第5ページ チート
ふむ。よくわからないのがいくつかあるな。
「カードに記載された情報でわからない箇所があればその記載されている名前を触ると詳細がわかりますよ」
考え込む俺を見てマインスが声をかけてくる。
この人は心も読めるのだろうか、と考えたが審知眼で視てこの人自身わからないものが多かったからだろう。
そう納得して、俺はわからない箇所に触れてみる。
―・―・―・―・―・―
天衣模倣
視たものすべてを再現することが可能となるユニークスキル。
完全なる完結
体得したものを十全に使うことが可能となるユニークスキル。
全知眼
すべての魔眼系スキルを総括したスキル。
あらゆるもの詳細を視、過去現在未来すべてを見通す。
―・―・―・―・―・―
疑問が解けたな。如意珠を使ったときの通常では有り得ない威力。あれはこの「完全なる完結」というユニークスキルの作用か。
つまり俺は「天衣模倣」により視たものすべてが使えるようになり、「完全なる完結」によりそれを更に十全に使える。
例えば、かけだしの剣士の動きを見ると剣術を覚えるが、そこから訓練などせずに最高の剣士としての剣術が使用可能ということだ。
なんというチート能力。
さっき「審知眼」を視たことにより「天衣模倣」だけなら「審知眼」を覚えるところを、「完全なる完結」で総括スキルの「全知眼」を身につけたと。
というかこの「全知眼」だけでもチートだな。
―・―・―・―・―・―
「知を盗む者」
他者の知を盗む者に与えられし称号。
「異世界からの来訪者」
異世界から来た者に与えられし称号。HP,MP,身体能力などに補正がかかる。
「極致に至る者」
極致に至ることができる者に与えられし称号。
「武を極めし者」
武術を極めた者に与えられし称号。身体能力に補正がかかり、武具の性能がわかるようになる。
「すべてを視る者」
すべてを視ることができる者に与えられし称号。知力に補正がかかる。
―・―・―・―・―・―
俺が元の世界で見て覚えた技術が、この世界にきて「完全なる完結」により極めた状態となり、「武を極めし者」なんて称号がついたのか。
いやはや、我が事ながら反則だな。
加護という所には何も書かれてないが、これは恐らく神様系のアレだろうな。
この世界にはほんとに神様がいるってことか。
来たばかりだから空白なのは仕方ないな。
「見せてもらえるか?」
俺が自分のカードを見て黙っていると辺境伯が声をかけてくる。
そこで俺は全部を見せるかどうか迷うが、今更のような気がしてありのままを見せることにする。
今の俺ならここから逃げ出すくらいどうにでもなりそうだし。
「どうぞ」
そう言って俺がカードを渡すと辺境伯が受け取り、他の3人もそっと覗き見る。
「これは…」
「ほう…」
「まぁ…」
「っ!?」
4者4様のリアクションではあったが、みな驚きの感情を表している。
辺境伯がスキルと称号の説明を求めてきたので説明すると、その驚きは更に深まったようだ。
「異世界人とはこういうものなのか?」
「いえ、俺が特別なんだと思いますよ」
「だろうな…こんなスキル見たこともないわ」
辺境伯は若干呆れているようだ。
それはそうだろう。自分でも呆れているほどなのだから。
「まぁそれは置いといて…お前さんをどうするかな?」
「どうするとは?」
「普通に娘を助けてくれた礼だけするつもりだったんだが…こんなものを見てしまうとな。スキルも相当だが、HPとMPも尋常ではないぞ」
どうやら俺のHPとMPは一般人レベルを超えているようで、この数値は王国騎士団長や魔導総帥などと同値。
その二人にしても、どちらか片方が抜きん出ている状態で二つの数値がここまでとなると規格外というか呆れるしかないらしい。
「それに魔法属性もですわ!全属性なんて私一人しか知りませんわ!」
魔法属性とはそれぞれの得意とする魔法の属性で、この世界には、火、水、風、土、氷、雷、光、闇、の基本8属性があり、滅多にいないが希少属性というものも確認されているらしい。
また、それとは別に無属性と言われる属性もあるが、これはどちらかと言われると魔力とは関係なく気力や波動とかいった類のものらしい。
俺の全属性はすべての属性が扱えるというもの。
さすがに希少属性が扱えるかはわからないが、まぁ扱えるのだろう。
普通魔法属性というのは多くても3つか4つらしく全属性というのは非常に珍しい。
いないわけではないようだが。
「もう一度、お聞きしますが…どうするとは?」
「どうもできんのだがな」
辺境伯はここでやっと笑みを浮かべこちらを見る。
「ここで俺がどうすると言って…従うような男には見えんしなお前」
「…よくおわかりで」
そう。
例えばここで俺を強引に自分の家臣にしたり、ましてや俺に何かしら危害を加えようというのなら黙ってやられる俺ではない。
さすがに楽にとはいかないだろうが、自分の命だけは守り抜いて手痛いしっぺ返しを食らわせることはできるだろう。
「それと、その白々しい敬語もいらんぞ。俺も固っ苦しいのは苦手だしな」
「…わかった」
確かに敬語は意識していて使っていたが、それを見抜かれていたとは驚きだ。
どうやら少しこの人を舐めていたようだ。
もちろん、敬意をもってタメ口にさせていただく。
「で、お前さんこれからどうしたいんだ?」
「さて…強いてあげるなら色々なところを見てまわりたいな」
「…は?」
俺の一言にその場にいた全員が呆気にとられたように目を丸くする。
それに苦笑しながら言葉を続ける。
「俺はこの世界を見て廻りたい。この世界は面白そうだ」
そこで俺はニヤリと笑う。
そう。
この世界は俺を退屈させないだろう。
まだ見ぬ景色や魔物との戦い。
俺の知らない場所がたくさんある。
なぜ俺がこの世界に来たのかわからない。
だが、それは追々考えるとしよう。
この世界には、俺の知らないものがたくさんある。
俺の一生をかけてもそれら全てを見ることは叶わないだろうが、この世界は、俺に退屈を味わわせることはない。
「…そうか」
辺境伯はそう言って笑った俺に、始め呆れを次いでどこかホッとしたように最後にまた面白そうに笑った。
どうでもいいがこの人はこういうニヤリと笑った顔がすごく似合っているな。
「なら、冒険者にでもなるといい」
「冒険者?」
「ああ。この街にも冒険者ギルドってのがある。そこに登録するといくつかの義務はできるがあらゆる面でお前さんにとってメリットになるだろう」
少し待てと言って、辺境伯はソファから立ち上がり、窓辺にある執務机からレターセットと羽ペンを取り出し何やら書いている。
「これをギルドの受付に見せるといい。いわゆる紹介状というやつだな。まぁ紹介状なんぞなくても登録できるのだが、お前さんはレアケースだから念には念をというやつだ」
俺はありがたくそれを貰い受ける。
冒険者になることがもはや確定しているようだがメリットであるなら受けるに吝かではない。
説明を聞いて嫌だったらそこで辞めてもいいのだ。
「宿はどうする?ここに泊まってもいいが?」
「あー悪いんだが、金を少しもらえるか?こんな大きい城だと少し居心地が悪い」
「わかった。娘を助けてもらったのだ。元々礼はするつもりだった。報奨金と、これから冒険者になるなら必要になる物を売っている店への紹介状をいくつか用意しておこう」
「それは助かる」
何しろ俺はこの世界のことを何も知らないのだ。
お金を少しもらえれば僥倖だと思っていたが、ありがたい。
「では、ここらで解散とするか。このあと仕事に戻らねばならんと思うと嫌になるが、今日は面白いものが見れた。またお前さんに会うのを楽しみにしているよ」
辺境伯は最後にもう一度ニヤリと笑ってからマインスを伴って部屋から出て行った。
マインスもこちらを面白そうに見てからエルーシャに軽く目配せして出て行く。
「ではクロバ殿、報奨金などを持った者が参りますので少しお待ちください。馬車の用意もこちらでいたしますのでその馬車に乗り冒険者ギルドまでどうぞ」
エルーシャが声をかけてくれ、報奨金を持った人がくるまでまたララと話して時間を潰した。
ララは俺がここに泊まらないのをひどく残念に思っていたようだが、しばらくはこの街にいると思うのでいつでも会えると言うと嬉しそうにしていた。
その後俺は報奨金と紹介状を受け取り、ララとエルーシャに見送られながら、冒険者ギルドに向かった。