第63ページ アキホ防衛戦
「チッ!数が多いっ!」
何体目の魔物を倒したか、途中から数えるのをやめてしまった。
それほどまでに数が多い。
さすがにBランク以上の魔物は少なく、強い奴から片付けてはいるのだが、それでもD、Cランクは俺たちだけでは対処しきれない。
被害に遭っていない冒険者も参戦してはいるようだが、残念なことにあまり強力な人はいないようだ。
「なんなんだてめぇらぁ!!このクソ魔物がぁぁ!!!」
ドォン!!
「!?」
すぐそばで派手な音が聞こえた。
驚いてそちらを見ると、白い服を着て、赤い髪を振り乱しながらメイスを持って暴れている聖職者らしき人物が目に入る。
あれは一体なんなんだ。
「お?君は冒険者かい?」
「あ、ああ」
「ほう!なかなかの腕のようだな。ならここらへんは私に任せて他のとこに行ってやっちゃくれねぇかい」
俺の足元に横たわる魔物の屍を見ながら声をかけてくる聖職者の女性。
「わ、わかった」
「頼むよ。私はこの町の創造教会に勤めてるドンナだ。司祭をやっている。この騒ぎが落ち着いたら来てくれ、礼をする。もっとも、教会も壊されちまったから大したことはできないが」
…この人が司祭だと?
聖職者ってこんなだったか?
この世界の聖職者はこんななのか?!
ドンナ司祭は成人男性ほどの長さがあるメイスを軽々と片手で持ち、新しい魔物を見つけ走っていった。
返り血に染まった司祭服というのは恐ろしい。
「言われた通りここは任せて大丈夫そうだな。さて、俺は…」
識図展開を使用し、厄介そうな魔物の位置を確認する。
どうやらこの識図展開、力の大きさにより光点の大きさが変わるようだ。
便利だ。
新しく青く表示された光点の大きさがアステールに迫るほどなのは無視しよう。
あの方はそういう方なのだろう。
「ん?あれは…〈目標転移〉」
「うわっ!?」
「ビックリしたぁ…」
「よう、お前たち無事だったか」
「なんだお前かよ!驚かせんな!」
「あんた、空間魔法まで使えたのね…」
合流したのはCランクパーティー「草原の光」。
アキホまでの護衛依頼を一緒にし、その力や性格はわかっている。
「シュウさん、何故魔物がいきなり町中に現れたか知っていますか?」
「ああ、知っている。だが、その話は後にしてくれ。もちろん、手伝ってくれるよな?」
「え、手伝うって…何を」
「お前たちに頼みたいのは避難できていない町民の避難誘導兼護衛だ」
「…わかりました。ご助力させていただきます」
「草原の光」ならBランク一体程度ならなんとかなるだろう。
それにただ魔物を駆逐するよりも、こいつらには人助けの方が合っている。
「じゃあ、避難が済んでない地区に送るぞ。避難場所はアキホ伯爵家だ。場所はわかるか?」
「大丈夫です」
「よし。強力な魔物は粗方斬ったが、油断はするな」
「あとで説明はしてもらうからねっ!」
「草原の光」を飛ばし、俺は識図展開で魔物の位置を確認。
もう何十体と斬ったはずなのに減っている感じがしない。
「くそっ」
悪態を付いても改善はしないのだが、付きたくもなる。
と、ギースがこちらに向かってきているのが見えた。
真っ直ぐに俺の方へ走っているので何か用があるらしい。
「兄ちゃん!こいつらは召喚術で呼び出されてる!」
「召喚術?」
「ああ!術者を倒さないとキリがないぞ」
「なるほど…」
怪しいのはあの老人か。
となるとあの山だな。
「しかし、よくわかったな」
「伊達に長く冒険者稼業はやってねぇってことだな!」
ギースにはギースの物語があったってことだろう。
―・―・―・―・―・―
ギース 34歳 男
種族:人族
HP:9800
MP:40
魔法属性:土
<スキル>
格闘術、HP回復速度上昇、剣術、変則剣技、四足機動、咆哮、威圧、
<称号>
「喧嘩殺法」、「不屈の闘者」、「ギャンブラー」、「孤高の剣士」、「剣聖の弟子」、「野犬」
―・―・―・―・―・―
どういう戦い方をするのか一度見てみたいものだ。
「わかった。町を任せていいか?」
「おう!任せろ!」
俺はあの老人を叩くとしよう。
だが、ちょっとばかし魔力の消耗が激しいな。
回復が追いついていない。
これでは山に飛んだら魔力が切れそうだ。
魔法なしで勝てるかと言われたら少し厳しそうなんだけどな。
「何かお困りですか?」
思案する俺の背中にかかる知った声。
俺は笑みを浮かべながら振り返った。
「いいところに来たな、グード」
この国きっての商人が、こんな状況にありながらいつも通り笑顔で立っていた。
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グードに状況を説明すると、快くMPポーションを売ってくれた。
こんな状況だろうと商売をするところはさすがだ。
逆にグードが差し上げますとか言ったらそれこそ怖かった所だ。
タダより怖い物はないのだ。
MPを強制的に全快させると、俺はすぐ紅葉美しき山へと飛んだ。
あの老人がここにいることはわかっていたが、識図展開があって助かった。
おかげで探し回らずにすむ。
「おやおや、見つかってしまったかの」
「お前が召喚術者か?」
「いかにもそうじゃ。儂を倒せば召喚は終わるぞよい」
「そうか。なら倒させてもらおう」
「そう簡単には倒れぬよ。ほれ、追加じゃ」
言葉と同時に町から激しい轟音が鳴り響いた。
ここからは町がよく見える。
全知眼と識図展開を併用し、魔物を視る。
召喚されてたのは最低でも全長2mはあるだろう赤黒いトカゲだった。
合計で7匹。
―・―・―・―・―・―
[フレイム・リザード]ランクB
炎を吐く長大なトカゲ。
砂漠地帯に住み、水に弱い。
一匹で一つの森を焼き尽くせる程の力を持つ。
―・―・―・―・―・―
「お前、町を…」
「盛大に暴れるように命じてある。町が燃え尽きる前に儂を倒せるかのう?ほれ、ここにも追加じゃ」
途端、前方に魔法陣が現れたかと思えば町に現れたのと同じ、フレイム・リザードが3匹出現した。
それぞれが口から炎を吐き出す。
「チッ!水よ!」
詠唱する暇もない。
魔力を変換し、水へと変える。
力任せにフレイム・リザードの炎を消した。
一歩で近づき、三匹の頭を叩き斬る。
尻尾はまた生えるのかもしれないが、頭が生えることはない。
一瞬にして三匹の魔物は命を落とした。
「なぬ?」
「この山も、あの町も燃やそうとするか…お前には見えないのか?美しく色づく葉が、均整の取れた町並みが、和風の建築物の美が…わからないのか…お前は…美しくない!」
一部を除いて避難は完了しているようだ。
「草原の光」も魔物駆除に移行している。
忍部隊や、衛兵も出張っている。
ドンナ司祭も相変わらず暴れている。
アステールやギースも問題はなさそうだ。
任せていても大丈夫なのかもしれない。
だが、俺が我慢できない。
フレイム・リザードをサシで倒せるのは、アステールとギース、ドンナ司祭だろう。
三人がどれだけ頑張っても時間が足りない。
町には甚大な被害が出るだろう。
あの町は、地球の言葉で言うならば重要文化財だ。
町全体を世界遺産として登録しても文句は出ないだろう。
あの町には温泉もあるのだ。
それを、そんな美しい町を、燃やすだと?
「時間がない。さっさと死ね」
斬鬼の切っ先を老人に向ける。
最短で片付けてやる。
黒葉周 17歳 男
冒険者ランク:B
HP:10500
MP:7800
魔法属性:全
<スキル>
格闘術、剣術、槍術、棒術、弓術、刀術、棍術(new)
基本六魔法、氷属性魔法、空間属性魔法、無属性魔法、神聖魔法、魔法陣術
馬術、身体強化、魔力制御、完全回復、天足、覇気、看破、隠形、危機察知、魅了、罠解除、指揮
耐魅了、耐誘惑、耐幻惑
礼儀作法、料理、舞踊
<ユニークスキル>
天衣模倣、完全なる完結、全知眼、識図展開
<称号>
「知を盗む者」、「異世界からの来訪者」、「武を極めし者」、「すべてを視る者」、「竜殺し」、「下克上」、「解体人」、「誘惑を乗り越えし者」、「美学に殉ず者」、「魔の源を納めし者」、「全能へと至る者」、「人馬一体」、「無比なる測量士」、「翼無き飛行者」
<加護>
「創造神の興味」、「戦と武を司る神の注目」、「知と魔を司る神の注目」、「生と娯楽を司る神の加護」




