第62ページ 尋問
「ふぅ…さて状況を説明してもらえるか?」
俺が現れた瞬間、アステールと向き合っていた男は逃走を謀った。
しかし、敏捷性ではアステールに分があったようで後ろから追いつかれ、その鋭い鉤爪で押し倒されていた。
当然、反撃しようとするが襲撃者の半分を倒し終えたシュウに斬鬼を突きつけられ、更に自分の分を切り終えたギースまで近づいてきていた為に反撃を諦めた。
「説明と言われてものぉ。私らにもわからんのじゃよ」
シオンは重傷を負っているが、命に別状はないようだ。
当分は絶対安静となるようだが。
ギースはアタミ伯爵家に向かっている俺と爺さんを見ており、そののちに忍部隊と屋根の上を高速で移動する俺も見ていたようだ。
これは何かあると思い、俺たちを追うのではなく爺さんがいるであろうアタミ伯爵家に向かったそうだ。
隠密を使っていたのによくわかったなと思ったが、臭いでと答えられた。
何とも嫌な答えだ。
ここで起こったあらましを聞いたが、結局何もわからないことがわかっただけだった。
とりあえず神聖教国の狙いが分からない為リーダーに聞いてみることにしよう。
そう思って振り返ったのだが
「あ?」
手足を縛られ猿轡を噛まされてなお、男は笑っていた。
男の口がモゴモゴと動いたかと思うと、男の身体が体内から発光するように光が漏れ始めた。
口や目から光が迸る。
「なんだこれは?!」
「…おそらくは自滅用の魔法陣を仕込んでおいたのじゃろう」
周りを見ると、神聖教国の奴ら全員が同じ現象を起こしている。
魔法を視る目で見てみると、爺さんの言う通り、心臓になにやら魔法陣が刻まれている。
注視して視ると、それが神聖魔法の魔法陣であり、込められた術式は〈自戒〉であることがわかった。
「神よ、我が罪を許し給え」という文言と共に、発動する自殺の魔法のようだ。
「情報は渡さないということか…」
「これが彼奴らの怖いところじゃよ。神の為ならば殉教さえも厭わない」
「狂ってる」
「本人たちはそう考えておらんのじゃろうの。見てみぃ顔を」
確かに、身体の内から強烈な痛みが走っているはずなのに、その顔は幸福であるかのように笑みに染まっていた。
だが、その笑みは狂気を感じさせる怖い笑みだった。
既に俺にできることはなく、ただ光が男たちの身体を内側から分解していくのを見ているだけだった。
光が収まった時、その場には男たちが身につけていた物だけが残され、男たちの体は髪の毛一本残さず消滅していた。
「お主が気に病むことはない」
「ああ…わかっている」
これだけの力を持ちながら、結局何もできなかった。
敵の命が消えたことに落ち込んだりはしないが、それでも悔やまれることは確かだ。
むざむざ死なせてしまったのだから。
まだまだできないことはたくさんあるのだ。
もっと頑張らねばならんな。
「とりあえず神聖教国のことは今は、置いておこうかの。問題はこやつらじゃよ」
爺さんの視線の先にはこちらを物凄い形相で睨んでいる黒いフードの男。
どうやら名前はゲイルと言うようだ。
「目的は恐らく魔神の復活。じゃが、鍵が無ければあの匣は開けられぬ」
「後は鍵さえあればって感じだったぜ。一応空間魔法で隔離はしてきたがいつまで保つかはわからんな」
「そうか…さて、知っていることを吐いてもらおうか」
「ああ、いいぞ」
ゲイルはさっきの奴らと違って驚く程素直に話をした。
どうやらこいつらは邪神教徒らしく、目的は案の定、魔神の復活。
匣を開ける鍵はマジェスタ王国王家の血で、こいつらは何代か前の王の血を所持していたらしい。
しかし間抜けなことに衛兵の詰所に魔法爆弾をしかける際に、紛失してしまったらしく、あの時気まぐれで助けたゴロツキどもが所持していると思われここを襲撃。
結局ゴロツキたちは所持していなかったが、爺さんがいた為に予定を変更し、爺さんの血を鍵として使おうとした。
「魔神の復活と言うが、復活にはもう一つ必要であるはずじゃが?」
「力のオーブか?あれはまた別の話さ。くっくっ、ルベルベン様の心臓さへあれば復活には事足りる」
この言葉に爺さんは衝撃を受けたようだが、俺の疑問は別にあった。
「匣は既に取り戻した。鍵を使うこともできない。少々杜撰すぎやしないか?」
「くっくっ、それは確かに計算外だが、問題はない。計画を変えるだけさ」
ゲイルが笑いながら言い、俺が次の質問をしようと思ったとき。
屋敷からミッシーが全力で走ってきた。
「た、大変です!アキホの町内に多数の魔物が出現!強さはD~Bまでばらつきがありますが、冒険者ギルド、衛兵詰所が爆破されていたことにより戦える者が少なく、また教会が爆破されたことにより市民の避難も完了できていませんっ!」
その言葉に顔色を変えたのはアキホ伯爵だ。
すぐに避難場所をアキホ伯爵家とするように勧告を出し、血相を変えて走っていってしまった。
「……これが、お前たちの次の計画か?」
「くっくっ、そうだ。血を流せば流すほどルベルベン様の復活は早まる」
本当かどうかは定かではないが、マジェスタ王国王家の血を鍵としなくてもマジェスタ国民の大量の血があれば匣は開くそうだ。
更に、町を恐怖と怨嗟で埋めることにより魔神の力にもなる。
「お前たちも十分イカれてるよ」
俺の言葉はゲイルには届かなかったようで、くっくっと笑うばかりだった。
「爺さん、俺は行くぞ。あんたはここにいろ」
「頼んだぞい」
「ギースはどうする?」
「兄ちゃんに付き合うぜ」
「そうか…なら魔物と邪神教徒を見つけ次第殺すってことで」
「異議なし!」
「アステール、好きにしていいぞ。思いっきり暴れろ」
「グル」
戦意を目に宿らせ、アステールが頷く。
ギールもやる気十分といった感じだ。
俺も二人に頷くと、詠唱を開始する。
「我らは旅人。間を越え、人を超え、この身一つで空を繋げる。定める座は安寧とし、指し示すは神の力〈座標転移〉」
深淵の森からガイアに戻る時にベンが詠唱していたものをかなり省略して言ってみた。
長い詠唱だったため完全に覚えれるわけはない。
まぁイメージはしっかりしているので問題はないはずだ。
俺たちは戦場となっているであろう町中に飛ぶ。
狩りの時間だ。
黒葉周 17歳 男
冒険者ランク:B
HP:10500
MP:7800
魔法属性:全
<スキル>
格闘術、剣術、槍術、棒術、弓術、刀術
基本六魔法、氷属性魔法、空間属性魔法、無属性魔法、神聖魔法(new)、魔法陣術(new)
馬術、身体強化、魔力制御、完全回復、天足、覇気、看破、隠形、危機察知、魅了、罠解除、指揮(new)
耐魅了、耐誘惑、耐幻惑
礼儀作法、料理、舞踊
<ユニークスキル>
天衣模倣、完全なる完結、全知眼、識図展開
<称号>
「知を盗む者」、「異世界からの来訪者」、「武を極めし者」、「すべてを視る者」、「竜殺し」、「下克上」、「解体人」、「誘惑を乗り越えし者」、「美学に殉ず者」、「魔の源を納めし者」、「全能へと至る者」、「人馬一体」、「無比なる測量士」、「翼無き飛行者」
<加護>
「創造神の興味」、「戦と武を司る神の注目」、「知と魔を司る神の注目」、「生と娯楽を司る神の加護」




