッコミが返ってきた。

向こうの世界では友人とこんなやり取りをしていたこともあったが、もう随分昔のように感じられる。


「なんだ生きてたのか」

「たくっ…しかし、派手にやったなぁ兄ちゃん…」

「いや待て。これ俺のせいだと思うか?」

「…」

「黙るなよ!」


え?

嘘だろ?

これ俺のせいになるのか?

冗談だよな?

流石にこんなの賠償請求されても無理だぞ?


---


「いやはや…やってくれましたなシュウ殿」

「すんません…」


近くにいたダスカスとマインスに事の顛末を伝え、爺さんとアキホ伯爵が護衛を引き連れ現れたのは一通り俺とダスカスで現場を調べた後だった。

結果として魔神の力の痕跡はあるものの、心臓や、魔神の体を構築していた謎の黒い物体は一切なく、そこにあるのはただの瓦礫ばかりであった。


「アキホの回復にはかなりの時間がかかるじゃろうの」

「ですね。なるべく早くにとは思いますが、被害を調べてみないことにはまだなんとも」


後日、判明した情報によれば今回の事件による被害はやはり相当なものであり、死者は200人を超え、重傷者はおよそ70名、軽傷者に至ってはほぼ全ての者が何らかの怪我を負っていたということだ。

祭りの関係で、人がいつもより更に集まっていたことも災いした。

だが、爺さんや伯爵に言わせるとこれだけのことが起きてこの数は僥倖と言っていいくらいに少ないそうだ。


倒壊及び焼失した建物は40棟を数え、アキホが商業交易都市としての機能を完全に回復させるには1年以上の時間がかかるだろうということ。

更に、今回のことでアキホから他国の商会などの取引が離れていくことも予想され、マジェスタ王国としてもその経済的被害は甚大なものになる。


二人のお偉いさんは、日夜入ってくる情報を聞く度に顔をしかめ、頭を抱えているが、俺には知ったことではない。


魔神については、完全に箝口令が敷かれた。

既に魔神は亡く、(いたずら)に民を不安がらせることもないだろうという話だったが、要は俺たちにも詳細がわかっていないからということが大きい。


捕まえた邪教徒は逃げた一人を除き全員が死亡した。

俺が捕まえた奴ら以外にも、忍部隊が何人か捕まえていたが、それを含めてだ。


逃げた一人というのは、伯爵家で爺さんを襲ってきたゲイルという男だ。

どうやら奴は他の奴らとは段違いの実力を持っていたようで、俺やギースが消えた後、すぐに逃げられたそうだ。

ギースに聞いてみると、強さだけならAランク程だったが、気配が読みにくく戦いづらい相手だったらしい。

専門は戦闘ではなく諜報や裏工作なのであろう。

事実、伯爵家から匣を盗んだのも、三箇所に破壊の魔法陣をしかけたのもあいつだと思われている。


そういえば、匣と一緒に盗まれた初代アタミ伯爵の秘蔵書は見つかっていない。

ゲイルが持っているのか、あるいは…


---


「私は王都に戻らねばならぬ」


シオンの容態が落ち着き、動けるようになってから爺さんが言ってきた。

こんなことがあり、本来ならば早急に王都に戻らなければならなかったのだろうが、シオンを置いていくことはできぬと譲らなかったのだ。


シオンは、幸い命に別状はなく、仕事に復帰することも可能だが、動けるようになった後も安静が言い渡されていた。

シオンの代わりと言ってはなんだが、王都までの護衛にギースが同行する。


「報酬弾んでくれるってさ!」


嬉しそうに笑うギースに、苦笑しながらよかったなと言っておいた。

俺も一緒にと言われたが、今は温泉から離れる気はなかったので遠慮しておいた。

ギースがいれば滅多なことにはならないだろう。


爺さんは、王都に来た時は必ず訪ねてくるようにと言い、ギースは縁があったらまた会おうだそうだ。


驚いたのは、グード達も一緒に発つようで、草原の光も共に王都に行くそうだ。

互いに、護りながらという感じになるらしい。

グードはアキホがこんなことになって残念だと言いながら、何か考えていそうな笑みをしていた。


爺さんたちの見送りを終えた俺は、天上の湯から別の温泉宿へと移った。

確かにあの温泉はいい温泉なのだが、どうもあの高級感は俺に合わない。

新しく移った所は「友の湯」と言い、なんと従魔とも一緒に入ることができる温泉がある。

アステールも温泉の気持ちよさにはまったようで、洗ってやると嬉しそうに鳴く。


ところで、温泉なのだが。

あの事件の翌日には普通に営業していた。

地下水道と温泉は別口であり、地下水道が使えなくなってもどうにでもなるらしい。

被害がなかった温泉や商家は絶賛営業中だ。

アキホの皆はたくましい。


外から聞こえる喧騒を温泉に浸かりながら聞いている。

なんだかんだあったが、ようやく休暇に入れたということだろうか。


いくつか先送りにしている懸案事項があるが、それはやはりもう少し休暇を満喫したあとにしよう。

俺は休む為にこの町に来たのだから!

やっと始まった休暇に俺は心を落ち着かせながら、面倒事を頭の隅に追いやった。

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