第64ページ vs邪教徒
「〈アースランス〉!」
詠唱をせず、魔法名だけで魔法を発動するこのやり方は、詠唱破棄と呼ばれる高等技術で、魔法名さえも言わないやり方は、無詠唱と呼ばれる超高等技術らしい。
初めての魔法が無詠唱という俺はおかしな部類だろう。
利点としては魔法の発動時間の短縮。
詠唱する時間が削られるのだから当然だ。
欠点としては威力が落ちること。
本来長い詠唱を行うことにより、魔法のイメージを明確化し、威力を底上げしている。
それをしないのだから威力が落ちるのは仕方ない。
だが俺は今、威力よりも発動速度を重視し、魔法を使っている。
それこそ畳み掛けるように。
「〈アイシクル〉!〈ファイアーボール〉!〈ウインドアロー〉!」
使っているのは初級呪文ばかり。
当たった所で大したダメージにもならない。
何故俺が今そればかりを使っているのかと言うと。
「くぅ!ちょこざいなっ!」
この老人に召喚術を使う時間を与えないためだ。
召喚術は通常の魔法よりも行使するのに時間がかかる。
それは異なる空間を繋ぐ。
使役している魔物に呼びかける。
自らが指定した場所に召喚する。
この一連を一つの術として行なわなければならないからだ。
それには多量の魔力と、集中が必要になる。
どうやらこの老人が契約できる魔物はAランクが最高のようなので、呼ばれたところで敵ではないのだが、今回は時間短縮に重きを置いている。
わずらわしい魔物共を呼ばれたらめんどくさい。
「じゃが!儂本人が弱いとでも思うたか!!ぬぅえい!!」
言葉通り、この老人は決して弱くない。
俺の放つ魔法も初級呪文とはいえ、気を引く程度にしかならず、初級以上の魔法を連続で放つ隙もない。
そんなことをすれば、この老人は何かしらのアクションを取るだろう。
「我が神よ、その力を、破壊の力の一端をここに!〈神の怒り〉」
「ッ!?」
老人から放たれた黒い光が俺目掛けて飛来する。
咄嗟に回避すると、先ほどまで俺が立っていた場所に命中。
音もなく一瞬にしてその場を削り取った。
「おいおい…」
「我が偉大なる神の力。とくと見るがいい!」
放たれる無数の光。
当たれば怪我では済まないだろう。
魔法で防御はできるだろうが、それをしてしまうと持久戦になってしまう。
俺とあの老人の魔力ではあちらの方が上なのだ。
時間もかかるし却下。
攻撃あるのみ!
「踊れ〈水蛇〉」
生み出された水の蛇は、老人へと向かう。
が、たどり着くまでに黒い光によってかき消された。
「チッ!」
このままでは山が穴だらけになってしまう。
―・―・―・―・―・―
サメドラ・ヴィジャーヌ 73歳 男
種族:人族
HP:6000
MP:24500
魔法属性:闇・火
<スキル>
闇属性魔法、火属性魔法、召喚術、暗黒魔法、精神操作、MP回復速度上昇
<称号>
「破壊神の下僕」、「邪悪なる教徒」、「狂信者」
<加護>
「破壊神の加護」
―・―・―・―・―・―
相手の魔力に干渉され、空間魔法で飛ばすことはできない。
耐久戦はなし。
やはりここは難しいことは考えずに、攻めて攻めてせめまくる!
「神よ!我が願いを聞き届けたまえ!」
「うるさい!」
魔法による魔法の相殺。
魔力は向こうが上だが、どうやら発動時間ではこちらの方が上なようだ。
飛び交う魔法。
徐々にだが、俺の魔法の数が、サメドラの魔法の数よりも上回り始めた。
「馬鹿なっ!?」
どうやらあの黒い光は、威力の調整ができないようで、どんな魔法に対しても同じ威力でかき消す。
そして、一度何かに当たればその威力に限らず、そこで消えてしまうため、相殺はそれに気づいてからは楽で仕方なかった。
「残念だったな。どうやら俺の勝ちだ」
「馬鹿な!有り得んっ!ルベルベン様の力が負けるなど、有ってはならぬ!認めぬぞっ儂は認めんっ!」
「お前が認めようと認めまいと、これが事実だ」
「馬鹿なっ!儂を誰だと思うとるっ!ルベル教団枢機卿なるぞっ!」
「お前の魔力量は確かに驚異的だった。魔神の力なんぞ使わず、普通の魔法を使っていたら…負けていたのは俺だったかもな」
それは事実だ。
魔神の力は反則級の威力を誇っていたが、それだけだった。
ほかの多彩な魔法を使われていたら、追い詰められるのは俺だっただろう。
「馬鹿な…そ、そうだ!お主ルベル教団に入らぬかっ!?お主程の逸材歓迎するぞっ!」
「悪いが俺は、神を信じることはない」
この世界には神が実在する。
だからと言って、その神が何をしてくれるというのか。
地球にいたときから変わらない。
俺は神に頼りはしない。
「自分のことは自分でする。子どもじゃないんだからな」
笑って言ってやると、サメドラの顔がまるで茹でたように赤くなった。
何か言葉にならぬ叫びを上げている。
「何言ってるかわからんよ。じゃあな、ダメ大人」
一閃。
サメドラの首が胴体と離れる。
思念体ではなく本体であることも確認している。
町の方を見ると、暴れていた召喚獣たちも消えたようだ。
「ふぅ」
と一息ついた時、それは起きた。
確実に殺した筈のサメドラの死体が、震え始める。
「…なんだ?」
まるで誰かに揺さぶられているかのようにガクガクと激しく揺れる死体。
と、急に震えが止まった。
次の瞬間。
何かが死体から抜け出し、町の中心へと飛んでいった。
「あの方向は…」
それは今なお、匣が置いてあるはずの方向だった。
黒葉周 17歳 男
冒険者ランク:B
HP:10500
MP:7800
魔法属性:全
<スキル>
格闘術、剣術、槍術、棒術、弓術、刀術、棍術
基本六魔法、氷属性魔法、空間属性魔法、無属性魔法、神聖魔法、魔法陣術、暗黒魔法(new)、召喚術(new)
馬術、身体強化、魔力制御、完全回復、天足、覇気、看破、隠形、危機察知、魅了、罠解除、指揮
耐魅了、耐誘惑、耐幻惑
礼儀作法、料理、舞踊
<ユニークスキル>
天衣模倣、完全なる完結、全知眼、識図展開
<称号>
「知を盗む者」、「異世界からの来訪者」、「武を極めし者」、「すべてを視る者」、「竜殺し」、「下克上」、「解体人」、「誘惑を乗り越えし者」、「美学に殉ず者」、「魔の源を納めし者」、「全能へと至る者」、「人馬一体」、「無比なる測量士」、「翼無き飛行者」
<加護>
「創造神の興味」、「戦と武を司る神の注目」、「知と魔を司る神の注目」、「生と娯楽を司る神の加護」
 




