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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第三章 休暇中の大騒動「燃ゆる温泉街」編
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第54ページ ギースという男

酒場に入った俺たちは、朝したような重い話はまったくなしで気楽なおしゃべりに興じていた。

爺さんや、シオンの話はだいたい苦労話で、そんなこと言っていいのかというような王宮の失敗話などだった。

笑っていいのかわからないが、本人たちは楽しそうなのでよいのだろう。


そんなたわいもない話をしているとき、俺は酒場の中である一画が騒がしいのに気付いた。

一つの机を囲み、男たちが賑わっている。

時折拍手のようなものが聞こえてきて、なんだろうとそちらを見ていると、その視線を追って爺さんも気付いたようじゃ。


「なんじゃろうな?」

「さぁ?」


俺に聞かれてもわからない。

ちなみにシオンは酔って寝ている。

それでいいのか王宮騎士。


「見に行ってみるかのぉ」

「おい爺さん!」


この人は自分の立場というものを少し理解したらどうなんだ!?

それでなんで俺がこんな心境にならねばならない!?

お前の仕事だろシオン!


腹立ちまぎれにシオンの頭をはたいてみるが、ムニャムニャと口を動かしただけでまったく起きる気配はない。

この野郎…


そうこうしている間に爺さんは人ごみの方へと行ってしまったために、放っておくわけにもいかず俺もそちらに行く。


「どうやら飲み比べのようじゃな」

「飲み比べ?」


爺さんの言葉通り、そちらで男二人による飲み比べが行われていた。

一人はスキンヘッドで50代くらいの腕がぶっとい男。

戦闘職ではなく大工とかそこら辺の人だろう。


もう一人は、傭兵風の男。

くたびれた服装をしているが、粗野な見た目とは裏腹に、どこか気品のようなものを感じさせ、金の短髪が逆立って、無精ひげを生やしている。

30代後半といったところだろうか?


どちらも顔が赤くなっており、今までどれくらい飲んだのかを象徴するように足元には空き瓶が転がっている。

その量は10や20ではない。

すごいな。


「すごいのぉ。しかし、あの右の男…どこかで見たような気がするのぉ」


右というと傭兵風の男のことだ。

爺さんが見たことあるってのは碌な縁ではなさそうだ。

それにあの男、先ほどあった女とは違い強者のオーラがある。

おそらく俺と同格。

上ということはないと思うが。


見ているうちに決着がついたようだ。

傭兵風の男がドンと音を立てて、テーブルに突っ伏した。


「ワハハハ!儂の勝ちのようだな小僧!」


そう言って大工風の男は手に持っていた瓶を仰ぐと、大きな音を立て後ろに倒れた。

これは両者ノックダウンで引き分けだと思うのだが、最後の瓶を飲んだ分、大工風の男が勝ちになるらしい。


観客からは歓声と拍手が飛ぶ。

だが、二人はまったく起き上がる気配はなく。

大工風の男は、連れらしき人たちに背負われて帰って行った。

それでその場にいた人も頃合いだと続々引き上げていく。


だが、傭兵風の男はどうやら一人で来ていたらしく、いつまで経ってもテーブルに突っ伏したままだ。

そういえばこちらにも一人寝ているのがいたな。


そちらを見てみると、先ほどと変わった様子はない。

これ俺がおぶって帰らないといけないのか?

アステールに乗せたくはないし、爺さんに背負わせるわけにはいかんだろうし…


「んー?あー…」


俺がシオンを見て悄然としていると、どうやら傭兵風の男が後ろで起きたようだ。

顔をあげ、キョロキョロとしている。

さっきまで酔いつぶれていたのに今はそんな素振りを見せない。

回復早いな。


「…あーちょっとそこのお兄さん」

「俺か?」

「そうそうお兄さん。俺はここで飲み比べをしていたはずなんだが、勝敗はどうなったか知っているか?」

「お前の負けだ」

「あーマジか!!」


俺がそう告げると男はまたテーブルに突っ伏してしまった。

この世の終わりだと言わんばかりに頭を抱えている。

どうしたのか気にはなるが、そんなことよりシオンをどうするかが問題だ。

意識のない男を負ぶって帰るなんてしたくない。



「ちょっとあんた、起きたなら早く飲み代払っておくれよ」

「あー…それな…」

「なんだいあんた!まさかお金がないなんて言うんじゃないだろうね!?」


男の目が所在なさげに揺れる。

これは確実に金がないな。


俺が呆れて見ていると、男と目が合った。

すると、男はにやーと笑いながら近づいてくる。

俺は一歩下がる。

だが、そんなことお構いなしに男は俺の肩に腕を回してきた。


「兄さん、お金貸してくんない?」

「断る」


間髪入れず告げると、男は一瞬驚いたようだが、今度は床に膝をついて頼んできた。


「頼む!金無いんだ!この通り!」

「おいバカ、やめろ!だいたい俺がお前に金を貸す道理がないだろう!」

「そこをなんとか!!」

「却下だ」


話にならない。

そう思って俺が目線を外すと、外した目線の先には、面白そうな顔をした爺さんがいた。


「ほっほっ、よいではないか。ここで会ったのも何かの縁じゃて、どれ私が貸してやろう。いくらじゃ?」

「ほんとか!?」

「おい、爺さん」

「よいよい。ほっほっ」

「助かる!いやー爺さんあんたいい人だな!」

「ほっほっ。よく言われるわい」


嘘をつけ。

まだ二日の付き合いだが、絶対にいい人とは言われてないと思うぞ。

いい性格してる人とは言われてそうだ。

腹は真っ黒だろうな。


「ありがてぇ。爺さん名前は!?」

「私か?私はそうじゃのぉ…フェルとでも呼んでくれ」

「フェル爺さん!恩に着るよ!俺はギースだ、よろしく!」


爺さんとギースと名乗った男はしっかりと握手をしている。

アホらしい。


「うん?フェル爺さん、あんたの顔どっかで見たことあるな」

「そうかの?似た顔ではないかのぉ。。ほっほ」


うん?

さっき見た顔だと言わなかったか?

そう思って爺さんを見ると、意味ありげな視線を向けられた。

どうやら何も言うなということらしい。

へいへい。


「おお、そうじゃ!紹介しよう、私の護衛のシュウじゃ」

「おう、兄さん!ギースだ、よろしく!」


いつあんたの護衛になったよ。

差し出された手を仕方なく握る。


「シュウはこう見えてランクB冒険者なんじゃよ」

「へーそうなのか!若いのにやるなぁ。俺も冒険者なんだぜ」

「ほう?」

「これでもSSランクなんだぜ!」


その一言にその場が凍った。

俺と、いきなり始まった談笑に付いていけず見守っていた女将さんが驚いて目を見張る。

爺さんは面白そうに笑っていた。

シオンの寝息だけが聞こえている。

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