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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第三章 休暇中の大騒動「燃ゆる温泉街」編
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第60ページ 戦場

引き続き別視点でお送りします。

「お主…」

「爺さんどっかで見たことあると思ったら前国王だったんだな。まぁいいや。これどうにかしたら借金ちゃらにしてくれるかい?」


自分の命は金貨五枚だと言われてしまうようで思わず笑ってしまう。

マジェスタ王国の前国王にこんな口を聞ける奴は一体何人いるだろうか?


「…いいじゃろう」


そう答えると、ギースは不敵に笑った。

SSランクの自信か、はたまた自負か。

負けるとは微塵も思っていなさそうだった。


「チッ野犬が来たか…だが数の利はこちらにある。お前たち何をしている!さっさと騎士たちを片付けろ!」

「「「「はっ!」」」」

「舐めた口をっ!やれるものならやってみろ!」

「もちろんだとも!」


シオンの剣と襲撃犯リーダーの男の剣が甲高い音を立てて打ち合わさる。

もしこれが純粋な剣技の試合であるならば、あるいはシオンの方が上であったかもしれない。

だが、これは試合ではなく実戦。


シオンも実戦経験がないわけではないが、男は教団の実働部隊に長くいる。

圧倒的な経験の差が勝負を分けた。


「ぐぁっ!」

「シオンっ!」


男の剣が袈裟懸けに振り下ろされる。

ギリギリで身体を引き、致命傷を避けることができたのは流石と言えるだろう。

しかし、もはや戦うことはおろか立つことさえ難しい程の怪我を負ったことは事実。


教国の男は前王に向かって走る。

それに前王は反応できない。

ギースはもちろん視界の端に捉えていたが、動こうとはしない。

なぜなら


「グルルゥゥゥ!!」


男と前王の間に割ってはいる影。

翼を大きく広げ、前脚を上げて最大限の威嚇をする鷹と馬の半身を持つ存在。

Aランク魔物、ブラックヒッポグリフ。


「この獣がっ!」

「グルゥ」

「アステール!?」


シュウの相棒であり、伯爵家でお留守番をしていたアステールが中庭が騒がしいと様子を見に来て状況を把握。

フェルナデンを守る為に立ちはだかったのだ。


「へっ、さすがあの兄さんの相棒だ、そっちは任せたぜ」

「クルゥ」


一人と一匹は、それぞれ目の前の相手に集中する。

アステールにとって相手は僅かではあるが自分よりも実力が上。

死力を尽くす戦いになる。


一方ギースの方は余裕である。

黒マントの男は確かにそれなりの力を持っているように思えるが、自分にとっては敵足りえない。

しかしながら、前王の護衛騎士達はそれぞれ厳しく、現状を維持できているのも精一杯という所。

自分が時間をかけてしまえばどこかが抜けられてしまうため、速攻で勝負をつけ援護に回らなければならない。

こちらも別の意味でキツい戦いになるだろう。


しかし、一人と一匹は、お互いの状況だけは無視した。

それは信頼ではない。

彼らの間には一夜の付き合いもないのだから。

ただ単純に、それぞれがこの程度の状況なんとかせねば笑われると一人の男の顔を思い浮かべていたからだ。

恥じるような戦いをするわけにはいかない。

そしてそれをお互いはわかっていた。

だから、敢えてお互いだけは無視した。

あるいはそれは信頼と呼べるものかもしれなかった。


フェルナデンを中心に二つの大きな戦いが始まろうとしていた。

その空気に呑まれたのか、フェルナデンや少し離れた位置にいるアタミ伯爵らは、一言も発することができないでいる。


だが、その空気もまた唐突に終わりを告げる。


ドォォォォン!!!!


「今度はなんじゃ!?」


町から響く大きな爆音。

それは一つではなく、三つの音が重なって聞こえている。


「ククク」


フェルナデンやアタミ伯、教国の者が動揺を見せるなか、黒マントの男が哂い始めた。

それを、向かい合っていたギースが訝しげに見る。


「何がおかしいんだ?」

「クックク。教えてやろう。今の爆発は町の主要な箇所三つにしかけた魔道具が爆発した音だ。一つは冒険者ギルド、一つは衛兵詰所、そしてもう一つは、教会だ!」

「なんじゃと!?」


教会は何かあった時の町民避難場所でもあった場所だ。

それは、教会にいる司祭や修道女たちが回復魔法を使える為。

つまり今、避難場所はおろか、既に避難していた町民、そして回復手段が失われたということなのか。


「…この町に病院はあったよの?」

「あるにはありますが、教会である程度の治療を施してから病院で休ませるということが一般的ですので、病院に回復魔法を使える者が果たして何人いるか…」


この世界の病院は、入院の為や、あるいは病気のためというものだ。

一部の例外を除いて病気は回復魔法で治すことはできない。

それ故、病院では回復魔法よりも薬学を修めているものが多くいる。

それは仕方ないことで、もちろん薬学知識が怪我に使えないわけではないが、回復速度では圧倒的な差がでてしまう。


フェルナデンとアタミ伯爵は悔しそうに歯噛みした。


と、そこでまた新たな乱入者が現れる。

その人物は、どういった方法かその場に突然現れた。


「…おいおい、こりゃ一体どういう状況だ?」


現れた者にとってその場は正に混乱であった。

前王とアタミ伯がいる場所に空間魔法で飛んだかと思えば、そこには謎の集団が抜剣しており、更には先ほどまで自分が相対していた者たちの仲間と思わしき人物が、こちらも抜剣した状況でギースと向かい合っている。

アステールは魔族と相対していた時のように闘気を滾らせているし、シオンは血を流し倒れている。

何がなんだかわけがわからない。


「まぁとりあえず…お前ら全員斬ればいいのか?」


新たな殺意が、場に満ちた。

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