第61ページ 地下水道の戦い?
時は少し遡り地下水道では。
「何をした」
「何、少し混乱を引き起こしただけじゃよ」
「混乱だと?」
「そうじゃ」
今のは確実に何かが爆発したような音だった。
それも一つではないな。
この町で混乱を起こす目的で爆発する場所…
わからんな!
そもそも町に何があるかを把握していない。
アタミ伯爵家が爆発している可能性はあるだろうか?
あるかもしれない。
この町の非常時対応は知らないが領主が無関係ということはないだろう。
脳内の地図でアタミ伯爵家を見る。
爆発しているかはわからないが、楽しい状況ではなさそうだ。
爺さんを囲むように赤い光点がある。
アステールやギースもその場にいるようだ。
何故ギース?と思いながらも青の光点だったので放っておくことにした。
敵味方をどのように判別しているかの検証もいりそうだ。
「悪いが時間がなくなった。話は場所を変えてからにしようか」
「そうやすやすと捕まると思うのかの?」
「そっちこそ、俺が何の準備もせず出てくると思うのか?」
「なんじゃと?」
「この空間は既に、俺の支配下だ」
天足でわざわざ派手に登場したのは、小細工に気付かせない為だ。
この世界の魔法は遠隔発動ができないと言われている。
魔法陣などを使えば別だが、基本は個人差があるものの自分の周囲でしか発動できない。
それは何故か。
魔法は魔力を使っているからだ。
当然のことだと思うかもしれないが、自分の魔力しか使っていないならその魔力が届く範囲でしか魔法が使えないことも当然だろう。
例外は、自然に在る自分以外の魔力を使って魔法を発動する場合や、何らかの媒体を使う場合。
では、逆に言えば自分の魔力が届く範囲であるならばどれほど距離が離れていようとも魔法を発動できることになる。
もちろんそれには人の数倍の魔力が必要になるが、俺の魔力とスキルはその力技を難なく実現させる。
「象るは不可視の縛り縄、自由を求め束縛を〈風の戒め〉」
風属性オリジナル魔法〈風の戒め〉。
風により敵を縛る魔法で、発動中は力技で解かれてしまっても何度でも風が纏わりつくという便利な魔法だが、魔力消費量が多いという欠点がある。
遠隔発動をしなければ相手に向かって投擲しなければならず、避けられる可能性が増えるため、空間を満たしてからすることが前提となる。
更に、発動中は常時魔力を消費するため、俺のMPでもなかなかきつい為あまり連発はできない代物だ。
それを一気に3本発動したため、それなりに魔力が減ってしまった。
「ほう!遠隔発動とはやるのぉ。で、何故儂にはせんかったのじゃ?」
「お前実体じゃないだろう?」
「…よくわかったのぉ」
「俺の目は特別製でな」
この俺が斬鬼を向けているまとめ役らしき老人は、思念体と呼ばれる存在であることが視てわかっている。
本体は別の場所にいるはずだ。
「さて、では儂は消えるからのぉ。精々頑張るんじゃの」
そう言うと老人の姿が消えていく。
だが
「俺の目は特別製だと、言わなかったか?」
普通なら見えない魔力も視認することが可能な全知眼により、魔力の軌跡がはっきりと見えた。
それと地図を重なり合わせると、どうやら本体はアキホ近郊の山中にいるようだ。
「天上の湯」の露天風呂から見えたあの紅葉の綺麗な山だな。
おそらくこれからアキホで起こることを見学するつもりだろう。
地図上の赤い光点をマーキングし、居場所がわかるようにしておく。
「さて、お前たちをどうするかな?」
「シュウさん!」
「マテウスか。何か縛る物持っていないか?」
「あります」
あるのか。
さすが忍。
…いや忍か?
まぁいいか。
「というかこんな簡単に捕まえれたんだが、忍部隊で捕まえられなかったのか?」
「いえ、あなたが規格外なだけだと思いますが」
失礼なことを言うな。
まぁオリジナルの遠隔魔法に咄嗟に対応出来る奴なんてあまりいないか。
「さて、じゃこいつら任せてもいいか?伯爵家が少し大変なことになっているみたいだ」
「!?分かりました。お願いします」
「ああ」
とは言えここにマテウスだけ残していくのは少し心配だ。
「識図展開」を使えば正確な場所もわかる。
使ってみるか。
「我の求めし者よ、空間を超え、来たれ我が下に〈人的引寄〉」
識図展開により把握していた場所から、二人を強制的にここへと転移させる。
「なっ!?」「!?」
いきなり場所が変わった二人はかなり驚いているようだ。
まぁそれはそうだろう。
「悪いな、ダスカス、カリア。緊急事態なんで強制的に転移させてもらった」
「「…」」
あまりのことに声も出ない二人。
マテウスは苦笑いだ。
「マテウス、あとで説明頼むな」
俺が言うとマテウスは苦笑しながらも頷いてくれた。
二人はキョロキョロと辺りを見回して、匣から漏れている禍々しい煙を見てギョッとしたりしている。
そうか、そう言えばそれがあったな。
「んーこれどうすればいいんだろうな?下手に触って取り返しのつかないことになっても困るし…とりあえず視てみるか」
―・―・―・―・―・―
【神器】魔封の柩
品質X、レア度10、創造神カイデルベルンが創りし神器。
絶大な封印の力が宿る。
現在は魔神の心臓が封印されている。
状態:開封寸前
鍵となるモノを使用すると開いてしまう寸前の状態。
既に魔神の怨念が漂い漏れている。
―・―・―・―・―・―
「これは想像以上にヤバいのではないか?」
どうすればいいのかさっぱりわからん。
とりあえず出来る範囲の手段は取って、アタミ伯爵家に向かうとするか。
「この空間は我の支配下、我は全てを拒絶する〈空間隔離〉」
〈空間隔離〉は、その空間を一時的に切り離し、空間魔法師以外からの干渉をできなくする魔法。
例に漏らさず魔力消費量は多いが、とやかく言っていられる状態ではない。
「これで一時凌ぎにはなるだろうか?」
一抹の不安を覚えながらも、マテウスにあとを頼み、復活したカリアに迫られながら、俺はアタミ伯爵家へと転移した。
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転移したのは、地図で確認した所アタミ伯爵家の中庭だ。
目の前にはローブを纏った一括りの集団と、倒れたシオンや兵たち、その中には何故かいつかのゴロツキの姿もあった。
爺さんを挟むように向かい合う一対の組み合わせ。
ローブの男とアステールに、ギースと先ほど捕らえた奴らと同じ集団であろう男。
少し離れた位置にアタミ伯爵とその護衛であろう兵もいる。
状況がまったくわからない。
だが、時間はそれほどないだろう。
町の方で煙が三箇所上がっているのが見える。
だから
「まぁとりあえず…お前ら全員斬ればいいのか?」
斬鬼を抜き、大胆不敵に言い放った。




